EP 4

英才教育(物理)

世界樹の雫風呂が日課となり、両親からの並々ならぬ愛情(と規格外の投資)を受けながら、俺がアルマとして生を受けてから1年の歳月が流れた。

赤子の体にもようやく慣れ、ハイハイで家中を探索するのが最近の楽しみだ。前世の記憶があるおかげか、体の成長に合わせて言語能力も急速に発達し、ついにその日を迎えた。

リビングで遊んでいると、父リドガーと母マリアが俺を優しい眼差しで見守っている。俺は、その二人に満面の笑みを向け、覚えたての言葉を紡いだ。

「パパ、ママ」

その瞬間、時が止まったように感じた。

次の刹那、マリアは感極まった様子で俺を優しく抱きしめる。

「まぁ、アルマったら! もう『パパ』と『ママ』って喋れるようになったのね! なんて賢い子なんでしょう!」

「天才だ! まさに俺たちの息子だ! ガッハッハ! よく言ったぞ、アルマ!」

リドガーは天を仰いで歓喜の声を上げ、俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。その力加減は絶妙で、少しも痛くない。

二人にとっては、俺の初めての言葉が何よりのプレゼントだったようだ。

(よし、これで親孝行もできたな)

そんなことを考えていると、マリアが「そうだわ!」と何かを思い出したようにキッチンへ向かった。そして、小さな器を手に戻ってくる。

「さぁさぁ、アルマちゃん。今日から離乳食ですわよ。たくさん食べて、もっと大きくなってね」

彼女がスプーンですくったのは、鮮やかな深紅色をした、滑らかなペースト状の何かだった。見た目はベリー系のジャムのようだが、そこから発せられる尋常ならざるエネルギーのオーラに、俺の本能が警鐘を鳴らす。

「ふふっ、特別にドラゴンの心臓を丁寧にすり潰して、ペーストにしたの。栄養満点よ」

「ガハハハ! そのために父さんが頑張って狩って来たんだぞ! 強くなるためにはな、強いものを食うのが一番だからな!」

(……ドラゴン? 今、ドラゴンと言ったか?)

聞き間違いかと思った。ドラゴン。それは地球では伝説上の生き物。だが、この世界では「狩りの対象」らしい。しかも、その最強部位である心臓を、こともなげに1歳の息子の離乳食にするとは。

(正気か、この両親……!)

しかし、マリアが差し出すスプーンを拒否する選択肢など俺にはない。観念して小さな口を開けると、濃厚で、それでいて不思議と臭みのない味わいが広がった。

飲み込んだ瞬間、腹の底からカッと熱いエネルギーが湧き上がり、全身を駆け巡る。

(すげぇ……! なんだこの感覚は! 体の中から魔力とか闘気とか、そういう類の力が直接湧き出てくる! これが離乳食だと!?)

リドガーとマリアは、そんな俺の反応を見て満足そうに頷いている。

「美味しい? よかったわ」

「そうだそうだ、もっと食え! まだまだあるからな!」

こうして、俺の離乳食ライフは始まった。

ドラゴンの心臓ペーストに始まり、グリフォンのレバーパテ、リヴァイアサンの白身魚ほぐし身と、食卓には常にS級モンスターの希少部位が並んだ。

その結果、俺の体はわずか1歳にして、そこらの騎士を凌駕するほどの生命エネルギーを宿すことになる。

アルマ・クラウディアの英才教育は、まず食生活から、物理的に始まっていたのである。

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