大丈夫の魔法
sui
大丈夫の魔法
ある夜、霧のように柔らかな月明かりが森を包んでいた。
小さな少女は、重たい心を抱えて星の下を歩いていた。涙はもう出ず、声も出せず、ただ世界が灰色に見えていた。
そのとき、森の奥から一匹の白いフクロウが舞い降りた。
フクロウは少女の肩にとまり、静かにささやく。
「大丈夫。」
たったそれだけの言葉が、胸の奥で灯りのように広がった。
不思議なことに、少女の足元にあった影が淡い光へと変わり、冷たい風がやわらかい春の匂いを運んできた。
フクロウは言う。
「大丈夫という言葉には、小さな魔法が宿っている。未来を治す力ではないけれど、今のあなたを抱きしめる力がある。」
少女はそっと目を閉じ、深く息を吸った。
その瞬間、胸の奥にかすかな温もりが芽生え、遠くで夜明けの気配がささやくのを感じた。
フクロウは空へと舞い上がり、薄明の空に消えた。
少女は振り返らず、ただ歩き続ける。足元に咲く見えなかった花々を踏みしめながら。
そして心の奥で何度もつぶやいた。
「大丈夫。大丈夫。私は進める。」
それは小さな魔法だけれど、確かに世界を少しだけ、美しく照らしていた。
大丈夫の魔法 sui @uni003
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