占い師とウシ模様の猫

後藤 蒼乃

プロローグ

 孤島にある、とある小国【ニヒルフィト】


 その日、ニヒルフィトは嵐にみまわれていた。

 木々は風で大きくしなり、収穫間近の葡萄は実をたくさん落とした。

 国を囲む海は大荒れ、高波が岸壁に強く打ち付けた。


 国王の住む白亜の城にも、容赦なく雷が落ちた。


 城の地下室では、三日三晩、呻き声が響き続けていた。

 床は地下水で濡れ、壁は湿気でカビが発生し、異臭が立ち込めていた。


 王に仕える占い師、セレナミアは、身重の体で地下の牢獄に閉じ込められていた。

 彼女は、この薄暗い中で産気づき、今まさに子を産もうとしていた。

 横たわる簡易のベッドは錆び付き、彼女が動くたびに軋む音を立てた。


 王妃つきの侍女の一人、イザベラは、三日目になって地下牢にやって来た。

「まだなの? 随分とかかること」

と、苛立ちを隠しきれない顔で、投げつけるように言った。


「頭は見えているのですが、へその緒が絡まっていて、難産になっております」

 医官は冷たい声で言った。


「早くして」イザベラが急かす。


 医官は、鉗子を手に取り、全開となった子宮口に入れ、胎児の頭を挟んで引っ張った。セレナミアは、怒号のような呻き声を上げた。


 赤子はようやく外へ出て、初めての外気に驚いて大きな産声を上げた。


 ラピンラピンの誕生である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る