通知 『まじないは成功しまししましたたた』

解月冴

第1話 死んでくれないか

逃げろ。

本能が叫んでいる。

なんでこんな事になったんだ。

なんで俺は追われてるんだ。

こんなはずじゃなかった。

こんなはずじゃあなかったのに。


ただ噂になってるまじないとやらを「ちょっと」試してみただけだろ!

それがこんな事になるなんて誰が想像できる?

殴られて、蹴られて、俺には口に出せないような悪口、暴言を常に浴びせられる。

パシリなんて当たり前、それどころか「察して買ってこい」「それぐらい言われなくても持っていろ」なんてことを言ってくる。

そんなのを一年の時からずっとだ。

我慢の限界だったんだよ。

それで何とかあいつを、あいつらを消せないか考えているときに「あの噂」を聞いたんだ。


〈半紙に自身の血を混ぜた墨汁で殺したい相手の名前を書き藁を火種として燃やすと死ぬ〉


最初は冗談だろって、そう思ってた。

だけどその噂が学校の中ですっかり有名になったぐらいの時に、ほとんどの生徒に嫌われてた先生が真っ黒焦げの死体になって見つかった。

それで俺はその噂を笑えなくなった。

だって、本当にそれで死ぬなら、あいつらを殺せるかもしれないだろ?

だからクラスの中で色々話してるのを聞き耳立てて情報収集した。

何で直接聞かないのかって言えばそれは俺が虐められているせいで誰も彼もが遠巻きにするからだ。全部あいつらのせいなんだよ。

そして噂として主に話されていること以外にも色々条件があるらしいことが分かった。


一つ

〈半紙は新品で折り目や皺が一切無いこと〉


二つ

〈墨汁に混ぜる血は一滴のみにすること〉


三つ

〈一枚につき一人の名前にすること〉


四つ

〈一度に二人以上を呪わないこと〉


五つ

〈藁は乾燥したものであること〉


六つ

〈藁にはマッチを使って着火すること〉


七つ

まじないが周囲に知られないようにすること〉


最後のは特に守らないとヤバいことになるって…………ヤバいことって、なんだろう。

とにかくヤバいしか言わないから結局分からなかったけど、多分祟られるとか、そういう感じだと思う…………まじないだし。


情報収集がある程度終わったと思ってすぐに材料を集めた。

必要なのは

〈半紙〉〈墨汁〉〈血〉〈藁〉〈マッチ〉

半紙と墨汁は文房具屋にあったし、藁とマッチは百均にあった。

こんなのまで売ってんだな………。

百均の品揃えの多さに感謝した。

筆は学校教材で習字セットを買っているからあるし、血は一滴だけっていうのがルールだし、同じく学校教材の裁縫セットにある針で刺せば一滴ぐらいなら出るだろう。


家に帰ってすぐ部屋に駆け込んで準備をした。

机に新聞紙を敷いてその上に半紙を丁寧に載せる。皺や折り目が少しでもあると駄目らしいからな。そして墨汁を紙コップに入れて、気合いで針を指に刺した。めっちゃ怖かった。

カップの墨汁に一滴血を入れてすぐにティッシュで指を覆った。あともう一滴でも入ったらやり直しになってしまうからな。

絆創膏を貼って墨汁を筆で軽くかき混ぜた。

偏ってて血が入ってないとか言われたらルールを破ったことになりかねないからな。

そして意を決してあいつの名前を書いた。


〈遠藤 光一〉


主犯。

俺を最初に虐め始めた。

見たままの不良でいつも誰かしらを虐めてはケラケラと笑っている。

あの顔が大嫌いだ。


「死んでくれないか」


恨みを込めて。

しっかりと。

でも皺が出来ないように。


書き終えて暫く乾かしてから丁重にファイルに入れてから近所の神社に行った。

その神社の周りは木が沢山生えていて森みたいになっている。

そこなら、そして夜なら、きっと誰にも知られることはないだろう。

そう思って、カバンに藁とマッチ、そしてあいつの名前を書いた半紙入りのファイルを入れて。


周りに誰もいないことを確認してから草の生えていない地面に藁を積んでマッチで着火する。

よく燃えた。

そして半紙を火に投げ込んだ。

よく燃えた。

そういえば火を消すための水を持ってくるのを忘れたな、と思ったけど、本当によく燃えるものだから、なんだかどうでも良くなった。

このままここを離れれば誰にもバレない。

火が燃え盛ったままその場を離れた。


それが良くなかったのかもしれない。

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