高嶺の向日葵に恋をして
@yun0000
第1話 reverse~逆~
高校生活1年の冬。 11月の朝は、吐く息が白くなるほど冷え込んでいた。
登校してきた生徒たちは肩を竦め、寒さに小さく震えている。
天気予報によれば「今日から本格的に冬」が始まるらしい。昨日までの暖かさに慣れた身体は、急な寒さに追いつけないのだ。
「冬ってきらーい」
ストーブ周囲には昨日まで閑散としていたのが嘘のように、女子生徒達が群がっている。寒いと言う割に何重にも折られたスカート丈は、彼女達の“こだわり”なのだろう。
(好きなんだけどな、冬)
誰も求めていない返事を、心の中でそっと呟く。
窓際の席に座る僕は、教科書を整理するふりをして、人気の低い冬景色に目を奪われていた。
冬独特のツンっとした匂いが好きだ。やがて、白い玉がふわふわと舞う季節になる。
自宅に戻った時の温かさは冷たい心を和らげてくれる。
「…くしゅん」
とはいえ、身体は強くない。毎年冬になれば、どうしても風邪をひいてしまう。
お洒落のためにスカート丈を折る女子生徒には、嫌味なく尊敬の意を称えたい。
「
教室中に広がった誰かの声で、教科書を整理していた手がぱたりと止まる。猫背だった背筋がぴんっと伸びる。
(あぁ、慣れない)
誰かが叫んだその名前に心臓がぎゅっと締められるのを感じた。
「え、どこどこ!きゃあ、今日もかっこいい!」
あんなに占領していたストーブから意図も簡単に寒い窓際へと駆け寄る女子生徒達。
何だか窓際が暖かくなったような気もしなくもない。
「…ってか、なんであんなに厚着?」
「知らないの?夏喜くん、超がつくほどの寒がりなんだよ?」
僕もそっと窓の外を覗き込む。なるほど、確かにいつものスタイリッシュで爽やかな
スマートに着こなすブレザーはダッフルコートで隠れているし、ぐるぐるに巻かれたマフラーは綺麗な鼻筋を見事に隠している。
「雪だるまみたいで、可愛い…」
心の中で同意してしまった。
寒さで身体を震わす河木くんを見て、胸がひゅっと締め付けられる。
笑いそうになる自分を誤魔化すために、僕は分厚い眼鏡をクイッと上げた。
教室の1番後ろで窓際が僕の席。
隣席は誰もいない、河木くんを眺められる特等席。
「…っはよ〜」
顔を真っ赤にさせながら、教室に入ってきたイケメンが河木 夏喜くん。
眩しくて爽やかでいつも周りに人がいる。陽だまりの様な存在。
それは、まるで、夏の陽射しで育った向日葵。
「おっまえ、何だよその服装〜」 「さみぃんだよ」
「夏喜くん、雪だるまみたーい」 「何だよそれ」
さっきまでのストーブ人気はどこに行ってしまったのか。河木くんが教室に入れば、男女問わず人集りが完成する。
もこもこの防寒着を脱ぎながら笑顔で返事を返す河木くんに、教室全体の空気が綻ぶ。
「夏喜は夏の人間だからしゃあねぇよな」
「だから、何だよそれ、…まぁ冬は好きじゃねぇな。すっげぇ寒いし」
そんな会話が聞こえて、ちょっと心がツンっとしたのはきっと僕だけ。
そんな所まで反対なのかと、つくづく神様に嫌われてるなと思ってしまう自分は何処までも卑屈な人間だ。
それでも、窓から眺める現状に僕は非常に満足している。
向日葵に一目惚れしたあの瞬間から、僕の気持ちは変わっていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます