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坂本龍馬、天保六年十一月十五日(一八三六年)土佐藩郷士(下級武士)坂本八平の次男として生まれる。五人兄妹で、上に長男の権平・長女千鶴・次女栄・三女乙女がいる。
坂本家は、質屋・酒造業・呉服商を営む、豪商才谷屋の分家で六代目直益の時に、長男直海が藩から郷士御用人として召し出され坂本家を興した。土佐藩の武士階級には上士と下士があったのだが、特に下士は同じ階級でも細分化されており、下級藩士・白札・郷士・従士・従士格・下席組外・古足軽・足軽・下足軽etcと、いうように細かく分けられていた。
他の藩と比べても、土佐藩は上士と下士の差別化が徹底して行われていた。
NHKの大河ドラマ「龍馬伝」でも、放映していたので記憶に新しいと思うが、一本道をふたりの下士が歩いて行くと、向こう側からは上士がやってくる。道の両側は田んぼで雨のせいか泥濘るんでいる。すると、下士のふたりは慌てて田んぼに入り、土下座をして上士が通り過ぎるのを待っている。上士のほうは土下座をしている下士を一瞥すると、せせら笑いをしながら通り過ぎるのである。こうして、土佐藩の下級武士差別は徹底して明治維新まで続くのである。
さて、龍馬は幼い頃に母親の幸に死別していて、三才年上の姉乙女が母親代わりになって育てられるのだが、この姉の乙女が父親に似たのか文武両道の才女で、女性ながら身長が五尺八寸(約一七四センチ)という、現代女性でもそうざらにいない堂々たる体躯の持ち主だった。その乙女に、幼い頃の龍馬は周りの子供たちに泣かされて帰ってくると、「それでも男か、泣くな」と叱りながらも、強い男になるようにと剣術を教えてくれたのも乙女だった。
やがて、龍馬は江戸に出ると北辰一刀流千葉周作の実弟、千葉定吉の桶町千葉道場に師事して、見事北辰一刀流免許皆伝を取得することなる。
そんな龍馬が、京都近江屋でどこの誰とも判らない輩に、中岡慎太郎とともに抵抗する暇もなく、一刀のもとに額を横一文字に切られて、暗殺されたことは龍馬にとってもさぞかし無念この上もないことだったに違いない。
その龍馬も精神体となって、ソーラと昇太郎に連れられて神仙郷に来てからは、そんなことは噯(おくび)にも出さずに、「過ぎてしまったことは、どうしようもなかとじゃき…」と、言うのみだった。
悟空も加わって総勢五人となった神仙郷の精神体は、再び寛永十五年の天草島原へとやって来ていた。
『うーむ、どこを見ても貧しそうな村ばかりじゃき、まっこと飢饉が酷かったんじゃろうのう……』
龍馬の言葉に信長も頷きながら言った。
『何だぁ…。だけど、神仙大師の御大が云っておったような、怪しげな妖気も感じないし臭いもしないな…。何故だぁ…。ソーラさんよ。ここは本当に、その寛永十五年とかいう時代なのかよ…』
と、悟空が訊いた。
『まあ…、悟空さまには、そのような臭いまで嗅ぎ分けることが、できるのでございまするか…』
『ああ、おいらの鼻は特別に出来てるんだ。自慢じゃないが、譬(たと)え千里先の臭いでもちゃーんと嗅ぎ分けることができるんだぜ』
『ええ…、千里も先まで…。ええと、一里が四キロだから…。ええと…、四千キロも…、そんなに遠くの臭いまで嗅いじゃうの…』
昇太郎が驚いているのを余所、悟空がきっぱりと言い切った。
『なあ、ソーラさんよ。この時代には、もういないと思うぜ。もし、いるんだったら、おいらの鼻が感じないわけがないんだからさ。きっと、どこかに逃げちまったんじゃないの』
『では、悟空さまは天草四郎も「翔時解」を使えるとでも、おっしゃるのでしょうか』
『それはおいらにも判らんが、悪魔と手を組んだのなら、それくらい使えると見ていいんじゃないかな…。大体だよ。悪魔なんてヤツは、意地汚いヤツらばかりだからよ。他人のものでも何でも取っちゃう癖があるから、油断も隙もあったもんじゃないんだぜ。ホントに…』
『でも、この世界にいないとしたら、どこに行ってしまったんだろう…。
ねえ、ソーラ、天草四郎が行きそうなところって、何か心当たりはないの…』
『さあ…、それは、わたくしには何とも……』
『確か…、天草四郎は人間を根絶やしにしてやる。とかって云ってたよね。
だとしたら……、もっと人間の数の少ない時代があるぞ。例えば、いまから数百万年前に猿から枝分かれをして、人間としてとの独立を果たした時代だ。きっと、そこに行ったのに違いない…』
『ですけれども、昇太さま。あなたは、その場所を確実に把握できるのでございますか』
『把握ったってね…。場所はアフリカ大陸だと思うけど、学校で習っただけだから、そこまで詳しくは知らないよ…』
『冗談じゃないぜよ。アメリカだって、とてつもなく大きか広い国だって、ジョン万二郎さんから聞いたことがあるけんど、アフリカちゅうたらアメリカの何倍もあると云っとったき。そんなだだ広かところば、どうやって探す気なんじゃ…。昇太郎さん』
『龍馬さまのおっしゃる通りです。もはや悪戯に時間を無駄にしている訳には参りませぬ。一刻も早いうちに天草四郎を探し出して、魔界へと送り返してしまわなければ、神仙大師さまには顔向けも出来ませぬ』
ソーラは切々と説いた。
『しかしのう、敵の姿が見えぬのでは、こちらとしては手も足も出せぬというもの…。これからわしらは如何いたせばいいのだ。ソーラどの』
信長も万策尽きたような面持ちでソーラにたずねた。
『致しかたござませぬ。かくなる上は、神仙大師さまにお願いして、「永遠(とわ)の鏡」をお借りしてくるほかに手立てはございませぬ』
『ほう…。初めて聞く名じゃが…、如何なる物なのだ。その「永遠の鏡」と申す物は…』
『はい、永遠の鏡と申しますのは、万物を映し出して視ることのできる、云わば魔法の鏡のような物にございます』
『何…、万物すべてを映し出すことのできる鏡とな……』
『はい、その永遠の鏡を用いますれば、夜空に輝く星々まで見極めることが出来るとか伺っておりまするが…』
『何という……、夜空の星まで見ることが出来るとな……』
『それに、如何なる時代でも時を越えて窺い知ることもできるとか、わたくしも大師さまより伺っただけですので、実際には未だ見たこともございませぬが…』
『むむ…、何とも摩訶不思議なものがあるものよ。神仙郷というところは…』
珍しいもの好きの信長は、興味津々といった面持ちで頷いた。
『それではわたくしは、これより取り急ぎ往って参りますゆえ。みなさま方は、どうぞこちらでお休みになっていてくださりませ』
ソーラは、そう言うよりも早く姿が見えなくなっていた。
『やれ、やれ。まっこと忙しいひとじゃき、残されたわしらの気持ちも少しは考えてほしかとよ…』
龍馬はブツブツ言いなならも、遥か遠い空の彼方を見上げていた。
『まあ、そう申すでない。あの女子も神仙大師の命を受けて必死なんだろろうから…』
信長は龍馬をなだめるように言うと、昇太郎のほうに向き直ると小声でボソボソと訊いた。
『のう、昇太郎。その方は、わしよりも五百年以上も後の世に生きていたと云っていたが、やりお前の時代にもソーラどのが云っていたような、何でも見透せる永遠の鏡の如きものがあるんじゃろうのう…』
『はい、望遠鏡ならありますけど…、あ…、信長さまの時代にもあるじゃないですか。遠眼鏡ですよ、遠眼鏡ならわかるでしょう。信長さまも』
『うむ、遠眼鏡ならわしも持っておったぞ』
『ですが…、時代を越えて物を見るとなると、これはまた別問題でしてほとんど夢物語のようなものです』
『そうか…、やはり神仙の一族の者以外には無理か…。しかしのう、昇太郎。わしは満足しておるぞ。神仙郷には戦も揉め事も何もない。みなが平等で上も下も関係なく過ごしていられる。わしの生きておった時代には、そんな穏やかな日々はまったくなかった。闘いに次ぐ闘いの日々の明け暮れだった。如何にすれば敵を打ち倒すことが出来るのかと、そんなことばかり考えて生きておった、あの日々は一体何であったのかと思うようになった。そう感じられるようになれたのも、すべて神仙郷に連れてきてもらったお陰じゃ。改めて礼を申すぞ。この通りじゃ…』
信長は龍馬と昇太郎に深々と頭を下げた。
『そんなぁ…。やめてくださいよ。信長さま…』
『そうじゃきに、信長さんほどの歴史上に名を残すような大武将が、ほがいなことで軽々しく頭を下げてもらっては、わしらの立つ瀬がないぜよ。どうかやめとうせ…』
龍馬の眼から見ても、歴史に名を轟かせた大武将である信長が、いま目の前で自分の生きてきた過去を顧みて己が行いを悔いている。そんな姿を見ているのが未だに信じ難い気持ちであった。
『うむ…、わしも昔を振り返るのはやめにしよう。ここは上も下もない、みなが平等に暮らせる世界だからのう。これからは、わしがこれまでに失ってきたものを、ひとつひとつ探し求めて生きてみようと思うておる…』
『そうじゃき、その意気込みが大事なんぜよ。さすがは天下の大武将信長さんぜよ』
龍馬は世辞や方便ではなく、信長が心からそう思っているのを見て、自分でも信じられないほどの感動が湧き上ってくるのを禁じ得なかった。
昇太郎は考えていた。孫悟空は別としても自分や龍馬、そして信長のような神仙の一族として選ばれた者で、歴史的に名前の通っている人が、外にもいるのではないかとふと思った。機会があったらソーラにでも、いつか訊いてみようと思った時だった。
『みなさま、大変長らくお待たせいたしました』
と、ソーラが紫色の布に包まれた物を、大事そうに抱えて姿を現した。
『早かったじゃないか。それが永遠の鏡なのかい…』
昇太郎がまず真っ先に駆け寄り、重そうに持っている荷物を受け取った。
『遅くなれば、それだけ天草四郎を取り逃がしますゆえ、取り急ぎ戻ってまいりました。しかし、この永遠の鏡は門外不出の物とのことで、本来ならば持ち出しは厳禁とのことでございましたが、ことは急を要すると判断された神仙大師さまが、特別に持ち出しを許可してくださりました。これが、その永遠の鏡でございまする』
ソーラは包み物を昇太郎から受け取ると、急いで包みをほどくと中から銅鏡のような物を取り出した。
『何だ。ただの鏡ではないか…。こんな物で誠に天草四郎の足取りを掴めると申すのか…』
『とんでもございませぬ。信長さま、これこそは時を越え処を越えて、万物を映し視ることのできる永遠の鏡でございまするぞ。そのように軽々しく申されては困りまする…』
『これは、わしが悪かった。許せ…、ソーラよ』
信長も自分の非を認め素直に詫びた。
『それでは参りまする。天草四郎時貞が何処に潜んでいるのか、これよりすぐに調べまするゆえ、いましばらくお待ちくださりませ』
ソーラは、何やら呪文めいた言葉を唱えると、即座に踊りだして着衣を次々と脱ぎ始めた。
『おい…、そこまでしないとわからないの…』
昇太郎が龍馬たちの眼を憚るように言うと、
『しばらくお静かにお願いいたします。昇太郎さま』
と、窘めるように言いながらも、ひたすら踊り続けて行った。
『まっこと美しか踊りじゃき、まさに天女の踊りだぜよ…』
『うむ、まさしく天女の舞いそのものじゃ…』
龍馬も信長も、ソーラの華麗なる裸の舞いに見とれていた。
ソーラが、しばらく踊り続けていると、永遠の鏡の鏡面が音もなく光り始めた。
『あ…、何か鏡が光り始めたぞ…』
最初に気がついたのは昇太郎だった。
それを聞いたソーラが、急いで着衣を身につけて戻ってきた。
鏡面には、初めのうちボヤケていた画像が、次第に輪郭のくっきりとしたものに変わって行った。
『こ、これは、何というところに逃げ遂せたのでありましょうか…』
ソーラはひどく驚いた様子で、昇太郎にしがみついてきた。
『ここがどこだか判るのかい…。ソーラ』
『はい、これはいまから一万年ほど昔の、昇太郎さまたちの言葉にて申しますところの、縄文時代というところにございまする』
『じ、縄文時代…。何でまた、アイツはそんなところにいるんだぁ…』
『何じゃ…、その縄文時代と申すのは…』
信長がオウム返しのように訊いた。
『信長さまが知らないのも無理はありませんね…。縄文時代と云うのは、いまソーラが云ったように約一万年前から三千年くらい前頃に、日本に棲んでいた現日本人と云われている、縄文人が生きていた時代のことです…』
と、昇太郎が説明を始めた。
『…で、この縄文人たちは初めは木の実や貝などを採取したり、狩猟をしてイノシシやシカなどを捕らえて生活していたんですが、そのうち朝鮮から大陸を経由して九州辺りに稲作が入って来たんです』
昇太郎は順を追って説明を続けて行った。
『…と、いうわけで、稲作の水耕栽培は徐々に日本中に広がって行ったんです。もっとも、その頃は、まだ日本なんて国はどこにも存在しなかっんですけどね…』
『うーむ…。昇太郎、その方はなかなかの物知りじゃのう…』
昇太郎の話を、信長は感心しながら聞き入っていた。
『しかし、何ゆえに天草四郎は縄文時代などという、とんでもない時代に行ったのでしょうか…』
ソーラならずとも、その不可思議な行動には何かしらの不振を抱いていた。
『うーん…、それが解れば苦労はしないよ……。いや、待てよ…。アイツは人間をひとり残らず根絶やしにしてやるとか云ってたな…。もしかしたら、現日本人とも云われている縄文人に狙いを絞ったとしたら…、大変だぁ…』
昇太郎は急に慌てだした。
『どうした。如何いたした、昇太郎』
『大変ですよ…。信長さま、龍馬さんに悟空さん。もし、天草四郎が縄文時代に行って、縄文人を皆殺しにでもしたら、その時点でぼくたちはこの神仙郷からも消え失せてしまうかも知れないんですよ…。どうしたらいいんですか…』
『どういうことなんじゃ、もう少し詳しく話してみろ。しっかりいたせ、昇太郎。焦るでない…』
昇太郎を落ち着かせようとして、信長は昇太郎の両肩を押さえながら言った。
『だ、大丈夫です…。信長さま、実はいま大変なことに気がついたんです…。天草四郎が、何故縄文時代に行ったのかというと、いまから一万年前の縄文人と云えば、信長さまや龍馬さんやぼくたちみんなの大先祖に当たるわけですよ。特に一万年前の縄文人なら、それほど数も限られているでしょうから、もし、その大先祖が根絶やしにされたら、どうなると思いますか……。その時点で、いま生きている人間界の人たちはもちろん、神仙郷にいるぼくたちもすべて、一瞬にして消えてなくなることを意味ているんです…』
『何と…、精神体のわしらまでもが消えてなくなると申すのか…。昇太郎』
『そりゃ、偉いことになったぜよ。こりゃあ、もう勤皇佐幕なんて云ってる時じゃないぜよ。わしひとりが斬られて死ぬのとはわけが違うき…、早いうちに何とかしないと、ほんに取り返しのつかんことになってしまうとよ…』
信長ならずとも龍馬までが、まだ信じられないという様子でわめいていた。
『とにかく、こうしちゃおれないよ。ソーラ、ぼくたちもこれからすぐに縄文時代に翔ぼう…』
『わかりました。昇太郎さま…』
ソーラは急いで永遠の鏡を片付け始めた。
『へへへへ…、やっとおいらの出番がまたようだぜ。どうせ、時を越えるんだろう…。ここは、ひとつおいらに任せてくんな…』
孫悟空はひと声、
『筋斗雲…』
と、叫んだかと思うと、どこからともなく筋斗雲が現れた。
『これが、有名な筋斗雲か…』
昇太郎は物珍しさもあって、筋斗雲に触れてみたが何の感触もない、ただの雲だった。
『さあ、みなさん。ぐずぐずしていたら手遅れになってしまいますぜ。大急ぎで乗ったり乗ったり…』
孫悟空はみんなが乗り込むのを待って、
『筋斗雲。翔時解向、縄文時代…』
悟空が叫ぶが早いか筋斗雲は空高く舞い上がると、いつしか雲の随(まにま)に見えなくなって行った。
『空を飛ぶというものは、誠に気持ちの良いものじゃのう…。坂本』
信長は、まるで観光にでも来たように、龍馬に話しかけた。
『まっこと気持ちよかとですね。わしも空ば飛ぶのは初めてじ
ゃき、ほんに気持ちよかとですよ』
『何を、そんなに呑気なこと云ってるんですか…。おふたりとも、ぼくたちは遊びに来たわけじゃないんですよ。ちゃんと見張っててくださいよ。天草四郎はどこにいるか判らないんですから、お願いしますよ。龍馬さも信長さまも…』
『分かった、分かった…。案ずるでない。わしもしかと見張っておるから、心配いたすな。昇太郎』
信長は物見遊山気分が抜けないのか、相変わらず方々を見渡していたが、あの妖気漂う天草四郎の気配すら感じ取ることはできなかった。
『ねえ、ソーラ。ここは縄文時代のいつ頃の区分に入るんだい…』
『はい、わたくしもはっきりとは分かりませぬが、たぶん縄文時代の後期か晩期かと思われますが…』
『後期か晩期じゃ駄目だな…。いいかい、考えてもごらんよ。縄文時代というのは、少なく見積もっても一万三千年も続いているんだ。この時代は後期になればなるほど、どんどん人数も増えて多様化しているんだよ。そんなところをアイツが狙うはずがない…。狙うとしたらもっと先だ。旧石器時代から枝分かれをして、縄文文化が始まったばかりの頃を狙うに違いないんだ…。そこを探そう』
『おのれ…、如何に魔の化身となりさらばえようと、なんと悪辣(あくらつ)な奴めが…』
信長は怒りに身を震わせて、自らの周りにオレンジ色のオーラを噴き出させた。
『それにしたって、縄文時代は一万三千年もあるんですよ…。いちいち探し回っていたら、時間と手間暇がかかってどうしようもないや。何とか手立てを考えなくちゃ…、何かいい方法がないのかな…。確実にアイツのいる年代を割り出せる方法が…、何かないのかなぁ…。うーん……』
昇太郎はしばらく考え込んでしまった。
『でも、昇太郎さま…。一万三千年もともなりますれば、相当の期間になりまする。それをどのようにして、割り出すおつもりなのでございまするか…』
『だから、それをいま考えているんじゃないか。頼むから、もう少し静かにしていてくれないか…』
『申しわけございませんぬ…』
ソーラは素直に詫びた。
『よし、分かった。それならば、おいらは独自に各時代ごとに周ってみるか…。ここで何もしないでいるよりは増しだろう。筋斗雲…』
悟空は取り急ぎ筋斗雲を呼ぶと、
『少しでも何かわかったら、すぐ知らせるからな。じゃ、あばよ…。おいら、行くぜ…』
悟空は、瞬くうちに筋斗雲に乗り込むと、空の彼方へと飛び去って行ってしまった。
『ソーラさん。わしらも、こんなところでいつまでも愚図愚図してはおられんとよ。まっこと、何かいい手はないのんかのう…』
『そうは申されましても…、わたくしといたしましても、もはや何も打つべき手段(てだて)は何も浮かんではまいりませぬ…』
と、その時、
『そうか…。その手があったか!』
昇太郎が大きな声で叫んだ。
『何ごとじゃ、如何いたした。昇太郎…』
『判りましたよ。信長さま、龍馬さん。もう一度、この永遠の鏡を使って調べれはいいんですよ。ねえ、ソーラ。この鏡に映った映像の年代とかも判るんじゃないのかい…』
『はい、判るのではないかと存じまする。この鏡には、わたくしども神仙一族にだけ判読することができる、文字を映し出すことができますゆえ、詳しい年代もしかと確かめられまする…』
『だったら、どうしてもう少し早く云ってくれないんだよ。ソーラは…』
ゆったりと構えている神仙女のソーラに、いささか苛立ちを覚えながら昇太郎は言った。
『そのようなことを仰せられましても、わたくしは此度初めて永遠の鏡を使いますゆえ、何かと不慣れなものでありまして、まことに申しわけありませぬ…』
『わかった、わかった。もういいから、早く映してみてくれ』
ソーラは、また鏡の前で踊り始めた。昇太郎たちは鏡の前で、天草四郎が潜んでいるであろう、縄文時代のその年代が映し出されるのを、いまや遅しと待ち構えていた。
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