第8話〈故障〉

恐怖、安堵、疑念、覚悟、様々な感情の交錯と過剰な思考判断による疲労、幾度となく繰り返された筋肉の緊張と緩和、それに伴う心筋負荷、精神的、身体的両面からのダメージ等が相まった集大成に、彼にとって最大の疲労の根源である「労働」。これが上乗せされたことにより彼の脳は、通常の働きを成さなかった。彼はただ、焦った。


 行かないとーー。


彼の脳は、低迷しながらも、動き始めた。


 今の時刻は、出勤時間…。ってことは、俺は寝ぼけていただけ…?そうか…。そうなんだな…。ん?でもどうやって始まったんだっけ…?別にもう、いいか…。さすがに疲れすぎているな…。今日は帰ったら、速攻寝るとしよう…。


いわゆるブラック企業で働く、彼の仕事に対する服従心と疲労感は、悲惨にも、尋常ではなかった。玄関に向かいながら彼は思う。


 しかし、人間の想像力とは計り知れないな…!トロフィーのあれは結局灯台もと暗し…?だったということ…。それだけ…?たったそれだけの勘違いで、ここまで…!?


玄関に着いた。


 あれ?鍵、開いてる…。俺、ドア開けっぱにしてたか?うそだろ…!?危ないなぁ…。奴がいたら、普通に逃げられていたぞ…!


今、鍵は開いている。これ、揺るがない事実である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る