ベリーショートケーキ
柊 こころ
第1話
もうどのくらい経ったんだろう。
食べ物がない。飲み物も水道が出ない。
お風呂に入れない。電気だけが付く。
お母さんは、タバコをふかしながら携帯ばかりカチカチと、誰かと連絡を取っているようだった。
「お母さん、ご飯…は?」
「あー…1,000円置いとくから好きに食えよ」
「ありがとう、お母さん」
うすら電気の中で、1,000円を僕は握りしめる。
もう、どのくらいお風呂に入っていないんだろうか。もう、どのくらい放置されているのだろうか。
涙が込み上げて来そう。でも泣いたら叩かれる。僕は普通じゃない。
普通じゃない…
あれ?普通って何?
暖かいご飯
暖かい家で
ゆっくりお風呂に入れて
お父さん、お母さんがいて
「テスト、100点だった!」って言ったら
よく出来た!って褒めてくれる
そんな、家庭が良かった。
でも、そんなのは贅沢で
僕の存在は、邪魔でしかなくて。
お母さんは、帰りも遅い。
出掛けるのは、早い。
聴き飽きた着うたフルっていうやつ。
「逢いたかった、寂しかった」
何度このフレーズを聴いたんだろう。
「けど、何一つ、君に言えなかった」
お母さんに、言いたいこと沢山あるよ。
あれ…なんだろう。
繁華街に繰り出した僕は
少しだけ、泣いていた。
眩しいなあ…。
光が目に染みる。
キャハハ!とか、楽しそうな笑い声。
僕には、眩しかった。
ああ、ああいう風になるには
僕は嘘つきになろう。
学校もロクに行ってないけど
嘘つきになっちゃえば、平気だよね。
仮面をかぶれば怖くないんだ。
生まれつき、お父さんはいないし知らない。
ただ、ホストだったと聞いている。
ホストって、実際どうなんだろう。
でも僕には無関係だ。
「あら、可愛い男の子。名前は?」
ボーっとしてたら、オバサンに話しかけられた。
オバサンなんて言えない。
「…奏多(かなた)、です」
「お母さんは?」
「多分、夜仕事で…」
「そっか。付いておいでとは無理に言わないけど、ご飯、食べたい?」
初めてかもしれない、目を輝かせた。
「お腹いっぱい、食べれる?」
「もちろん!」
僕は、そのオバサンが
お母さんのスナックのママと気付かずについて行った。
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