魔法使いはかく語りき
おもち
第1章
今夜は良い夜だ。……おや、どうもこんばんは。君とは初めましてかな? どうぞよろしく。僕の名前? 名乗るほどの者でもないさ。ところで、如何です? こんな素敵な夜には、素敵な物語があるべきだ。今宵は、僕が君に、とびきり素晴らしい物語をプレゼントしましょう。
さあ、お手をどうぞ。この本は僕が書いたものです。分厚い? ふふっ、当然ですよ。想像力は宇宙のように無限なのですから。もしかすると、宇宙以上なのかもしれません。僕は宇宙が大好きです。どこまでも際限なく続いていて、終わりがあるのかどうかすら分からない。予測不可能で、刺激的だ。未知というものは、脅威にも高揚にもなり得ます。僕は、それに堪らなく心が躍るのですよ。
……失礼、話が逸れましたね。君の手にある物語は、そんな恐ろしくて美しい物語。友人には〝タチの悪い喜劇〟だと言われましたが、僕はこの呼び方を結構気に入っているのですよ。彼がこの物語を〝喜劇〟だと受け取ってくれたのだから。僕自身としては、悲劇的な喜劇だと感じていますよ。
……え? 作品のタイトル? ああ、そうだな……。
〝シンデレラ〟かな。〝赤い靴〟かもしれないですね。
どうします、二つ合わせて〝シンデレラと赤い靴〟とでもしておきましょうか? タイトルは読者がそれぞれ、自分の感性で見つけてくれる方が僕の好みではあるのですがね。
何です? ああ……、どちらの物語もご存知だと? それなら良かった。なおさら、君にとって、刺激に溢れる旅となることでしょう。
そんなに不安そうな顔をしないで。大丈夫。君は楽しむだけでいいのだから! 二度と出逢えない素敵な夜をね。
それでは、そろそろ。どうか、良い旅を。
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