1.のじゃロリ(?)少女と噂と歴史!?

(クスクスと少女が笑う)


「おぬし、とても面白い人じゃの。そんな慌てなくても良いであろうに」


「しかし、どこか変なのじゃ。他の人だと悲鳴を上げて、一目散に逃げ帰ってしまうと言うのに……。おぬし、案外肝が座ってるみたいじゃな」


(ケラケラと笑いながら、少女は賽銭箱からトンッと降りる)


「わらわは叶音かなねと申す。よろしくなのじゃ」


「それで、どうしておぬしは此処に来たのじゃ?こんな三百年前に廃れて、なんにも無くなってしまったこの辺鄙へんぴな地に」


(貴方はここに至るまでの経緯を話す)


「ふむ…ふむ…。なるほど」


(叶音が貴方の周囲をグルグルと歩き始める)


「周りの友人は皆んな幸せになってるというのに、自分だけ取り残されてしまった、と」


「おまけに仕事で何回も失敗をしてしまい、何度も何度も怒られてしまった、と」


「なるほど、それで死にたくなってここに来たんじゃな。なるほどなるほど……」


(叶音が貴方の目の前で立ち止まる)


「あぁー、因みになんじゃが…どうして、おぬしはここを死に場所にしようと思ったんじゃ?死にたいのであれば、他にもいっぱいそう言う場所があったであろうに……」


(貴方はこの社の噂を話す)


「ふむ、ある噂でこの社でお参りをすると、目の前に絶世の美女が突然現れて、痛みなど一切感じずに死後の世界へと誘ってくれる、じゃと──」


(叶音は笑いを堪えながら肩を震わせ始める。しかし、遂に堪えきれなくなり、大声で笑い始める)


「ふふふ……あはははははっ!」


「そうじゃのぉそうじゃのぉ、最後くらい美女の顔でも拝みながら死後の世界に行きたいものな!」


「はあ〜、久しぶりにこんなに笑ったわい」


(笑いながら叶音は涙を拭う)


「それにしても絶世の美女が突然現れる、のぉ」


(叶音は貴方の方に歩み寄り、耳元で囁く)


「なぁなぁ、わらわは絶世の美女に見えておるのか?おぬし、どうじゃ?どうじゃ?」


(満面の笑みで叶音が正面に戻る)

(貴方は正直に話す)


「……なんじゃと?……絶世の美女と言うより、可愛らしい少女にしか見えない」


「う、うーむ……嬉しいんじゃが、なんだか複雑な気持ちになるのぉ」


(叶音は小声で言う)


「世辞でも良いから、美女だって言ってくれたって良いじゃろうに……」


(貴方は続いてこの噂について話す)


「……なにっ?そもそもそんな噂、はなから信じてなかった?出てくるのは物騒な鎌を持った骸骨の死神だと思ってた?」


(叶音は乾いた笑いをする)


「あ、あははは……」


「おぬし、思っていたよりも古典的みたいじゃな」




(叶音は大きな溜め息を吐き、「こほん」と咳払いを一つする)


「おぬしが話してくれたその噂なんじゃが、大分捻じ曲がって伝わってるみたいじゃな」


いか?ここは村で一番、由緒正しき場所なのじゃ。神聖な祭事を行い、八百万の神をお迎えする。とってもありがたい場所じゃ」


(叶音は低く「ウウゥ」と唸る)


「それだと言うのに──」


「一体、何をどうしたらなんてお門違いな噂が立つんじゃ!」


「根も葉もない、あまりにいい加減な噂じゃ!はらわたが煮えくり返る思いなのじゃ!」


(叶音は口の両端を上げ、不気味に喋る)


「……いっその事、その噂通り呪ってあげたら面白いかもしれんのぉ」


(貴方は叶音から数歩だけ退く)


「ふっふっふ、安心せい。わらわにそんな力なんて皆無じゃからの」


「と言うのも、そもそもの話、わらわは神様でも無ければ死神でも無い。いて言うのであれば……そうじゃの、幽霊、と言うべきじゃな」




(叶音は再び深い溜め息を吐く)


「……おぬし、少々昔話をしても良いかの?」


(貴方は首を縦に振る)


「有り難い──」


「今から三百年前、この地である疫病が流行り出したのじゃ。突然、高熱と全身が痛みだし、次第に呼吸が出来なくなる」


「何年も何年も、この疫病にわらわたちは苦しめられた……。今でも苦しむ友人の顔が忘れられん」


(叶音は左方へと歩く)


「人間の力では、もうどうにもならない。限界だと感じたわらわたちは、神様の力に頼る事にしたのじゃ。きっと神様なら、わらわたちを救ってくれる、とな……」


「いつもの祭事よりも穀物や果物を多くお供えし、より神聖に、そして、より荘厳に執り行った」


(今度は右方へと叶音が歩く)


「しかし、事態は回復などしなかった。むしろより悪化する結果となったのじゃ。子供や年寄りは勿論、遂には若者たちまでもがバタバタと倒れていったわい」


(叶音が再び貴方の前へと歩く)


「そこで村の長老が一つ提案したのじゃ。それは今までとは比じゃない、はるかに強力なものであった」


(叶音はトーンを低くして話す)


「しかし、それには大きな代償を払わなくてはならなかった。とても残酷で、無慈悲で、人の所業とは思えん」


(叶音は賽銭箱に再び飛び座り、少し間を開けてから口を開く)


「……そうじゃ、誰かが人柱に立つ」


「もちろん、長老の提案は村人たちから猛反対されとったわ。当たり前じゃ、生きた人間を埋めるなんて……。無論、わらわも反対した」


「だから村人たちは色んな事を試してみたのじゃ。畑の肥料を変えてみたり、生活の様式を変えてみたり、と」


「じゃがな、何も変わらなかったわい……」


「遂に村人たちに残された道はただ一つ。誰かを、人柱を立つ事だけじゃった」


「誰しもが皆、頭を抱えて苦しんでおったわい。自分の身はもちろん、愛しき人や親しき人を失いたくはないからのぉ」


「しかし、時とは無常。倒れる人は後を絶たなかった。事態は一刻を争うものじゃ」


「そんな中、人柱に立つのを名乗り出たのがわらわじゃ」


「名乗り出たわらわに村人たちは皆、一斉に驚き、そして盛大に感謝されたわい。今までに無いほどにの」


「それからというもの、毎日が楽しかった。まるで、一国のお姫様にでもなったかの様じゃった」


「そして、わらわが名乗り出てから二週間後、遂に祭事が行われる日となった。祭事は村民総出で迎え、今までで一番厳かに執り行われた」


「あの時の皆の悲しい表情、今でも脳裏に焼き付いておる。わらわが埋められている時も、数々の悲しむ声と感謝の声が聞こえておったの。とても嬉しかった」


「じゃが、わらわの最後は真っ暗な土壌と、神主があげる祝詞だけだったわい……」




(叶音は賽銭箱からトンッと降りた)


「すまんのぉ、辛気臭い話になってしまって。じゃがな、この場所を間違ったままにはしたくなかったのじゃ」


「お、そうじゃ!」


(叶音が貴方の目の前までやって来て、上目遣いをする)


「お詫びにとは言っちゃなんじゃが」


(悪戯っぽく、貴方の片耳に叶音が囁く)


「社の中で泊まっていかんか?」


(叶音が片耳から離れる)


「どうせ、夜もけておるから帰るのも大変じゃろ?なら、今夜だけでも泊まっていくと良い」


「ふふっ、なぁに、さっきも言ったが、わらわには人を殺める事も呪う事も出来ん。だから安心せい」


(タンタンと足音を立てながら、叶音が社の襖を開く)


「さぁさぁ、いらっしゃい──」

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