第4話〈没頭〉

彼の家は、建物に入ってしまえば昼夜も分からないような薄暗いマンションの7階に位置する角部屋で、彼が日の出前の薄暗い時間帯から出勤し、日没後の夕方頃に帰宅する生活ぶりであったために、カーテンは常に閉め切られていた。そのため彼の家の中は、電気を消せば当然真っ暗であった。間取りは2LDK。玄関から廊下を真っ直ぐ突き当たりにリビングの扉があり、左にカウンターキッチン、右には廊下が続いていた。


 リビングの扉…。急いで入ろう…!


音を立てるのには当然抵抗がある。しかしそれ以上に、素早く武器を確保することが何よりも優先であった。彼はリビングに突入すると、すぐにトロフィーを見た。つもりだった。


 無い…!?トロフィーが、無い…!!そこに…、そこに置いてあったはずだ…!


奴は本当に居るのかもしれない。恐怖が、一段と濃さを増した。彼は即座に、そばにあったリモコンを掴んだ。真っ白なデザインをしていたリモコンは、比較的暗闇でも存在感を見せた。そして再び、激しく思考が巡る。


 奴は居る…!!奴は取ったのか…!?これを!奴の目的は金品…?いや、やはり凶器にする気か…!つまりは、元々武器は持っていなかったということ…?とにかく、こうなってしまった以上包丁はやむをないのか…?いや、ここで取りに行くという選択が、奴の罠でない保証もない…!


気づけば彼は、隣接する和室にいた。和室と廊下を仕切る引き戸を、施錠するためだ。内側からは簡単に施錠できるタイプのものだった。鍵のかかる音がしたかと思えば、続けて彼は和室の押し入れからドアストッパーを見つけ出し、床とリビングの扉の間にできる限り深く差し込んだ。ほんの数十秒で繰り広げられた彼の行動は、決して遅くはなかった。


 ようやく目が馴染んできたのが幸いして、案外すぐにストッパーを取り出せて良かった…。これで奴は、新たにここ(リビングと和室)へは侵入できないだろう。元々居れば、話は別だが…。


彼はふと、押し入れに潜んでいた可能性が十分にあったことに今気づき、自分が、間髪入れず開けたという事実にゾッとした。


 焦りは禁物…。いなくて、本当に良かった…。


彼は衝撃のあまり、全開になった押し入れをしばらく見つめていた…。

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