異世界の果てで教師になる(私) ~教わることしかできなかった私の授業録~

@hajimari

第一話「教師志望、異世界行き」

「また...... だめかな」 


 面接の帰り道、そうため息をついた。 そして通りで見かけた神社にふいに立ち寄る。


 私は宮内 みやうち けい、大学で教員免許状をえて、教員採用試験を受け筆記は自信があったが、常に面接での反応はいまいちで採用されなかった。


(教育への信念を語れば語るほど、面接がうまくいってない気がする......)


 面接での相手の怪訝な顔が浮かぶ。


「......でも」


(子供の頃から憧れた道、全ての道が閉ざされているわけではないのに、諦めてどうする!)


「よし! どこへでも行って教師になるぞ! 私は人を導くものになる!」


『......こっちに』


 どこからともなくかすかな人の声がした。 それは懐かしくも悲しい声だった。


(今のは...... いやあり得ない。 えっ!?)


 気がついたら目の前の景色が変わっていた。 神社にいたはずの私は、いつの間にか森の中に一人ポツンとたっていた。


「ここ、どこだ...... いや、まて、さっき神社にいたはず。 それが声が聞こえて......」


 急に起こったこの状況に落ち着こうと、とにかく考えようとする。


 そのとき茂みからなにかが飛びだした。


「グルルルッ!!!」 


 それはみたこともないほどの大きさのウサギだった。 


「なんだ!? この大きさ!」


 ウサギは飛び上がり、その剣のような長い前歯で私を噛もうとした。


「うわっ!!」


 目をつぶり、大きな音がしたので恐る恐るみると、そこには横倒しになったウサギがいた。


「これは...... 矢が刺さっている」


 茂みから複数の緑の肌の人たちがでてきた。


「に、ニンゲン」


「ニンゲン......」


「コワイ......」


 少し怯えているようだ。


 私は怖さに声をあげようとする気持ちを、なんとか抑える。


「あ、あの、ありがとうございます」


 そう礼をいうと、その緑の小人たちは少し安心したのか。


「アッチ......」 


「ニンゲン、アッチ」


 と森の向こうを指差している。


(かえり道なのかな......)


 私は再度礼をいうと、その方向に歩きだした。 振り返ると大きなウサギを解体している緑の小人たちの姿がみえた。


「なんだ、あれは...... 妖精? 精霊、妖怪? 神さま?」


 取りあえず、よくわからないが森をでようとする。


「で、でられた」


 しばらく歩くとなんとか森をでることができた。



「ここは......」


 森からでて人を探すと、町があった。 ただそこは日本ではなく明らかに洋風の町だった。 


(そういうテーマパーク...... ではないな。 明らかに生活感がある。 まさか過去にタイムトラベルした! でも言語がわかる、日本語じゃないのに。 ま、まさか異世界......)


「ど、どうする...... とりあえずお金がない。 調べて仕事を探さないと」


 そのとき、剣をもった一団とすれ違う。


「今日はのむぞ!」


「ああ、ラージラットを狩れるなんてラッキーだな!」


「こいつを売れば、金になる!」


 その人たちがさっきのウサギの前歯をもっていた。


(あれ、さっきのウサギの前歯...... そういえば緑の人たち、その前歯とってすぐ捨ててたな) 


 その一団はある店にはいっていった。


 私もあとからついていく。


(すこしでもここで生きていくための情報がほしい)


 そこは大勢の武装した人たちがいる。 空いたテーブルにすわり、周囲をつぶさに観察した。


「町の治安もよくなってきたな」


「ああ、俺たち冒険者がモンスターをかってるからだ。 感謝してほしいぜ」


「金目当てだろうが!」 


 そう笑いあいながら男たちは酒をあおっている。


(も、モンスターそんなのがいるのか! そうかあのウサギもそうなのか!)


「......どうやら、冒険者という職業なのか。 ここは冒険者ギルド、仕事の斡旋をしている仲介業者か」


 壁側のボードには依頼とみられる紙が張られている。


(モンスター討伐、依頼品の入手、護衛、輸送、配達、つまり何でも屋か......)


 私は外にでた。


「とても、私には無理だ...... あんなのと戦えない」


(やったことがあるのは、学生時代の授業の柔道ぐらいだ...... とはいえ、食べていかなければならない)


 町を歩き回るも仕事をくれるところはなかった。


(このまま、仕事をさがしつづけても疲弊するだけだな。 この世界での資格や信頼がある証明書もなにもない......)


「いや、あきらめてどうする! 教師を目指すものが、そんな簡単に投げ出せと生徒にいうのか! できることを探してからだ!」


 そう奮起しよく考えた。


(あっ! あの緑の小人が投げ捨てた前歯、あれをもってくれば......)


 私は森へともどった。



「あった!」


 あの場所にもどると動物の骨とともに歯が捨ててある。


(捨てていっているから、勝手にもって行っていいのだろうか?  いや、まずはお金をえて、それから手数料を差し引きして渡しにいけば......)


 あてもない私は前歯をもち町へとかえった。

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