第3話 松平広忠の苦悩

 意識が覚醒して1年が経過したある日、俺のガチャが今日はいつもと違くなっていた。


(なになに……誕生日記念SSR及びUR排出率2倍キャンペーン!)


 つまるところアニバーサリーキャンペーンと言う奴だろう。


 神様も粋な演出をしてくれる。


 俺自身も誕生日が近づくに連れてもしかしたらキャンペーンがあるかもと思い、ガチャチケットは貯めていたので600連分ある。


 それを今回は一気に回していく。


 するとSSR以上確定演出がばかすか出る出る。


 脳汁がドバドバ出る快感が止まらない。


 SSRだと今まで作物の種や苗、種芋なんかが出るだけだと思っていたが、道具も排出されるらしく、名刀や妖刀と呼ばれる刀や武具、旋盤なんかの道具を作るための工具だったりも排出される。


 今のところダブりは無いが、着実に戦国時代を先取りした物を抱えることが出来ている。


 そしてなんと言ってもUR。


 源義経以外だと女神と妖怪が1体? 1人ずつ当たっていたが、今回はなんと6人も引き当てることに成功し、ウハウハである。


 これは後で紹介しよう。


 あと1歳になったからか筋トレ系の回数が10回から30回に引き上げられたり、歩く歩数も1000歩から5000歩に上がり、達成が難しくなった。


 そういう時はNランクの一時的に筋力を上げると言うカードを使う事で肉体を強化すれば達成すること自体は可能。


 ただやると筋肉痛に襲われて、半日近く動けなくなるが……。


 そうそう最近は広忠父さんが俺に教育係を付けてくれまして……それが石川清兼と言う人物で、俺の出生時にも立ち合った人物だった。


 俺の祖父が殺されて内紛状態に陥った松平家でも広忠方に忠義を尽くし、重臣の1人として信頼されていた。


 彼の能力はこんな感じ


【石川清兼】


 統率 55

 武力 50

 知略 62

 政務 78

 魅力 53

 器用 59


 特性

 ・三河武士


 内政官と言う感じで、武芸よりも政務に長けている印象が強い。


 三河武士の特性は合戦時武力を一時的に上げると言うスキルである。


「若様、三河武士たるもの忍耐強く、そして勇猛果敢でなければなりません。聡明な若様なら自然と意味が分かることでしょう」


 赤ん坊に何言ってるんだと思うかもしれないが、この人は本気である。


「さて、若様。まずは言葉の勉強を致しましょうか」


 石川が書物を読んでくれるので、俺はそれをじっと聞く。


 現代日本の活字に慣れていた俺では戦国時代の崩し字を読むことは難しいし、覚えていく必要がある。


 読み聞かせてもらって、なるべく音読するようにし、文字を理解していく。


「若様、上手でございます」


 石川もちゃんとできたら褒めてくれる。


 1歳児で文字の読みができれば大したものだと思うが……。


 ただこの学習方法だと効率が悪いな。


 戦国時代にはいろは歌があったとされる為、いろは歌を使った読み書きをした方が効率が良いと思うが……。


 崩し字の書物をいきなり渡されても子供が読めるはずも無いし……。


 まぁ不満は少しあれど、せっかく読みを教えてくれるのだ。


 文字を読めるようになれば本を読んで暇つぶしもできるし、頑張って覚えていこう。








 〜松平広忠サイド〜


「石川、お前から見て竹千代はどうだ」


「は! 麒麟児の片鱗が見えております」


「ほう、麒麟児か!」


「はい、竹千代様が大きくなられれば松平の家をより大きくできるやもしれません」


「石川、それは私に力が無いと言っているのと同義ではないか?」


「い、いえ……決してその様な訳では」


「よいよい。私自身が一番分かっている」


 私の偉大な父である松平清康が家臣の手により殺害され13年……三河を統一していた頃の力は既になく、今川の属国と成り下がってしまっている。


 父が亡くなった時に私自身身の危険を感じ、三河を脱出し、岡崎の土地を奪った同族を今川の力を借りて討ち果たした事で、松平一族の力は弱まり、そして今川に大きな借りが出来てしまった。


 逃亡時代の苦楽を共にした家臣達は信頼できるが、それ以外の家臣達は、松平のことよりも、自身の家をどう残すかばかり考えている。


 それが松平の力になるなら許せるが、織田や今川に結びつき、両家の力を借りて松平の居る地位を乗っ取ろうとする動きも見られる。


 実に腹だたしい。


 しかし、その家臣達を粛清する力は今の松平家に無く、余計にのさばらせてしまっている。


「石川、私がもし今川と織田両家を敵に回して付いてきてくれる家臣は如何ほど居るか」


「……良くて30。悪くて15」


「さようか」


 情けない限りだ。


 私から見ても麒麟児と思える竹千代が大きくなれば父の様な統率力で家臣を束ね、三河を治める事が出来るかもしれないが……それまで私は生きているだろうか……。


「殿、残念ながら悪い話がございます」


「なんだ」


「殿の奥様の事で」


 石川曰く、私の妻の実家である水野氏はここ最近織田に接近する動きを見せているらしく、今川に従属している当家と敵対してしまうのではないかと言われたのである。


「そうなれば今川に当家が織田と繋がっていない事を示すために離縁しかないな」


「竹千代様はまだ幼い。そんな中離縁させるのは如何と思われますが」


「家が潰されるよりマシだ。あぁ、当家に力さえあればこの様な事にはならなかったのだが……神仏よ、何故松平にこうも苦難を与えれるのか……」


「神仏と言えば、三河でも一向宗が民衆に流行っていると……加減を間違えれば加賀の二の舞になるかもしれません」


 一向宗……主に浄土真宗を信仰している民衆の事で、本願寺と言う寺が全国の一向宗を束ねているのだが、規則が緩く、民でも信仰がしやすい為に広く根付いていた。


 ただ一向宗は時に暴力と結びつくことがあり、京より北の加賀国という大国が一向宗の集団暴徒……一向一揆によって加賀を統治していた指導者層が相次いで討たれ、遂には一向宗が支配する国となってしまっていた。


 ここ三河でも一向宗が広く信仰され、更に疲弊した民衆が支配者である松平家を滅ぼさんと動く可能性は十分にあり、一向宗に加担しかねない家臣、周辺領主も数多くいる。


 松平家は不満を抑え込みながら領主としての自立を目指さなくてはならない。


 それは修羅の道でしかない。


「竹千代に私の負の遺産を残すのは忍びない。少しでも減らせるように努力しなくては」


「……殿、私は何時でも殿の味方でございます。馬車馬の如く扱いください」


「頼りにしているぞ石川」


「は!」

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