テラプリズマ-アッシュ・ザ・メモリーズ-(1章)

プロジェクト「概念」

第1話「世界を紡ぐ者」


かつては輝かしい生命と豊かな自然に満ちていた。しかし、太古の神々の戦いにより、世界は深く傷つき、その傷口から「カラミティ」という名の汚染が溢れ出した。それは大地を腐敗させ、空を鉛色に染め、生命のあり方を歪めていった。


 空に浮かぶ島々は崩壊し、地下深くには得体の知れない生物が徘徊する。人々は、かろうじて築いたコミュニティで身を寄せ合い、生き延びる道を模索している。しかし、そのコミュニティも安寧とは程遠い。資源は枯渇し食料は乏しく、常にカラミティに侵されたモンスターの脅威に晒されている。


 この過酷な環境に適応した者たちは、わずかな資源を求め、あるいは過去の遺物を発掘するために、危険な冒険に身を投じる。彼らは、大地に眠る「エーテルコア」と呼ばれる古代のエネルギー源や、神々の遺した武具を求めている。これらの力を手に入れることが、生き残る唯一の手段だと信じられているからだ。



「シグナス、聞こえるか? そろそろ次のポイントだ。警戒を怠るな」


移動要塞ヴェールライトの艦橋に、静かで冷静な声が響く。声の主は、副隊長アズール・ヴェイルランド。37歳にして歴代最強の一人と称される彼は、寡黙で感情を表に出さない。しかし、その瞳の奥には、仲間への誰よりも深い想いが宿っていた。彼の腰に常に携えられているのは、血のように赤い刀身の「村様」。伝説の鍛冶師がカラミティに侵された神の血を以て打ち鍛えたとされる刀は、彼の意志に呼応し、まるで生きているかのように輝きを放っていた。


「了解。ヴァーチェ、座標を頼む。油断は禁物だ」


隊長シグナス・レイヴンは、背中に背負った巨大な大剣「ギャラクシア」に手を当てながら応える。20歳という若さながら、冷静沈着な判断力と、圧倒的な戦闘経験を持つ彼は、現代最強の呼び声が高い。彼の隣には、愛する恋人であり、天使・神域種のシオン・ラグナロクが立つ。シグナスと同じく高い戦闘能力を持つが、どこか抜けているポンコツな一面も持ち合わせている。目元のドミノマスクは、過去の傷を隠すためにある。


「妾が確認するまでもないのじゃ。もうすぐそこなのじゃ。シグナス、ちゃんと妾の方を見てるか? ぼーっとしてると、村様に斬られちゃうぞ?」


シオンは、冗談めかして言った。

彼らの旅は、この世界を蝕むカラミティを止めるため、そして失われた自分たちの記憶を取り戻すためのものだった。彼らの目的は、この世界の病の元凶、そして彼らが失った記憶の鍵を握る「世界を紡ぐ者」を探すことだった。


「よし、着いたぞ! みんな、準備だ!」


元気な声が艦橋に響く。射撃担当のアイリス・リベラだ。20歳という若さながら、重機関銃「サージドライバー」を軽々と操る彼女は、どんな困難な状況でも笑顔を絶やさないパーティのムードメーカーだった。そのお茶目な言動は、しばしばアズールの眉間に深い皺を刻ませる。


「アイリス、はしゃぎすぎるとアズールさんにまた怒られるぞ? ほら、眉間の皺が一段と深くなってる。」


アイリスに負けず劣らず天真爛漫な性格のカノン・ロクサスが、おどけて言った。22歳の魔族である彼は、誰とでもすぐに打ち解ける天性のコミュ力を持つ。アイリスとは良いコンビで、互いにふざけ合ってはアズールにたしなめられていた。


「ふふ、人間というものは、なんと騒がしい生き物なのでしょう」


後方支援担当のヴァーチェ・ケルニアが、魔法杖「ネプラス」を手に微笑む。200歳というエルフとしては若輩な彼女は、理知的で論理的。人間社会の常識には疎いが、自然や魔法に対する知識は誰よりも深かった。彼女が静かに吸うタバコは、彼女自身の精神を落ち着かせるための、小さな儀式のようなものだった。

一行が降り立ったのは、広大な古代遺跡だった。風化し、カラミティに侵されつつある遺跡の奥からは、微かに神聖なエーテルコアの反応が感じられた。


「この先から、微かにエーテルコアの反応がある。おそらく、創造主の力の源でしょう。」

ヴァーチェが静かに告げる。


「よし、いくぞ。みんな、気を抜くな。この遺跡には、我々が探し求めていた答えがあるかもしれない」


シグナスの言葉に、皆が頷く。遺跡の奥へと足を踏み入れた彼らが目にしたのは、無数の菌糸体に覆われた広大な空間だった。その中心に、まるで時間を止められたかのように、三体の人影が横たわっていた。


「あれは……まさか……」

アイリスが息をのむ。三体は、まるで眠っているかのように静かに横たわっていたが、その身から放たれる圧倒的な神聖な気配は、彼らがただの人間ではないことを示していた。


「……記憶を失っているようです。おそらく、この遺跡に封印されていたのでしょう。彼らを救うには、この遺跡の奥にいるという「創造主」に会う必要があるようです」

ヴァーチェが分析する。

「よし、三体を救うためにも、創造主と対峙するぞ。」

すると端末に巨大な適正反応が検知される。

「みんな、戦闘態勢!」

シグナスの指示に、皆がそれぞれの武器を構える。その時、地面が揺れ、巨大なカニのような怪物が姿を現した。菌糸体カニ「クラビオン」だ。その巨体から放たれるカラミティの力は、一行を圧倒する。


「うおっ! でけぇ! これがカラミティに侵された生物ってやつか!」

カノンが槍を構える。アイリスもサージドライバーを構え、牽制射撃を放った。しかし、クラビオンの分厚い甲殻は、びくともしない。


「ヴァーチェ、援護を! カノン、アイリス、動きを止めろ!」

シグナスが叫び、ギャラクシアを構える。ヴァーチェが魔法でクラビオンの動きを鈍らせ、その隙にカノンとアイリスが集中砲火を浴びせる。その隙を見逃さず、アズールが村様でクラビオンの足を切り裂いた。


「これで終わりなのじゃ!」

シオンがラグナスエンジェルを振り下ろし、クラビオンの甲殻に致命的な一撃を与える。そして最後に、シグナスがギャラクシアを振り抜き、クラビオンを両断した。

「ふぅ……なんとか、倒せたな」


安堵の息を漏らすカノン。しかし、その時、遺跡の奥から声が響いた。


「よくぞ試練を乗り越えた。我が名は、この世界の創造主」

声に導かれ、一行が奥に進むと、そこには巨大な王座に座る人物がいた。


「お前たちが求める答えは、我の試練の先にある。「永遠の庭園」と「名も無き光の神」について知るが良い」


創造主は、一行に新たな試練を与えた。それは、自分たちのルーツ、そして世界の真実と向き合う旅への招待状だった。


一行は、ヴェールライトへと戻る。そして、新たな仲間として、戦闘支援システムAI「01-Novax」を迎え入れた。

「01-Novax(ノーヴァ)メインシステム、通常モード起動。はじめまして、シグナス・レイヴン。」


「こいつが、俺たちの旅の新たな相棒か。よろしくな、ノヴァ」


シグナスは、ヴェールライトのメインシステムに組み込まれたAIに話しかける。


「了解です、隊長。01-Novaxは、皆様の旅を全力でサポートいたします。特に、隊長であるあなたの、多少のポンコツさも」

ノーヴァのクリアな女性の声が、冗談めかして応える。そのユーモアに、アイリスとカノンは笑い、アズールは軽く眉をひそめた。新たな仲間を得て、一行の旅は、いよいよ本格的なものとなる。

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