第6話〈勝気〉

彼は和室の引き戸から少しばかり顔を出した。そして瞬時に左右を確認し、キッチンにも廊下の突き当たりにも奴はいないことを確信した。武器トロフィーをより強く握り締めると、廊下に出た。また空気が変わった。そんな気がした。今度は外から、引き戸を施錠した。これには専用の鍵が必要だった。彼が保有している家の鍵にはリングが通っており、これにあと3つ、鍵が付けられていた。1つは今の、もう1つは包丁の引き出しの、そしてもう1つは、貴重品を保管している棚のものだ。


 これで奴は、向こう側には入れまい…!確実に追い込んでいるはずだ…。今に見てろ…、絶対に見つけ出してやる…!


少し錆び付いてきていたトロフィーが、ほんの一瞬、輝きを取り戻したように見えた。ここにきて芽生えてきた強気が、それからの行動に拍車をかけた。洗面所、浴室、トイレ、次々に可能性を潰していく。奴が居なければいないほど、彼の脳内では、奴が次の場所に居る可能性は高まっていたのだろうか、それともひくまっていたのだろうか。それは未だに分からない。残るは寝室のみとなった。本来なら、ここで一番足がすくむのかもしれない。しかし、ここでこの戦いに終止符を打てる、終わらせられるかもしれない、という少なからず見えてきた希望が、僅かに背中を押したことにより、彼の足は思いのほか軽く動いた。


 ガチャッ…!


 ・・・


そこに奴の、姿は無かった。


 いない…!?ならどこに…?あと他に、人が入れるところなんて…。


 ってことは…。奴の存在は…。


一瞬でも、安堵しかけた身体に負荷をかけたのは、思いついてしまった1つの可能性だった。


 違う…、その考え方が間違っているんだ…!


彼には唯一、無意識のうちに候補から消してしまっていたスペースがあった。


 物で埋め尽くされ、到底人ひとり入れまいと思っていた物置…!そここそ、奴からして隠れるのに最適ベスト場所選択…!中の物なんてどこにでも隠しておける…。それこそ、ベランダなら…!


彼は急いで物置へ向かった。

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