第4幕
### 第4幕 第1話:練習試合と不調の柚希
文化祭の熱狂が去り、富岳第一高校のキャンパスには、秋の気配が満ちていた。高く澄み切った空には、ちぎれた雲がゆっくりと流れている。風は少し冷たくなったが、生徒たちの情熱は冷めることを知らなかった。特に、インターハイの地域予選を控え、バスケットボール部では練習の雰囲気が一変し、緊張感と期待が入り混じった空気が漂っていた。汗と努力が染み付いた体育館の床が、照明の光を鈍く反射している。床に刻まれた無数の傷跡や、摩耗したラインは、選手たちが流した汗と涙の証のようだった。バッシュが床を擦る甲高い音や、ボールが床を叩く鈍い音が、その風に乗って校舎全体へと広がっていく。
その日の放課後、体育館は1年生チームと2年生チームの練習試合で熱気に包まれていた。男子1年生チームは、センターの一真を筆頭に、ポイントガードの健太、シューティングガードの拓海、スモールフォワードの大樹、パワーフォワードの良平という布陣だ。対する2年生チームは、キャプテンでポイントガードの優介、シューティングガードの翔太、スモールフォワードの隼人、パワーフォワードの浩一、センターの隆というスターティングメンバー。一真の持ち味である力強いポストプレイとリバウンドが炸裂し、チームの攻撃を牽引する。彼は相手のセンター隆に負けじと体をぶつけ、リング下で強靭な肉体を躍動させた。その重戦車を思わせるがっしりした体格も、試合後半には動きが鈍くなっていたが、それでも彼は、勝利への執念を燃やし、チームメイトに声をかけ続けた。
「健太、そこ空いてるぞ!」
「大樹、シュート!」
一真の声に呼応し、健太が素早いドリブルで相手ディフェンスを翻弄し、大樹が鋭いドライブからジャンプシュートを決める。前半は互角の攻防が続いた。しかし、後半に入ると、2年生チームの連携が徐々に精度を増していく。キャプテン優介の指示のもと、翔太と隼人が巧みにポジションチェンジを繰り返すことで、1年生チームのディフェンスは混乱に陥った。
「健太、戻りが遅いぞ! 拓海、パスのコースを切れ!」
コーチの怒号が響く。一真も必死にリバウンドを拾うが、2年生チームの速攻に追いつくことができない。
「くそ……!」
一真は肩で息をしながらも、最後のホイッスルが鳴る直前、相手のシュートをブロックし、そのままリバウンドを奪って自陣へ駆け戻る。試合は終盤までもつれ込み、最後の笛が鳴った時、辛くも1年生チームが勝利を収めた。
「よしっ!」
勝利を喜ぶ声が体育館に響き渡る。一真は、床にへたり込み、肩で息をしながらも、充実感に満ちた笑顔を浮かべた。しかし、コーチの表情は険しいままだった。
「スタミナが課題だな。このままでは、試合後半に失速するぞ。一真、お前もだ」
コーチの言葉に、一真は真剣な表情で頷いた。
一方、女子チームの試合は、男子チームとは対照的な結果に終わった。試合開始のホイッスルが鳴り響く。女子1年生チームのメンバーは、由季を中心に、雄宇、詩織、柚希、そして結季という顔ぶれ。対する2年生チームは、キャプテンでセンターの美香、ポイントガードの沙織、シューティングガードの優子、スモールフォワードの真奈、パワーフォワードの里奈という実力者ぞろいだ。
試合開始のホイッスルが鳴り響く。経験に勝る2年生チームの連携は完璧で、1年生チームは序盤から苦戦を強いられた。山下の強固なディフェンスと、鈴木の正確なパス回しに、1年生チームは翻弄される。
由季は持ち前の冷静な判断力と、鍛え抜かれた肉体で奮闘する。巧みなフェイントで相手をかわし、力強いドライブでゴール下へ切り込む。だが、周囲との連携がうまく機能せず、由季が孤立する場面が目立った。
「東雲、こっち!」
詩織が声をかけ、フリーになった柚希へパスを出す。ボールは柚希の胸元へ向かってまっすぐに飛んでいく。しかし、その瞬間、柚希の視線はコートの端、結季へと向けられていた。
(結季、見てるかな……)
思考の波に溺れ、一瞬、集中が途切れる。ボールが手に触れた瞬間、指先から力が抜け、鈍い音を立てて床に落ちた。その隙を逃さず、相手の選手が素早くボールを奪い、そのままゴール下へ走り去る。
「柚希! しっかり!」
雄宇の苛立った声が飛ぶ。由季は慌てて戻り、相手のシュートをなんとかブロックしたが、チームの連携は完全に崩れてしまっていた。
その後も、柚希のプレーは精彩を欠いた。ドリブル中にボールを奪われ、シュートはことごとくリングに嫌われる。彼女の足は重く、視線は定まらない。
雄宇は苛立ちを隠せない。
「由季、どうにかしてよ! 柚希、全然ダメじゃん!」
由季は、柚希の様子を心配そうに見つめながらも、雄宇の負担が増えていくことに焦りを感じていた。
詩織も、ポイントガードとしてチームを立て直そうとするが、不調の柚希にパスを出すことを躊躇してしまう。その葛藤が、さらにチーム全体の動きを鈍らせていた。
結季は、そんな柚希の不調を、コートの中で、複雑な表情で見つめていた。柚希を案じる気持ちと、それ以上に、彼女の心を支配していることへの微かな喜びが混ざり合っているようにも見えた。
ついに、コーチがタイムアウトを要求した。
「東雲! お前、どうしたんだ? 集中できていないぞ! そんなんで由季に勝てると思っているのか?」
コーチの厳しい言葉に、柚希は顔を赤くして俯く。彼女の心は、バスケではなく、結季との関係に囚われていた。由季は、そんな柚希の様子を心配そうに見つめ、雄宇は悔しさに唇を噛み締めていた。
結局、女子1年生チームは完敗を喫した。
### 第4幕 第2話:深まる結季と柚希の関係
女子バスケットボール部の練習試合が終わり、体育館は重い空気と、敗北の熱気が混じり合っていた。コーチの厳しい言葉に、柚希は顔を赤くして俯いたまま、動けずにいた。彼女の心は、バスケの試合での敗北よりも、一真に勝てないと指摘された屈辱と、結季との関係に囚われてバスケに集中できなかった自分自身への苛立ちに占められていた。由季や雄宇の心配そうな視線が突き刺さる。その視線が、まるで自分の心の弱さを責めているように感じられ、柚希はさらに深く顔を伏せた。
そんな柚希の隣に、結季が静かに歩み寄った。彼女は何も言わず、ただそっと柚希の肩に手を置いた。その手は、柚希の熱くなった肩を優しく包み込む。
「柚希ちゃん、大丈夫?」
結季の声は、体育館の喧騒から切り離された、まるで二人だけの世界に響く音のようだった。由季や雄宇には出せない、柚希の心の奥底に寄り添うような、柔らかくも力強い声だった。
「うん……大丈夫」
柚希はか細い声で答えるが、結季は首を横に振った。
「大丈夫じゃないでしょ。そんな顔してる」
結季は、柚希の顔を覗き込み、眉を下げた。その表情は、柚希を心から案じているように見えた。
「ねえ、柚希ちゃん。今から、一緒に買い物に行かない? 気分転換になるかもしれないし」
結季の言葉に、柚希は驚いた表情を浮かべる。一真への独占欲が薄れ、結季との関係に安らぎを見出し始めていた柚希は、結季の誘いを断ることができなかった。
放課後、二人は富岳市の中心部にあるショッピングモールで待ち合わせた。結季は、柚希を連れて下着売り場へと向かう。
「柚希ちゃんは、どんなのが好き?」
「え、私? えっと……」
柚希が戸惑っていると、結季は、柚希の顔をじっと見つめ、何かを考えるように首を傾げた。
「……柚希ちゃんには、こっちの方が似合うかな」
結季は、そう言って、鮮やかな赤色のレースがあしらわれた下着を手に取った。それは、柚希が普段身に着けている、スポーティーでシンプルなものとは、全く違うデザインだった。
「こ、これはちょっと……」
「似合うって。柚希ちゃんの、そういう隠された部分を、見てみたいんだ」
結季の言葉に、柚希の顔は、一気に赤くなる。結季は、柚希の心を、正確に読み取っていた。
下着を買い終えた後、結季は、柚希を自分の家に誘った。結季の家は、どこか無機質で、シンプルなデザインの家具が並んでいる。結季は、柚希をベッドへと誘った。
「ねえ、柚希ちゃん。ここで、もっとゆっくり話そうよ」
結季はそう言って、柚希をベッドに押し倒した。柚希の身体は、結季の重みで、ベッドに沈む。結季は、柚希の唇に、自分の唇を重ねた。柚希は、抵抗することができなかった。そのキスは、柚希の理性を、完全に奪い去っていく。
「ねえ、柚希ちゃん。海や屋上ではできなかったこと、ここでしようよ」
結季の言葉に、柚希の心臓が激しく脈打つ。それは、恐怖と、そして抗うことのできない快感に支配されていた。
柚希は、結季との関係から得られる安らぎと、一真への想いの間で揺れ動いていた。しかし、結季の支配的な愛撫によって、柚希の心は、結季の快楽の世界に、完全に囚われていく。二人の肉体関係は、さらに深いものとなっていった。
### 第4幕 第2話:深まる結季と柚希の関係
女子バスケットボール部の練習が終わり、体育館は重い空気と、敗北の熱気が混じり合っていた。コーチの厳しい言葉に、柚希は顔を赤くして俯いたまま、動けずにいた。彼女の心は、バスケの試合での敗北よりも、一真に勝てないと指摘された屈辱と、結季との関係に囚われてバスケに集中できなかった自分自身への苛立ちに占められていた。由季や雄宇の心配そうな視線が突き刺さる。その視線が、まるで自分の心の弱さを責めているように感じられ、柚希はさらに深く顔を伏せた。
そんな柚希の隣に、結季が静かに歩み寄った。彼女は何も言わず、ただそっと柚希の肩に手を置いた。その手は、柚希の熱くなった肩を優しく包み込む。
「柚希ちゃん、大丈夫?」
結季の声は、体育館の喧騒から切り離された、まるで二人だけの世界に響く音のようだった。由季や雄宇には出せない、柚希の心の奥底に寄り添うような、柔らかくも力強い声だった。
「うん……大丈夫」
柚希はか細い声で答えるが、結季は首を横に振った。
「大丈夫じゃないでしょ。そんな顔してる」
結季は、柚希の顔を覗き込み、眉を下げた。その表情は、柚希を心から案じているように見えた。
「ねえ、柚希ちゃん。今から、一緒に買い物に行かない? 気分転換になるかもしれないし」
結季の言葉に、柚希は驚いた表情を浮かべる。一真への独占欲が薄れ、結季との関係に安らぎを見出し始めていた柚希は、結季の誘いを断ることができなかった。
放課後、二人は富岳市の中心部にあるショッピングモールで待ち合わせた。結季は、柚希を連れて下着売り場へと向かう。
「柚希ちゃんは、どんなのが好き?」
「え、私? えっと……」
柚希が戸惑っていると、結季は、柚希の顔をじっと見つめ、何かを考えるように首を傾げた。
「……柚希ちゃんには、こっちの方が似合うかな」
結季は、そう言って、鮮やかな赤色のレースがあしらわれた下着を手に取った。それは、柚希が普段身に着けている、スポーティーでシンプルなものとは、全く違うデザインだった。
「こ、これはちょっと……」
「似合うって。柚希ちゃんの、そういう隠された部分を、見てみたいんだ」
結季の言葉に、柚希の顔は、一気に赤くなる。結季は、柚希の心を、正確に読み取っていた。
下着を買い終えた後、結季は、柚希を自分の家に誘った。結季の家は、どこか無機質で、シンプルなデザインの家具が並んでいる。結季は、柚希をベッドへと誘った。
「ねえ、柚希ちゃん。ここで、もっとゆっくり話そうよ」
結季はそう言って、柚希をベッドに押し倒した。柚希の身体は、結季の重みで、ベッドに沈む。結季は、柚希の唇に、自分の唇を重ねた。柚希は、抵抗することができなかった。そのキスは、柚希の理性を、完全に奪い去っていく。
「ねえ、柚希ちゃん。海や屋上ではできなかったこと、ここでしようよ」
結季の言葉に、柚希の心臓が激しく脈打つ。それは、恐怖と、そして抗うことのできない快感に支配されていた。柚希の意識は、抵抗と快楽の狭間で揺れ動き、次第に快楽へと傾いていく。
結季は、柚希の戸惑いを感じ取ったかのように、柚希の髪を優しく撫で、耳元に甘く囁いた。
「大丈夫。何も怖くないよ。私が全部、気持ち良くしてあげるから」
その言葉に、柚希の身体から力が抜け、結季に身を委ねる。結季は、柚希の制服のスカートを捲り上げ、その下着に手をかけた。
「綺麗な色。やっぱり似合うね」
結季の指が、柚希の太ももをゆっくりと撫で上げる。その指先が触れるたびに、柚希の身体は震え、熱を帯びた。結季は、柚希のショーツをゆっくりと脱がせ、その秘部へと顔を寄せた。
「ねえ、柚希ちゃん。私に、君の全部を教えて?」
結季の声が、柚希の耳元で響く。柚希は、もう言葉を発することもできず、ただ小さく頷くことしかできなかった。結季は、柚希の秘部に舌を這わせた。
「ひぅっ……!」
柚希の喉から、甘く、か細い声が漏れる。それは、初めて経験する、衝撃的な快感だった。結季の舌が、柚希の秘部を執拗に舐め上げ、吸い上げる。その度に、柚希の身体は跳ね上がり、腰がうねるように動いた。
「やめ……て……」
柚希はか細い声で抵抗するが、その声には、快楽を求めるような甘さが混じっていた。結季は、そんな柚希の言葉を無視するように、さらに深く、激しく舌を動かす。
「んっ……あぁっ……!」
柚希の喉から、言葉にならない叫び声が漏れる。身体が小刻みに痙攣し、全身に電撃が走った。快感の波が、次から次へと押し寄せ、柚希は意識の淵へと沈んでいく。
「……気持ち、いい?」
結季が顔を上げ、柚希の顔を覗き込む。柚希は、涙で濡れた瞳で結季を見つめ、小さく頷いた。
「うん……すごく……」
柚希は、結季との関係から得られる安らぎと、一真への想いの間で揺れ動いていた。しかし、結季の支配的な愛撫と、そこから得られる快感によって、柚希の心は、結季の快楽の世界に、完全に囚われていく。二人の肉体関係は、さらに深いものとなっていった。
### 第4幕 第3話:チーム再起と一真の協力
女子バスケットボール部の練習試合が終わった後の体育館は、先ほどの男子チームの勝利の喧騒とは対照的に、重く沈んだ空気に満ちていた。1年生チームは、2年生チームに完敗を喫し、その敗北は、彼女たちのプライドに深い傷を残していた。由季は、試合後のミーティングでコーチから厳しい言葉を浴びせられ、唇を固く結んだまま俯いている。隣に立つ雄宇もまた、悔しさに震える拳を強く握りしめていた。詩織は冷静さを保ちながらも、その瞳には落胆の色が浮かんでいた。そして、不調の原因となった柚希は、チームメイトに申し訳ないという気持ちと、バスケに集中できなかった自分自身への苛立ちで、居た堪れない様子だった。
そんな彼女たちに、練習を終えた男子バスケ部のコーチが、静かに声をかけた。
「お前たち、今日の試合、ひどかったな」
コーチの言葉に、由季は顔を上げる。
「はい、申し訳ありませんでした」
「謝ってどうなる。お前たちは、まだやれるはずだ。特に、立花。お前がチームを引っ張るべきだろう。そして、東雲。お前が本来の力を出せば、もっとやれるはずだ」
コーチの言葉は、由季と柚希の心を深く抉った。由季は、チームを引っ張れなかった自分に責任を感じ、柚希は、自分の不調がチームに与えた影響を改めて痛感した。
ミーティングが終わり、由季たちは着替えを終えて体育館の出口へと向かう。その背中を、一真が見つめていた。彼の心は、彼女たちの悔しさを痛いほどに感じていた。
(俺に、何かできることはないだろうか……)
一真は、由季や雄宇、柚希たちの力になりたいと強く思った。
翌日からの練習は、さらに厳しいものになった。コーチは、由季たちの不調を立て直すべく、基礎練習を徹底させた。しかし、由季たちは、試合で敗北したショックから立ち直れず、動きに精彩を欠いていた。
そんな彼女たちの自主練習に、一真が声をかけた。
「由季、雄宇、柚希。自主練習、手伝わせてくれないか?」
一真の言葉に、由季と雄宇は驚いた表情を浮かべる。
「一真くんが?」
「うん。俺、お前たちの力になりたいんだ。コーチからスタミナ不足を指摘されたんだ。一緒に練習して、お前たちの力になりたいんだ」
一真の言葉に、由季と雄宇は笑顔を浮かべる。
「ありがとう、一真くん」
「うん、ありがとう! 心強いな」
二人は、一真が協力してくれることに喜びを感じ、一真との絆を深めた。
柚希も、一真の言葉に、少しだけ表情を和らげた。
「一真くん……」
「柚希も、一緒に頑張ろう」
一真の優しい言葉に、柚希の心に、温かい光が灯った。一真の指導を受けることで、バスケへの情熱を取り戻し、結季との関係で揺れる心を整理しようと、柚希は決意した。
一真は、女子1年生チームのメンバー、由季、雄宇、柚希、詩織、結季、それぞれの課題に合わせた練習メニューを考案し、指導を始めた。由季には、ポストプレイの技術を、雄宇には、フットワークの練習を、柚希には、シュートのフォーム修正を、詩織には、パスの精度を上げる練習を、そして結季には、リバウンドの練習を、それぞれ指導した。
練習は厳しかったが、一真の熱心な指導と、由季たちのひたむきな努力が、チームに活気を取り戻していった。一真は、由季や雄宇、柚希たちの力になりたいと強く思った。由季と雄宇もまた、一真が協力してくれることに喜びを感じ、一真との絆を深めていった。
詩織は、そんな一真のバスケットボールに対する真摯な姿勢に惹かれていく。そして、結季は、一真と女子チームのメンバーが協力し合う姿を、客観的に観察していた。
### 第4幕 第4話:女子会と葛藤
文化祭を終え、秋風が吹き始めた日の放課後。由季の部屋には、由季、雄宇、そして柚希の三人が集まっていた。リビングには、佳代子が手作りしてくれたシフォンケーキと紅茶が用意されている。しかし、柚希はどこか落ち着かない様子で、ソファの端に座っていた。彼女の心は、練習試合での敗北と、その後の結季との関係に囚われていた。
「ねえ、柚希。最近、なんか元気ないけど、大丈夫?」
由季が心配そうに声をかける。柚希は、由季の言葉に、胸の奥が締め付けられるような痛みを感じた。由季の、心から心配しているような優しい眼差しは、自分の秘密を抱えている柚希にとって、ひどく罪悪感を刺激するものだった。
「うん、大丈夫だよ。ちょっと、練習で疲れてるだけ」
柚希はそう言って、無理に笑顔を作った。しかし、雄宇は、そんな柚希の嘘を見抜いていた。雄宇は、無言で柚希の隣に座り、そっと柚希の手に自分の手を重ねた。
「柚希、嘘だよね? なんか、悩みでもあるんでしょ?」
雄宇の言葉に、柚希は言葉を詰まらせる。由季と雄宇は、一真をめぐる恋敵でありながらも、柚希にとっては大切な友人だ。しかし、結季との関係は、二人には話せない。
「…あのさ、由季、雄宇。…結季のこと、どう思う?」
柚希は、意を決して、そう尋ねた。由季と雄宇は、柚希の言葉に、少し驚いた表情を浮かべる。
「結季ちゃん? …結季ちゃんは、良い子だよ。私や雄宇の、大切な従姉妹だもん」
由季は、穏やかな笑顔で答える。雄宇もまた、由季の言葉に頷く。
「うん。結季は、お姉ちゃんと私が、離れ離れになっちゃった時も、ずっと心配してくれてたんだ。…本当に、優しい子だよ」
由季と雄宇の言葉に、柚希は胸が苦しくなる。自分が知らなかった、由季と結季、そして雄宇の間にあった真実。
「…ねえ、由季。…結季って、バイセクシャルなんでしょ?」
柚希は、もう一度、意を決して尋ねた。由季と雄宇は、柚希の言葉に、驚きを隠せない。
「どうして、そんなことを…?」
「…知ってたんだ」
由季は、静かに頷く。
「うん。…結季ちゃんは、一真くんのことが好きだった。…でも、一真くんは、私を選んだ。…だから、結季ちゃんは、一真くんへの気持ちを諦めたの。…そして、私や雄宇と、肉体関係を持った。…でも、それは、結季ちゃんが望んでいたことじゃなかった。…だから、今は、従姉妹として、普通の友達に戻ったの」
由季の言葉に、柚希は呆然とする。自分が知らなかった、由季と結季、そして雄宇の間にあった真実。
「…由季ちゃんは、それでいいの?」
柚希がそう尋ねると、由季は、静かに微笑む。
「うん。…だって、結季ちゃんは、私や雄宇の、大切な従姉妹だもん。…それに、結季ちゃんが幸せなら、それでいいの」
由季の言葉に、柚希は呆れ果てた。一真への独占欲が強い由季が、結季との関係をこんなにもあっさりと受け入れている。それは、由季と結季の間に、自分が入り込めない、強固な絆があることを示していた。
「ねえ、柚希」
雄宇が、柚希に声をかける。
「一真くんが言ってたよ。…最近の柚希は、「針を倒したハリネズミのようで、前より親近感がある」って」
雄宇の言葉に、柚希は驚きを隠せない。
「…一真くんが、そんなことを…?」
「うん。…今までは、針が立っていて近づきにくかったんだって。でも、最近は、少しだけ、話しかけやすくなったって」
雄宇の言葉に、柚希の心臓が締め付けられるような痛みを感じた。自分の心が、結季との関係で揺れ動いている。そして、その心の揺れが、一真にまで伝わっていた。
柚希は、自分の置かれた状況に葛藤を深める。一真への想いを諦めきれない自分。結季との関係で安らぎを得ている自分。そして、由季と雄宇という、強固な絆で結ばれた二人の存在。
### 第4幕 第5話:ジョギングと家族の絆
文化祭も終わり、富岳の山並みが朝焼けに染まる頃、一真の新たな日課が始まっていた。練習試合でコーチから指摘されたスタミナ不足を補うため、彼は由季と雄宇を誘って毎朝のジョギングを始めたのだ。三人の息遣いが、まだ静かな朝の空気に溶けていく。
「はぁ…はぁ…、きついな、由季」
「まだまだだよ、一真くん。もうちょっと頑張って」
由季は、一真の隣を軽やかに走りながら、彼を励ます。雄宇もまた、二人の少し後ろを追いかけるようにして走っていた。彼らの息遣いが、まだ静かな朝の空気に溶けていく。
「由季、速いな。雄宇も、もっとペースを上げていけ」
一真はそう言って、二人のペースに合わせて走る。由季と雄宇は、一真の言葉に笑顔で応え、ペースを上げる。三人の足音が、まるで一つのリズムを刻むように、富岳の街を駆け抜けていく。
ジョギングを終え、汗だくになった三人は、そのまま一真の家に直行する。一真の家には、佳代子が朝食の準備をしていた。
「あら、お帰りなさい。三人とも、すごく頑張ってるわね」
「ただいま、お母さん」
「ただいま、佳代子さん」
佳代子の言葉に、由季と雄宇が笑顔で応える。一真は、そんな二人の様子を見て、家族としての温かさを感じた。
「三人とも、汗を流してきなさい。朝食までには準備しておくから」
佳代子の言葉に、三人は頷き、風呂場へと向かう。一真は、由季と雄宇と三人で風呂に入ることに、もう抵抗はなかった。むしろ、それが彼らの間にある、特別な絆の象徴のように感じられた。
狭い風呂場に三人で入り、一真は由季と雄宇の体を洗った。由季の引き締まった背中を優しく洗う。由季は、気持ちよさそうに目を閉じ、一真に体を預ける。
「気持ちいい、一真くん」
「由季の体、本当に綺麗だな」
一真の言葉に、由季の頬が赤くなる。一真は、由季の体を洗い終えると、今度は雄宇の体を洗った。雄宇は、由季と同じく、引き締まった健康的な体つきをしていた。
「雄宇の体も、すごく綺麗だな」
「一真くんにそう言われると、嬉しいな」
雄宇は、一真の言葉に、笑顔を浮かべる。一真は、由季と雄宇の体を洗い終えると、今度は自分の体を洗った。由季と雄宇は、一真の体を洗ってくれた。
「一真くんの体も、すごくかっこいいな」
「由季ちゃん、ずるいよ。私だって、そう思ってるのに」
由季と雄宇は、一真の体を洗う。一真は、そんな二人の優しさに、心を温めた。
風呂から上がり、三人で朝食を食べる。佳代子が作った朝食は、三人にとって、何よりも美味しいものだった。
「一真くん、由季、雄宇。三人とも、本当に仲が良いわね」
佳代子の言葉に、三人は顔を見合わせ、笑顔を浮かべる。一真は、由季と雄宇、そして佳代子との間に築かれた、新しい家族の絆を改めて実感した。
### 第4幕 第6話:佳代子との遭遇
文化祭も終わり、朝のジョギングが日課となった一真の日常に、新たな疲労が蓄積されていた。その日の夜、夕食を終えた一真は、部活動と毎日のジョギングで溜まった疲労からか、先に風呂に入ることにした。由季と雄宇はまだリビングで宿題をしていたので、一真は特に声をかけることなく、脱衣所で服を脱いだ。湯船に浸かれば、今日の疲れも癒されるだろう。そう思いながら、風呂場の扉を開ける。
「…え?」
風呂場には、湯船に浸かった佳代子がいた。湯気で少し霞んだ視界の先に、佳代子の柔らかな輪郭が見える。一真は、あまりの出来事に言葉を失い、慌てて風呂場を出ようとする。
「あら、一真くん。どうしたの? 忘れ物でもした?」
佳代子は、驚く様子もなく、穏やかな笑みを浮かべて一真に声をかける。その声には、一真の慌てぶりを面白がっているような、どこか茶目っ気のある響きがあった。
「す、すみません! 佳代子さんが入っているとは知らなくて…!」
「いいのよ、気にしないで。どうせ、もう遅いでしょう?」
佳代子は、湯船から立ち上がり、湯桶を手に取る。一真は、顔を赤くして、どうしていいかわからなくなる。視線をどこに置けばいいのか分からず、ただただ立ち尽くすしかなかった。
「一真くん。…少し、お話しない?」
佳代子は、一真を呼び止める。その声は、先ほどの茶目っ気を含んだものではなく、真剣な響きを帯びていた。一真は、佳代子の言葉に、戸惑いながらも、風呂場へと戻る。佳代子は、一真のすぐそばに立つと、湯桶を置いて、一真の肩にそっと手を置いた。その手は、温かくて柔らかかった。
「ある程度知っているけれど、私は、一真くんの口から現在どういう関係で、今後どういう計画で二人と付き合うつもりなのか聞きたいの」
佳代子の問いかけに、一真は、一度深く息を吸い込む。彼女の瞳は、一真の心の奥底を見透かそうとしているようだった。
「はい、佳代子さん。重婚は犯罪ですし、現実的な問題も理解しています。だからこそ、俺たちは三人で一緒にいることを選択しました。俺と由季と雄宇は、お互いに生涯を共にすることを誓い合った、事実婚の関係です。二人とも、俺にとってかけがえのない大切な存在です。俺は、由季と雄宇、二人の人生を背負う覚悟です。いつか大人になったら、三人でこの家でずっと一緒に暮らしたいと思っています。それが、俺の二人にできる唯一の恩返しであり、二人の望むことだと思っています」
一真が真剣な表情でそう答えると、佳代子は、優しく微笑む。
「そう。…なら、由季と雄宇の体を洗ってあげなさい。…そして、二人の覚悟を受け止めなさい」
佳代子は、そう言って、一真の体を洗い始めた。その手つきは、まるで母親が子供を洗うかのように、優しくて丁寧だった。一真は、佳代子の手から伝わる温かさに、胸が熱くなるのを感じた。
「由季、雄宇! 一真くんが入っているから、さっさと風呂に入るように」
佳代子は、一真の体を洗い終えると、先に風呂場を出ていく。その声が、脱衣所へと響く。一真は、佳代子の言葉に、由季と雄宇との関係の重さを改めて実感し、二人の人生を背負う覚悟を決める。風呂場の扉が開く音がし、由季と雄宇の気配が近づいてきた。
### 第4幕 第7話:由季と雄宇の覚悟
佳代子の声が響く風呂場から、一真が去って数分後、由季と雄宇がその扉を開けた。湯気で満たされた浴室は、まだ一真の残り香が漂っている。由季は、風呂場に入るやいなや、脱衣所で体を拭いている佳代子に視線を向けた。佳代子は、由季の視線に気づくと、優しく微笑む。
「あら、由季。ちょうどいいわ。一真くん、先に上がったわよ」
佳代子の言葉に、由季は安堵の表情を浮かべる。雄宇は、そんな二人の様子を、少し戸惑いながら見つめていた。
「お母さん、一真くんと何かお話されましたか?」
由季が尋ねると、佳代子は、由季の頭を優しく撫でる。
「ええ。由季と雄宇、二人のことよ。…ねえ、二人とも、お母さんに話してくれない? 一真くんとどうしたいのか、二人の気持ちを」
佳代子の言葉に、由季と雄宇は顔を見合わせる。二人の瞳には、迷いはなく、強い意志が宿っていた。由季は、雄宇の背中にそっと手を添え、二人で佳代子に向き合った。
「お母さん、私と雄宇は、一真くんと生涯を共にすることを誓い合いました。重婚は犯罪ですし、法律上は三人で夫婦になることはできません。だから、私たちは『事実婚』という形で、三人で家族として生きていく覚悟を決めました」
由季の言葉に、佳代子は静かに頷く。由季は、一度深く息を吸い込むと、さらに言葉を続けた。
「そして、いつか、一真くんとの間に、子供を産みたいと思っています」
由季の言葉に、佳代子の目が大きく見開かれる。佳代子は、二人の真剣な眼差しから、その言葉が嘘偽りのないものであることを悟った。
「…そう。二人とも、そこまで考えていたのね」
佳代子の声は、震えていた。それは、怒りでも、悲しみでもなく、娘たちの覚悟と、その真剣な想いに触れたことへの、感動からくるものだった。佳代子は、二人の手を握り、力強く微笑む。
「分かったわ。二人とも、一真くんのことが、本当に好きなのね」
佳代子は、そう言って、由季と雄宇を抱きしめる。三人の間には、温かい空気が流れていた。佳代子は、二人の背中をさすりながら、静かに言葉を続けた。
「長く付き合うためには、お互いのことを理解し、譲り合う気持ちが大切よ。そして、どんな困難があっても、三人で力を合わせて乗り越えていくこと。それが、三人で幸せになるための、一番大切なことだから」
佳代子の言葉に、由季と雄宇は、涙を流しながら頷いた。二人の涙は、母親に理解してもらえたことへの安堵と、これからの未来への希望が入り混じった、温かい涙だった。
「お母さん、一つお聞きしてもいいですか?」
雄宇が尋ねると、佳代子は、優しく微笑む。
「いいわよ、雄宇」
「法律婚するなら、由季と一真かなって、最近思うんです」
雄宇の言葉に、佳代子と由季は驚きを隠せない。雄宇は、少し寂しそうな、それでいて晴れやかな笑顔を浮かべる。
「だって、お姉ちゃんは、いつだって私のことを守ってくれたから。…だから、由季と一真くんが正式な夫婦になって、私を家族として守ってくれたら、私は、とっても幸せだと思うんです」
雄宇の言葉に、由季の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。由季は、雄宇を抱きしめ、二人は姉妹の絆を改めて確認し合った。佳代子は、そんな二人の姿を、温かい眼差しで見つめていた。そして、彼女は、そっとコンドームを由季に手渡す。
「由季、これ。…お母さんからも、二人と一真くんの幸せを願っているわ」
佳代子の言葉に、由季は顔を赤くして頷く。由季は、コンドームを手に取り、正直に答えた。
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。一真くん、お父さんとお母さんの寝室からコンドームをもらってきて使っていますから」
佳代子は、一真の意外な行動に驚きつつも、安心した表情を見せる。
「そう…。そういえば、最近、妙にコンドームの減りが早いと思っていたのよ」
佳代子は、少し照れたように笑う。由季は、その言葉に、少し照れくさそうに、でも真剣な眼差しで付け加えた。
「はい。高校と大学は、学生として三人で同じ時間を過ごしたいので、避妊には気を付けているんです」
由季の言葉に、佳代子は再び胸を熱くする。娘たちが、自分たちの未来を真剣に考え、計画を立てていることに、深い感動を覚えていた。佳代子は、二人の幸せを願いつつも、長く付き合うためにお互いの理解と譲歩を助言する。
「…由季、雄宇、一真くん。三人で、幸せになってね」
佳代子は、そう言って、風呂場を出ていった。後に残された由季と雄宇は、お互いの顔を見合わせ、幸せそうに微笑み合った。二人の未来は、一真という存在によって、光に満ちたものに変わっていく。
### 第4幕 第8話:詩織の相談と告白
文化祭の熱狂が遠い過去となり、富士の山々を彩る紅葉が深まり始めた富岳第一高校のキャンパスに、秋の深まりと共に期末考査の足音が迫っていた。バスケットボール部の女子1年生チームは、先日の一真の指導もあって、練習試合での完敗という課題を克服すべく、以前にも増して真剣に練習に打ち込んでいた。由季の冷静な分析と、雄宇の負けず嫌いな性格が、チーム全体を突き動かす原動力となっていた。しかし、目の前に迫った期末考査もまた、彼女たちの心を圧迫し始めていた。
その日の放課後、由季、雄宇、そして詩織は、今後のチームの強化策について話し合うため、柊一真の家に集まった。一真の家は、もはや彼女たちにとって、部活動のミーティング場所であり、同時に心を解き放つことのできる、温かな心の拠り所となっていた。リビングに入ると、一真は温かいお茶と、佳代子が焼いたふんわりとしたシフォンケーキを三人に出してくれた。温かな湯気と甘い香りが部屋に満ち、彼女たちの緊張を少しだけ和らげてくれた。
「それで、今後の強化策について、何か良い案はある?」
由季が真剣な表情で問いかける。由季の瞳は、バスケに対する真摯な情熱で輝いていた。由季は、バスケの戦術や個々のスキルについて、具体的な改善点を次々と挙げていく。雄宇もまた、由季の意見に頷きながら、自分の意見を付け加えていく。二人は、まるで姉妹のように息がぴったり合っていた。
二人の真剣な議論を、詩織は黙って聞いていた。彼女の心の中には、漠然とした焦りが渦巻いていた。由季や雄宇、柚希、結季……みんな、一真との間に特別な関係を築いている。それに比べて、自分だけが一真との関係が希薄なのではないか、という不安が彼女を苛んでいた。一真は、そんな詩織の様子に気づくと、そっと詩織の肩に手を置く。
「詩織、どうした? 何か心配事でもあるのか?」
一真の優しい声に、詩織は顔を赤くして俯く。詩織は、自分の気持ちをどう表現すればいいのかわからなかった。しかし、由季と雄宇、二人の真剣な眼差しを見て、詩織は決心した。このままではいけない。自分を変えなければ。
チームの強化策についての一通りの話し合いが終わり、時計の針は既に夜の帳が降りる時間を指していた。由季と雄宇は、慣れた様子で帰り支度を始め、詩織もまたそれに続いた。一真は、三人を見送ろうと玄関に向かう。
「詩織、俺が家まで送っていくよ」
一真の言葉に、詩織は顔を赤くして頷く。由季と雄宇は、意味ありげな視線を交わすと、一真と詩織に微笑みかけた。
「じゃあ、一真くん、詩織のこと、よろしくね」
由季がそう言うと、雄宇もまた、詩織の肩をポンと叩いてから、由季と共に家路についた。
由季と雄宇を見送り、一真は詩織と共に、夜の道を歩き始めた。街灯の光が、二人の影を長く伸ばす。静寂の中、二人の足音だけが響く。詩織は、一真の隣を歩きながら、胸の高鳴りを抑えきれずにいた。由季たちには言えない、切実な想いが、彼女の胸の奥で渦巻いていた。
「一真くん……」
詩織は、意を決して、一真に話しかける。
「うん、どうした?」
一真の優しい声に、詩織は立ち止まり、一真に向き直った。街灯の光が、彼女の潤んだ瞳を照らし出す。彼女の頬は、夕焼けのような赤色に染まっていた。
「一真くん、私、一真くんのことが好きです。由季たち、みんな一真くんと特別な関係を築いているのに、私だけ、一真くんとの関係が薄い気がして……それが、すごく不安だった。だから、私、変わりたい。一真くんと一緒に、私も変わりたいんです」
詩織の告白に、一真は静かに頷く。彼の瞳は、夜の闇の中でも、詩織の揺れる心をしっかりと見つめ返していた。一真は、詩織の勇気を、そして「変わりたい」という彼女の強い想いを、心から尊敬していた。一真は、詩織の涙をそっと拭うと、彼女の震える手をそっと握りしめた。
「ありがとう、詩織。俺も、詩織のことが大切だ。俺も、詩織の気持ち、受け止めるよ」
一真の言葉に、詩織は安堵の表情を浮かべる。彼女の瞳は、まるで夜空の星のように輝いていた。二人の間には、温かい空気が流れ、街灯の明かりの下、二人の影が寄り添う。一真は、そっと詩織の腰に手を回すと、彼女の体を自分の方へと引き寄せた。詩織は、戸惑いながらも、一真の腕の中に身を委ねる。一真の温もりが、彼女の不安をゆっくりと溶かしていく。
一真は、詩織の耳元にそっと唇を近づけた。
「行こうか。もう少し、二人で話したい」
詩織は、一真の言葉に、小さく頷く。彼の言葉は、彼女の心に優しく響き渡った。
二人は、詩織の家とは反対の方向へ、ゆっくりと歩き出した。夜風が、二人の体を優しく包み込む。たどり着いたのは、人通りの少ない、ひっそりとした公園だった。公園の奥に、少し古びたブランコが一つ、月明かりの下で揺れている。二人は、そのブランコの隣にあるベンチに腰を下ろした。
詩織は、一真の隣に座り、まだ少し震える手で、彼のシャツの裾をそっと握りしめた。
「一真くん……私、本当に、変われるかな?」
一真は、詩織の顔を両手で包み込むと、彼女の額に優しくキスを落とした。
「ああ。俺が、詩織を支えるから。一緒に変わっていこう」
その言葉と共に、一真の指先が、詩織の頬をゆっくりと撫でる。その熱が、彼女の肌にじんわりと伝わった。詩織の心臓は、まるで激しいドラムのように鳴り響く。
一真は、詩織の顔を覗き込むように、さらに身を寄せた。
「詩織、俺は、お前が思っている以上に、お前を大切に思っている。だから、もっと俺に甘えてほしい」
その言葉に、詩織の瞳は大きく見開かれた。彼の真剣な眼差しに、彼女は吸い込まれそうになる。一真は、もう一度、詩織の唇に触れるようにキスを落とした。先ほどよりも深く、長く。詩織の体は、その熱に震え、まるで麻痺したように動かなくなった。
一真の手が、ゆっくりと詩織の背中を撫で、そして彼女のシャツの裾から、肌へと滑り込んだ。彼の指先が触れるたびに、詩織の体は甘い痺れに襲われる。公園の静けさの中、二人の吐息だけが、混じり合うように響き渡っていた。
「一真くん……」
詩織の弱々しい声に、一真は優しく答える。
「大丈夫。何も心配することはない」
そう言って、一真は詩織のシャツのボタンを一つずつ、丁寧に外していく。月の光が、詩織の白い肌を照らし出した。彼女の体は、まるで繊細な磁器のように美しく、一真の目に映った。詩織は、恥ずかしそうに顔を伏せるが、その瞳の奥には、確かな決意の光が宿っていた。
一真は、詩織の柔らかな肌にそっと唇を落とした。首筋、鎖骨、そして胸元へと。彼の吐息が触れるたびに、詩織の体は甘く身悶える。詩織の手が、一真の首にそっと回された。まるで、彼を求めるかのように。
二人の体は、夜の公園のベンチの上で、ゆっくりと一つに重なり合っていった。互いの肌の温もり、そして、心臓の音が、静かな夜の闇に吸い込まれていく。詩織の不安は、一真の腕の中で、ゆっくりと溶け去っていく。彼女の瞳には、もう迷いはなかった。ただ、一真への純粋な想いだけが、輝いていた。
肉体関係が終わった後、一真は、静かに泣き続ける詩織を優しく抱きしめた。
「詩織、ごめん。…怖かったか?」
一真の優しい声に、詩織は首を横に振る。
「ううん……怖く、なかった。…ただ、初めてで……」
詩織の声は、震えていた。一真は、詩織の髪を優しく撫で、耳元にそっと唇を近づける。
「詩織。…ありがとう。…俺は、お前のこと、一生大切にする」
一真の言葉に、詩織は、一真の胸に顔をうずめる。一真の温もりが、彼女の心にじんわりと広がる。
「…うん」
詩織は、涙を流しながら、頷く。二人の間には、言葉は必要なかった。ただ、互いの存在を確かめ合うように、強く抱きしめ合っていた。
夜空には、月が輝き、二人の行く道を照らしている。一真は、詩織を抱きかかえると、ゆっくりと立ち上がった。
「帰ろうか。…お前を、家まで送っていくよ」
詩織は、一真の言葉に、小さく頷く。一真は、詩織の顔を両手で包み込むと、彼女の唇にそっとキスを落とした。
「大丈夫。俺が、ずっとそばにいるから」
詩織は、一真の言葉に、安心した表情を浮かべる。二人は、月明かりの下、ゆっくりと家路についた。
### 第4幕 第9話:期末考査のテスト勉強
秋の深まりと共に、富岳第一高校では期末考査の足音が次第に大きくなっていた。部活動の練習も一時的にオフとなり、生徒たちの関心は一気に机上の勉強へと移る。一真もまた、大学受験という目標を胸に、いつも以上に真剣に机に向かっていた。
その日の放課後、一真の部屋には、由季、雄宇、柚希、詩織、そして結季の五人が集まっていた。期末考査を前に、六人での勉強会は、もはや恒例行事になりつつあった。由季は、数学の問題集を真剣な表情で解き進め、雄宇は、教科書に蛍光ペンで線を引くことに夢中になっている。詩織は、ノートを広げ、黙々と歴史の年号を暗記していた。
しかし、その日の部屋の空気は、いつもとは少し違っていた。柚希と結季の距離が、以前よりも明らかに近かったのだ。二人は、寄り添うように座り、英語の問題を解きながら、楽しそうに笑い合っている。
「ねえ、柚希ちゃん。この単語、どういう意味だっけ?」
「えっと、それはね…」
二人の声は、まるで囁き合う恋人のように、穏やかで、そして親密だった。
そんな二人の様子に、由季と雄宇は、戸惑いを覚えていた。特に由季は、柚希が結季と親密になっていることに、どこか複雑な感情を抱いている。雄宇もまた、姉の由季と同じような戸惑いを覚えていた。
一真は、そんな六人の様子を、客観的に観察していた。由季と雄宇の間には、揺るぎない絆がある。柚希と結季の間には、新しい関係性が生まれている。詩織は、自分だけがその輪の中に入れないことに焦りを感じている。そして、自分は、それぞれの女の子の想いが交錯する中で、どうすればいいのか、答えを見つけられずにいた。
「みんな、ちょっと休憩にしようか」
一真がそう言うと、由季と雄宇は、ほっとしたように息を吐く。
「わーい! 一真くん、ありがとう!」
雄宇が、一真に抱きつく。一真は、そんな雄宇の頭を優しく撫で、笑顔を浮かべる。
「みんな、これ食べてくれ。俺が焼いたシフォンケーキだ」
一真が差し出したシフォンケーキは、ふんわりと柔らかく、甘い香りが部屋に満ちる。由季と雄宇、そして詩織は、一真の差し入れに、笑顔を浮かべる。
「一真くんが焼いたの!? すごい!」
由季が、驚きと感動の入り混じった表情で一真を見つめる。
「うん、母さんが店が忙しくてなかなか家事ができないから、俺が代わりに焼いてるんだ」
「一真くん、本当にすごいね」
雄宇が、尊敬の眼差しで一真を見つめる。
「うん! 本当に美味しい! 一真くん、ありがとう」
由季と雄宇の言葉に、一真は照れたように笑う。二人の言葉の裏には、由季と雄宇が日々の生活でいかに一真に頼っているかという事実が隠されていた。
そんな六人の様子を、結季は、静かに観察していた。結季の心の中には、柚希との関係が深まっていることへの喜びと、由季と雄宇、そして一真の関係が、決して壊れることはないという、揺るぎない確信があった。結季は、柚希の肩にそっと手を置き、笑顔を浮かべる。
「柚希ちゃん、大丈夫だよ。…私たちが、一緒にいるから」
結季の言葉に、柚希は、結季の手に自分の手を重ねる。二人の間には、言葉は必要なかった。ただ、互いの存在を確かめ合うように、手を握りしめ合っていた。
### 第4幕 第10話:テスト反省会と家族の形
期末考査が終わり、張り詰めていた緊張の糸が緩んだ富岳第一高校のキャンパスに、穏やかな冬の気配が訪れていた。生徒たちは、一喜一憂しながら答案用紙を受け取り、冬休みへと向かう開放感を満喫している。一真も、手応えを感じつつも、どこか浮かない顔で由季と雄宇と共に家路を急いでいた。今夜は、家族四人が揃って、テスト反省会を兼ねた夕食をとるという、彼らにとっては珍しい日だった。
一真たちが暮らす家は、駅からもほど近い、静かな住宅街にある二階建ての家だ。玄関の扉を開けると、ほのかに温かい料理の香りが漂ってくる。それは、佳代子の仕事が終わる前に一真が手際よく作った、彼らの夕食の香りだった。由季が父の家から一真の家に引っ越してきたのが6月。彼らが家族になってから、まだ半年も経っていなかった。佳代子は駅からほど近い商店街で酒屋を営んでおり、朝早く家を出て、夜遅く帰る生活だ。そのため、由季と雄宇の学校が終わる時間にはまだ仕事中で、家族が揃って夕食をとることは滅多になかった。
「佳代子さん、おかえりなさい」
一真が玄関に顔を出すと、仕事着のエプロンを外しながら佳代子が微笑んだ。
「ただいま、一真くん。いつもありがとう。由季たちとのお弁当作りも、夕食の準備も、本当に助かってるわ」
申し訳なさそうに頭を下げる佳代子に、一真は柔らかな笑顔を返す。
「いえ、全然大丈夫です、佳代子さん。二人とも、俺にとっては、大切な家族ですから」
一真の言葉に、由季と雄宇は、顔を赤くして微笑む。一真は佳代子が若々しく見えるので「佳代子さん」と呼んでいた。由季は、一真の隣に立ち、彼の腕にそっと手を絡めた。
「お母さん、一真くんにはいつも感謝してるんだから、そんなに気にしなくてもいいのよ」
「そうだよ、お母さん。一真くんのご飯、世界で一番美味しいんだから」
雄宇の言葉に、佳代子は少し寂しそうに微笑んだ。娘たちが無邪気に褒め称える「一真くんのご飯」という言葉が、彼女の胸にチクリと刺さる。自分自身が作ってやれない料理を、一真が代わりに作っている。その事実が、彼女の心を複雑な感情で満たしていった。
リビングに入ると、テーブルには、一真が作った温かい料理が並んでいた。由季と雄宇が好きな、甘辛い味付けの唐揚げ、たっぷりの野菜が入ったポトフ、そして、ふっくらと炊き上がったご飯。佳代子は、その光景を見て、目を見開いた。
「一真くん、これ、全部あなたが作ったの?」
「はい。佳代子さんが店で忙しいから、俺が代わりに作ってるんです」
一真の言葉に、佳代子の心は、温かさと同時に、切ない感情で満たされていく。由季と雄宇が、なぜこれほどまでに一真に懐いているのか、その理由が、痛いほど理解できた。それは、彼女が娘たちにしてやれなかったことだった。
「由季、雄宇…」
佳代子が、二人の名前を呼ぶ。
「あなたたち、本当に、一真くんに頼りっきりなのね。お母さん、何もしてあげられてなくて、ごめんね」
佳代子の言葉に、由季と雄宇は、顔を見合わせる。由季は、静かに首を横に振る。
「そんなことないよ、お母さん。お母さんには、お母さんの頑張りがあるじゃない。お店を切り盛りして、私たちの生活を支えてくれているんだから」
由季の言葉に、雄宇も頷く。
「そうだよ、お母さん。私たち、お母さんのこと、尊敬してるんだから。それに、一真くんがいてくれて、私たちは全然寂しくないよ」
雄宇の言葉に、佳代子は、安堵の表情を浮かべる。一真は、そんな三人の様子を、温かい眼差しで見つめていた。
夕食が終わり、いよいよテスト反省会が始まった。佳代子は、由季と雄宇の答案用紙を一枚ずつ見ていく。由季は、ほとんどの教科で90点以上を取っており、雄宇もまた、苦手な数学で大幅に点数を伸ばしていた。
「由季、雄宇、よく頑張ったわね。特に雄宇、数学、点数上がったじゃない」
「うん! 一真くんが教えてくれたからだよ」
雄宇は、満面の笑みで一真を指差す。由季もまた、静かに頷く。
「一真くん、由季たちに勉強教えてくれたの?」
佳代子の問いに、一真は照れたように頷く。
「はい、まあ…少しだけ、ですけど。同じ大学で同じ時間を過ごしたいので。」
一真の言葉に、佳代子の心は、再び複雑な感情で揺れ動く。由季と雄宇は、一真の存在を、単なる義理の家族としてではなく、自分たちの生活に不可欠な存在として捉えていた。それは、佳代子自身が、娘たちにしてやれなかったことだった。
### 第4幕 第11話:由季との個別デート
期末考査が終わり、冬休みが始まるまでのわずかな期間、由季は一真との特別な時間を心待ちにしていた。その日、二人は約束通り、都心にある遊園地へと足を運んだ。冬の晴れ渡った空の下、賑やかな人々の声と、アトラクションの駆動音が心地よく響く。由季は、普段の学校での姿とは違う、お洒落なコートとスカートに身を包み、一真の隣で嬉しそうに微笑んでいた。
「一真くんと二人で遊園地に来るなんて、夢みたい」
由季はそう言って、一真の腕にそっと手を絡める。その柔らかな感触に、一真の胸は温かくなった。
「俺も、由季と一緒で嬉しいよ。雄宇も一緒だったら、もっと賑やかだったかもしれないけど」
一真の言葉に、由季は少し寂しそうな表情を浮かべる。
「…うん。でも、今日は一真くんと二人きりでいたかったの。雄宇のこと、一真くんに話したいことがあって…」
由季の真剣な眼差しに、一真は静かに頷いた。
二人は、ジェットコースターやメリーゴーランドなど、様々なアトラクションを楽しんだ後、閉園間際の静かになった観覧車へと向かった。ゴンドラがゆっくりと上昇していくにつれて、眼下に広がる夜景が、宝石を散りばめたようにキラキラと輝き始める。由季は、その幻想的な光景を眺めながら、ゆっくりと口を開いた。
「ねぇ、一真くん…」
由季は、一真の隣に座り、彼の顔をじっと見つめる。
「私、雄宇のことが、ずっと気になってるの。一真くんと二人でいると、すごく楽しくて、幸せなんだけど…でも、心のどこかで、雄宇が一人で寂しい思いをしてるんじゃないかって…」
由季の言葉に、一真は何も言わずに、ただ静かに耳を傾ける。
「…こないだ、雄宇と二人で買い物に行った時にね。雄宇が、『法律婚するなら由季と一真の方かも』って言ってたの」
由季は、観覧車の窓の外に広がる夜景に視線を移しながら、そう告白した。その言葉は、由季自身も驚きと戸惑いを隠せないものだった。
「雄宇が…」
一真は、由季の言葉に、由季と雄宇の姉妹の絆の強さを改めて実感する。二人は、単なる姉妹ではなく、互いを深く想い合う、かけがえのない存在なのだ。
「私、どうしたらいいのかわからなくて…」
由季は、震える声で一真にそう告げる。
「…私は、一真くんのことが大好き。でも、雄宇も、私にとっては大切な家族で、幸せになってほしい。だから…雄宇の気持ちも、尊重してあげたいって思うの」
由季の言葉に、一真は優しく由季の手を握る。
「由季…ありがとう。俺も、由季と雄宇、二人のことを大切に思ってる。由季が雄宇のことを想う気持ちも、俺は、すごく嬉しいよ」
一真は、由季の手を優しく握りしめ、由季の心に寄り添うように、静かに語りかける。
「俺は、由季と雄宇の二人が、ずっと仲良く、笑顔でいられるように、俺にできることを、精一杯やっていきたい。由季の気持ち、ちゃんと受け止めるから」
一真の言葉に、由季の瞳から、涙が溢れ出した。それは、一真への感謝の涙であり、雄宇への愛の涙であり、そして、自身の揺れ動く感情を、ようやく整理できたことへの安堵の涙だった。
観覧車のゴンドラは、ゆっくりと下降していく。二人の間には、温かく穏やかな空気が流れていた。由季は、一真の温かい手に、自身の感情を預けるように、静かに身を寄せた。
### 第4幕 第12話:雄宇との個別デート
期末考査が終わり、冬休みが始まるまでのわずかな期間。一真は、由季とのデートを終えた翌日、雄宇との個別デートの約束を交わしていた。由季が「雄宇と二人でゆっくり話してきて」と背中を押してくれたおかげで、一真は雄宇と二人きりの時間を楽しむことができた。雄宇は、普段の活発なバスケ部の姿とは違い、可愛らしいワンピース姿で一真の隣を歩いている。
「ねぇ、一真くん! 見て見て、あの魚、なんだか変な顔してる!」
雄宇は、水槽の中を泳ぐ魚を指差して、無邪気な笑顔を浮かべる。一真は、そんな雄宇の無邪気な笑顔に、心が温まるのを感じた。
「ホントだ。変な顔してるな」
一真もまた、雄宇と同じように笑顔を浮かべる。雄宇と二人で水族館に来るのは初めてだったが、雄宇の明るく無邪気な性格のおかげで、気まずさを感じることはなかった。由季とはまた違う、雄宇との穏やかな時間が、一真の心を優しく包み込んでいく。
「ねぇ、一真くん」
雄宇が、真剣な表情で一真に話しかける。
「うん、どうした?」
雄宇は、大きな水槽の前に立ち止まり、一真に向き直った。水槽の中を、色とりどりの魚たちが、優雅に泳いでいる。その幻想的な光景が、雄宇の真剣な眼差しを、より一層際立たせていた。
「一真くん、由季と私、どっちが好きなの?」
雄宇の言葉に、一真は言葉を失う。由季は恋人であり、雄宇は大切な家族。どちらかを選ぶことなんて、一真にはできなかった。
「雄宇…どうして、そんなことを聞くんだ?」
「だって、気になるんだもん。お姉ちゃんは一真くんのことが大好きだし、私も、一真くんのことが大好きだから」
雄宇は、涙を流しながら、一真にそう告白した。その涙は、一真への純粋な想いと、姉である由季への、切ない想いが混じり合った涙だった。
「雄宇…二人だけでいる時は雄宇が一番だよ。」
一真は、雄宇の涙をそっと拭う。雄宇は、一真の優しさに、さらに涙を流した。
「一真くん。…二人だけもいいけれど、姉も含めて3人の方がもっと楽しいかな」
雄宇の言葉に、一真は驚きを隠せない。雄宇は、一真を独り占めするのではなく、姉の由季と共に、三人で幸せになりたいと願っていたのだ。
「雄宇…」
一真は、雄宇を優しく抱きしめる。雄宇は、一真の温かい腕の中で、安心した表情を浮かべる。一真は、雄宇の真剣な想いに触れ、雄宇への特別な感情が、家族愛だけでなく異性への愛へと深まっていることに気づく。雄宇は、一真との二人きりの時間を通して、一真への愛を改めて確認する。
水槽の中を泳ぐ魚たちが、まるで二人の未来を祝福するかのように、キラキラと輝いている。一真は、雄宇の頭を優しく撫でながら、雄宇の耳元にそっと唇を近づける。
「雄宇。…俺も、お前と由季、二人のことが、大切だ。…二人を、絶対に幸せにする」
一真の言葉に、雄宇は、安堵の表情を浮かべる。二人の間には、温かい空気が流れていた。雄宇は、一真の胸に顔をうずめ、彼の心臓の音を聞いていた。その音は、雄宇にとって、何よりも心地よい、安らぎの音だった。
### 第4幕 第13話:詩織との個別デート
期末考査が終わり、冬休みが始まるまでのわずかな期間。一真は、雄宇とのデートを終えた翌日、詩織との個別デートの約束を交わしていた。由季や雄宇、そして柚希や結季が、一真と詩織の関係をそっと見守る中、二人は都心にある映画館へと足を運んだ。詩織は、普段の冷静な姿とは違う、少し緊張した面持ちで一真の隣を歩いている。
「一真くんと二人で映画館に来るなんて、夢みたい」
詩織はそう言って、一真の腕にそっと手を絡める。その柔らかな感触に、一真の胸は温かくなった。
「俺も、詩織と一緒で嬉しいよ。…でも、詩織はいつも冷静だから、どんな映画を観るのか、ちょっと緊張するな」
一真の言葉に、詩織はふっと笑顔を浮かべる。
「ふふ。大丈夫だよ、一真くん。今日は、一真くんが観たい映画でいいから」
詩織は、そう言って、一真の優しさに心を温める。二人は、一真が選んだ、感動的なラブストーリーの映画を観ることにした。
映画が始まり、暗闇に包まれた映画館の中で、二人は静かに映画の世界に浸っていた。映画の主人公が、ヒロインにプロポーズするシーンで、詩織はそっと一真の手に自分の手を重ねた。一真は、詩織の小さな手に、優しく自分の手を重ねる。二人の手は、まるでパズルのピースがぴったりと嵌まるように、一つに溶け合っていった。
映画鑑賞後、二人は駅前のカフェへと向かった。カフェの窓から見える街路樹は、イルミネーションで彩られ、ロマンチックな雰囲気を醸し出している。
「ねぇ、一真くん…」
詩織が、真剣な表情で一真に話しかける。
「うん、どうした?」
「私、中学の時、一真くんと同じバスケ部だったけど、話す機会なんてほとんどなかったでしょ? …だから、私、一真くんとの関係が希薄で、すごく不安だったの」
詩織は、そう言って、俯く。一真は、詩織の言葉に、胸が締め付けられるような痛みを感じた。
「ごめん、詩織。…俺も、もっと早く、詩織に話しかければよかったな」
「ううん、違うの。一真くんは悪くない。…私が、自分から話しかける勇気がなかっただけだから」
詩織は、そう言って、一真に微笑む。その笑顔は、中学時代には見せなかった、心の奥底に秘めた情熱を湛えた、特別な笑顔だった。
「だから、私、変わりたいって思ったの。一真くんと一緒に、私も変わりたいって」
詩織の言葉に、一真は静かに頷く。一真は、詩織とのデートを通して、詩織の内に秘めた情熱と、自分への真剣な想いを感じ取る。彼女の「変わりたい」という想いは、一真の心を深く揺さぶった。
「詩織…ありがとう。…俺も、詩織のことが、もっと知りたい」
一真は、詩織の手を優しく握りしめる。詩織は、一真の言葉に、安堵の表情を浮かべる。二人の間には、温かい空気が流れていた。
### 第4幕 第14話:柚希との個別デート
期末考査が終わり、冬休みが始まったばかりの週末。一真は、詩織とのデートを終えた翌日、柚希との個別デートの約束を交わしていた。由季や雄宇、そして詩織が、二人の関係をそっと見守る中、一真は柚希と都心にあるショッピングモールへと足を運んだ。柚希は、普段のバスケ部のユニフォーム姿とは違う、可愛らしい冬の装いで一真の隣を歩いている。
「柚希…今日は、なんだか、いつもより話しやすそうだね」
一真がそう言うと、柚希は少し照れたように微笑んだ。
「うん。…バスケ部の時は、一真くん、いつも由季や雄宇と一緒だったから、なかなか話す機会がなくて…」
柚希は、そう言って、俯く。一真は、そんな柚希の様子に、胸が締め付けられるような痛みを感じた。柚希は、バスケ部の練習試合で精彩を欠き、コーチに厳しい指導を受け、落ち込んでいた。そんな柚希を、結季は一生懸命に励ましていた。そして、柚希と結季の距離は、一真の知らないところで、急速に縮まっていた。
「柚希、最近、結季と仲良くなったんだって?」
一真の言葉に、柚希は驚いたように顔を上げる。
「…うん。結季が、いつもそばにいてくれて…だから、私も、結季のこと、大切に思ってる」
柚希の言葉に、一真は静かに頷く。由季が「結季はバイセクシャルで、一真に処女を捧げた後、由季や雄宇とも肉体関係になったがあまり気持ちよくなく、従姉妹として普通の友達に戻った」と話していたことを思い出す。その話を聞いた時、柚希は呆れていたという。しかし、今は、結季のことを大切に思っていると言う。柚希の心の中にある、複雑な葛藤が、一真には痛いほど伝わってきた。
二人は、ショッピングモールの中を歩きながら、映画や音楽、バスケットボールのことなど、様々なことを語り合った。柚希は、バスケ部での練習試合での不調や、バスケへの情熱を取り戻したいという想いを、一真に打ち明けた。一真は、そんな柚希の言葉を、ただ静かに聞いていた。
「…一真くん。私、最近、自分でも自分がわからなくなる時があるの」
柚希は、そう言って、一真の顔をじっと見つめる。その瞳には、一真への特別な想いと、結季との関係で揺れ動く自身の感情が、複雑に混じり合っていた。
「…中学の時、一真くんと話す機会はなかったけど、一真くんのことは知ってた。バスケに対する真剣な姿勢も、由季や雄宇を大切に想う気持ちも…だから、私は、一真くんのこと、ずっと見てたんだ」
柚希の言葉に、一真は驚きを隠せない。
「柚希…」
「でも、今の私は、なんだか、あの頃の私とは違う気がして…」
柚希は、そう言って、俯く。一真は、そんな柚希を、優しく抱きしめる。
「…柚希。俺は、今の柚希となら、もっと親しくなれそうだよ」
一真の言葉に、柚希は顔を上げる。その瞳には、涙が浮かんでいた。
「…一真くん」
柚希は、一真の胸に顔をうずめる。
「…お願い。一真くんに、抱いてほしい」
柚希の言葉は、一真の心に、深く響いた。
### 第4幕 第15話:柚希との肉体関係
柚希の「抱いてほしい」という言葉は、まるで夜の闇を切り裂くかのように、一真の心に深く響いた。ショッピングモールでのデートを終え、二人は柚希の家へと向かっていた。柚希の部屋の扉を開けると、そこには、柚希の日常がそのまま息づいている。本棚に並んだバスケットボールの雑誌、壁に貼られたプロバスケ選手のポスター、そして、ベッドの上のバスケットボールのクッション。
柚希は、一真に背を向けて、静かに制服のボタンを外し始めた。その華奢な肩が、少しだけ震えているように見えた。
「柚希、大丈夫か?」
一真の優しい声に、柚希は振り返らずに答える。
「…うん。…一真くん、怖くないから」
柚希は、そう言って、一真に微笑んだ。その笑顔は、中学時代には見せなかった、心の奥底に秘めた情熱を湛えた、特別な笑顔だった。
柚希がベッドに横たわると、一真はゆっくりと彼女に近づいた。一真の手が、柚希の柔らかな肌にそっと触れる。その熱に、柚希の身体は甘く震え、まるで麻痺したように動かなくなった。一真は、柚希の不安を溶かすように、優しく、そして深くキスを落とした。柚希の喉から、甘く、か細い声が漏れる。
「……怖いことは、何もしない。柚希が嫌なことは、絶対にしないから」
一真は囁き、彼女の額にそっと唇を寄せた。その言葉に、柚希は小さく頷く。瞳の奥に残る不安の影は、一真を見つめるその眼差しに宿る揺るぎない信頼に、少しずつ溶かされていく。
一真は、もう一度キスを落とした。今度は先ほどよりも深く、互いの内側を探り合うようなキスだった。舌が触れ合い、甘い唾液が交換されるたびに、柚希の喉からくぐもった声が漏れる。それは痛みではなく、初めて感じる快感への驚きと、抗えない悦びの混じった声だった。彼女の腰が、微かに、そして無意識に持ち上がるのがわかった。
やがて、二人のキスが一度途切れると、一真はゆっくりと彼女のブラウスのボタンを外し始めた。指先が鎖骨から胸元へと滑り落ちるたびに、柚希の身体はびくりと震え、熱を帯びていく。肌が空気に晒され、部屋の温度よりも熱い二人の体温が肌を通して伝わってくる。
「……一真くん」
柚希が潤んだ瞳で彼を見つめた。言葉にできない、複雑な感情が込められたその声に、一真はもう一度深くキスを返し、彼女の胸元に顔を埋めた。彼女の肌から香る、甘く爽やかな匂いを深く吸い込む。その匂いが、彼の理性を溶かし、本能を剥き出しにさせていくのを感じた。
柚希の震えは止まらない。しかし、それは恐怖の震えではなかった。彼女の胸元から漏れる吐息は、熱を帯び、荒く、そして微かに濡れた水音を立てていた。一真は、その身体の反応が彼女の内心を物語っていることを知っていた。
「綺麗だ……」
そう呟きながら、一真は優しく、そして丁寧に、彼女のブラジャーのホックを背中で探り、外した。ホックが「カチリ」と小さな音を立てると、柚希は安堵と羞恥の入り混じった息を漏らす。ブラジャーが外されたことで、彼女のバストは重力に身を任せて解放され、より豊かな丸みを帯びていた。それは、若々しいハリと柔らかさを兼ね備えた、成熟した女性の身体だった。
一真は、その美しい曲線に深く陶酔した。彼は乳房を両手で包み込むと、優しく揉み、乳首を指で弄ぶ。初めて触れられた乳首は、快感と寒さで硬く勃起し、柚希の身体は「びくっ」と大きく震えた。
「ひっ……!」
柚希の喉から、甘く、そして悲鳴のような声が漏れる。彼女は、これまでに感じたことのない、身体の奥底から突き上げてくるような衝撃的な快感に、戸惑いを隠せないでいた。それはまるで、眠っていた神経が突然叩き起こされたような感覚だった。
一真は、彼女の反応に歓喜しながらも、その戸惑いを優しく受け止めた。彼は乳房を吸い上げ、舌先で乳輪をなぞりながら、もう片方の手で柚希の腹部を優しく撫で下ろした。その手が下腹部に差し掛かるたびに、柚希の身体は大きく跳ね、息をのむ。
「やっ……、んん……」
柚希は羞恥心から顔を覆うが、身体は正直だった。吐息はさらに荒くなり、腰が自ら持ち上がろうとする。彼女の頭の中で理性が「いけない」と叫ぶが、身体は「もっと」と叫んでいた。
一真は、ゆっくりと自分のズボンのファスナーを下ろし、熱を持った陰茎を解き放った。柚希は、その男性器の存在に再び身体を硬直させる。しかし、その震えは恐怖ではなかった。それは、未知の快感への強い期待と、理性を超えた欲望の震えだった。
一真は、ベッドに横たわる柚希の太ももをそっと開き、自分の身体を彼女の間に滑り込ませた。彼の体温が、彼女の全身を包み込む。
柚希の身体は熱く、しっとりと濡れていた。その様子に、一真の欲望はさらに加速する。
彼はゆっくりと、そして優しく、自身の陰茎を彼女の性器に触れさせた。その瞬間に、柚希は「ひゃあっ」と短く悲鳴を上げる。彼女の身体の抵抗と、初めて感じる生々しい感触が、一真の陰茎を熱く締め付けていた。
一真は、柚希の顔を覗き込む。彼女の瞳は潤み、焦点が定まらない。その表情に、一真は言葉にならない快感を覚えた。
「大丈夫、ゆっくり……」
そう囁きながら、一真は自身の陰茎を柚希の膣口に押し当てた。柚希の身体は強張り、初めての痛みへの恐怖に息をのむ。しかし、一真は焦らなかった。彼は優しく、そして丁寧に、彼女の身体に無理をさせないように、ゆっくりと膣口に陰茎の先を埋めていく。
「ん……っ……」
わずかな痛みと、異物が侵入してくる感覚に、柚希は声を漏らす。しかし、その痛みは、徐々に快感へと姿を変えていった。膣の奥まで彼の陰茎が埋まると、彼女の身体は「ふっ……」と安堵の息を吐き出す。
一真は、そのままの姿勢で柚希を抱きしめた。そして、互いの呼吸が落ち着いたのを確認すると、ゆっくりと、そして柔らかなリズムで腰を動かし始める。
柚希の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。それは痛みでも、悲しみでもなかった。長年抱き続けてきた彼への想いが、肉体を通じて究極の形で満たされていくことへの感動と、理性を手放して彼にすべてを委ねられる幸福の涙だった。
一真は、柚希の涙を優しく拭うと、彼女の唇にキスを落とした。そして、彼女の耳元で囁いた。
「愛してる、柚希」
その言葉に、柚希は彼の身体を強く抱きしめ返す。
二人の身体が、ゆっくりと、しかし確実に、快楽の頂点へと向かっていく。
やがて、柚希の身体が大きく震え、彼を締め付ける力が強まる。その瞬間、彼女の喉から、今までに聞いたことのないような、甘く、そして情熱的な絶叫が漏れ出した。快感に身を任せ、理性を手放した、本能のままの声だった。
「んっ! ああ……っ!」
柚希の絶頂を感じた一真もまた、彼女の身体にすべてを注ぎ込んだ。熱い精液が、彼女の身体の奥深くに脈動とともに打ち出される。
二人の身体は、快感の嵐が去った後、深い脱力感に包まれた。汗ばんだ肌を密着させたまま、互いの体温と、鼓動の音だけが響いている。
「……一真くん」
柚希は、彼の名を呼ぶと、そのまま彼の胸元に顔を埋めた。
「ここに、いるよ」
一真は、安堵の表情を浮かべて、彼女の頭を優しく撫でた。
肉体関係が終わった後、一真は、静かに泣き続ける柚希を優しく抱きしめた。
「柚希、ごめん。…怖かったか?」
一真の優しい声に、柚希は首を横に振る。
「ううん……怖く、なかった。…ただ、男の人とは初めてで……」
柚希の声は、震えていた。一真は、柚希の髪を優しく撫で、耳元にそっと唇を近づける。
しばらくして、柚希は一真の胸から顔を上げ、静かに語り始めた。
「ねぇ、一真くん…」
柚希の瞳は、一真をまっすぐに見つめている。
「…体の反応は、一真くんと一緒だよ。でも、結季との方が、相性が良かった。やっぱり、女同士でないとわからない微妙な部分があるみたい。」
柚希の言葉に、一真は驚きを隠せない。
「…柚希」
「うん。…結季といると、すごく安らぐの。一真くんといる時の、ドキドキする感じとは違う、もっと、心にじんわりと広がるような、安らぎの気持ち」
柚希は、そう言って、一真に微笑んだ。その笑顔は、悲しみと安らぎが入り混じった、複雑な表情だった。
「だから、もう、一真くんの邪魔はしないよ。…でも、もし、機会があれば…また、抱いてほしい」
柚希の言葉は、一真の心に、深く響いた。一真は、柚希の言葉から、彼女の葛藤と、結季との関係の深さを理解する。柚希は、一真との行為を通して、自分の心が結季に傾いていることを再認識し、悲しみと安らぎが入り混じった複雑な感情を抱く。
### 第4幕 第16話:結季との個別デート
期末考査が終わり、冬休みが始まったばかりの週末。一真は、結季との個別デートの約束を交わしていた。普段は制服姿ばかり見ていた結季が、今日は柔らかいベージュのワンピースに身を包んでいる。彼女の繊細な雰囲気を引き立てる可愛らしい装いに、一真の胸は高鳴った。二人は、都心にある美術館へと向かった。
「一真くんと二人で美術館に来るなんて、なんだか新鮮だね」
結季は、そう言って、一真の腕にそっと手を絡める。その柔らかな感触に、一真の胸は温かくなった。
「俺もだよ、結季。…でも、結季がどんな絵が好きなのか、ちょっと緊張するな」
一真がそう言うと、結季は、ふっと笑顔を浮かべる。
「ふふ。大丈夫だよ、一真くん。今日は、一真くんが観たい絵でいいから」
結季は、そう言って、一真の優しさに心を温める。二人は、一真が選んだ、幻想的な風景画の展覧会を観ることにした。
美術館の中は、静かで穏やかな空気に満ちていた。二人は、絵画を鑑賞しながら、作品について語り合った。結季は、絵画の色彩や構図について、一真とは違う、繊細な感性で語る。その言葉に、一真は、結季の内に秘めた豊かな感性を感じ取った。
「ねぇ、一真くん…」
結季が、真剣な表情で一真に話しかける。
「うん、どうした?」
「私ね、柚希ちゃんのこと、大切に思ってるの」
結季の言葉に、一真は言葉を失う。柚希と結季の間に、特別な関係があることを、一真は知っていた。しかし、結季の口から直接聞かされると、やはり驚きを隠せない。
「…柚希も、結季のこと、大切に思ってるって言ってたよ」
一真がそう言うと、結季は、安堵の表情を浮かべる。
「よかった。…私、柚希ちゃんが、一真くんと二人きりの時間を過ごす度に、嫉妬しちゃってたんだ」
結季の言葉に、一真は、結季の心の中にある、複雑な感情を理解する。結季は、一真への愛と、柚希への愛の間で揺れ動いていた。それは、一真が由季と雄宇、二人の女性の間で揺れ動いているのと同じだった。
美術館でのデートを終え、二人は結季の家へと向かった。結季の部屋は、どこか無機質で、シンプルなデザインの家具が並んでいる。結季は、一真をベッドへと誘った。
「ねえ、一真くん。ここで、もっとゆっくり話そうよ」
結季はそう言って、一真をベッドに押し倒した。一真の身体は、結季の重みで、ベッドに沈む。結季は、一真の唇に、自分の唇を重ねた。そのキスは、一真の理性を、完全に奪い去っていく。
「一真くんの全部、私だけに見せてほしい」
結季の言葉に、一真の心臓が激しく脈打つ。それは、恐怖と、そして抗うことのできない快感に支配されていた。
### 第4幕 第17話:佳代子の独白
「ただいま、由季。雄宇」
商店街の喧騒から家へと戻ると、佳代子はまずリビングの扉を開けた。温かい空気がふわりと彼女を包み込む。仕事の疲れが、その温もりに少しずつ溶かされていくのを感じた。テーブルの上には、食べかけの夕食の皿が並んでいる。由季と雄宇、そして一真が共に楽しそうに夕食を囲んでいた光景が目に浮かび、佳代子の心は温かくなった。
「お母さん、おかえり」
由季が、二階の自室から降りてくる。その後ろから、雄宇も顔を覗かせた。
「お母さん、一真くんが作ってくれたご飯、すっごく美味しかったよ!」
雄宇は、そう言って、満面の笑みを浮かべる。その無邪気な笑顔に、佳代子の胸にチクリと痛みが走った。自分が作ってやれなかった料理を、一真が代わりに作っている。その事実が、彼女の心を複雑な感情で満たしていく。由季もまた、雄宇の言葉に静かに頷き、一真への感謝の気持ちを瞳の奥に宿らせていた。
佳代子は、二人の様子を複雑な感情で見つめた。娘たちがこれほどまでに一真に懐いているのは、彼が彼女たちにしてやれなかったこと、つまり、家庭の温かさを与えてくれているからだ。夫と離婚し、女手一つで二人を育ててきた。仕事に追われ、娘たちと向き合う時間を十分に取ることができなかった。寂しい思いをさせてしまったのではないか、という後悔が、佳代子の胸を締め付ける。
「由季、雄宇…」
佳代子が、二人の名前を呼ぶ。
「ごめんね、お母さん、あんまり何もしてあげられなくて…」
佳代子の言葉に、由季と雄宇は、顔を見合わせる。由季は、静かに首を横に振る。
「そんなことないよ、お母さん。お母さんには、お母さんの頑張りがあるじゃない。お店を切り盛りして、私たちの生活を支えてくれているんだから」
由季の言葉に、雄宇も頷く。
「そうだよ、お母さん。それに、一真くんがいてくれて、私たちは全然寂しくないよ」
雄宇の言葉に、佳代子は、安堵の表情を浮かべる。娘たちが、一真の存在によって、満たされていることを知った。それは、佳代子自身が、娘たちにしてやれなかったことだった。
その夜、佳代子は自室で一人、窓の外を眺めていた。満月が、冷たい光を放っている。由季と雄宇が小学校六年生の時に夫と離婚し、由季は父親に引き取られていた。佳代子は由季と別居し、音信不通になっていた。由季はクラス委員を務めるほど活発な子だった。雄宇はバスケットボールに夢中で、佳代子との時間は少なかった。そんな雄宇が、一真に初めて会ったのは、バスケの試合会場でバッグを探してもらった時だった。その時の感謝を、雄宇は今も忘れていない。そして、高校に入ってから、一真が雄宇のバスケの練習に付き合ってくれるようになった。彼の存在は、次第に、娘たちの生活に不可欠なものとなっていった。
そして、由季と一真の「事実婚」。最初は、反対した。まだ高校生だ。未来がある。ましてや、由季は、一真の元カノである柚希の親友なのだ。周囲にどう思われるか、という不安もあった。しかし、由季の真剣な眼差しを見て、佳代子は、何も言えなくなった。由季の瞳には、一真への深い愛情と、彼と生きていくという強い決意が宿っていた。
佳代子は、娘の幸せを願っていた。由季が、一真といることで、心から幸せそうにしている。雄宇もまた、一真を心から慕っている。それは、佳代子にとって、何よりも大切なことだった。
娘たちが、一真という存在によって、過去の傷を癒し、前に進もうとしている。その姿を見て、佳代子は、自分の後悔を乗り越え、一真に全てを託すことを決意した。一真は、娘たちにとって、かけがえのない存在だ。彼がいてくれるから、娘たちは幸せでいられる。
それは、母親としての切なる願いであり、由季と雄宇と一真の関係を、事実上の「家族」として受け入れた、佳代子の決意の言葉だった。
### 第4幕 第18話:クリスマスと家族の絆
12月も半ばを過ぎ、街はクリスマスムード一色に染まっていた。富岳市の商店街も、華やかなイルミネーションで彩られ、道行く人々の笑顔が溢れている。一真の家もまた、リビングにはクリスマスツリーが飾られ、食卓には手作りのご馳走が並んでいた。今夜は、一真の父・誠一郎と佳代子、そして由季と雄宇、家族四人が揃ってクリスマスパーティーを開くことになっていた。
一真は、由季と雄宇、そして両親のために、腕によりをかけて料理を作った。ローストチキン、ラザニア、そして、由季と雄宇が好きなシフォンケーキ。食卓には、温かい料理の香りが満ち、家族の笑顔が弾ける。
「一真くん、すごい! お店で出せるレベルだよ」
由季が、一真の作った料理を一口食べ、感動した表情を浮かべる。雄宇もまた、由季の言葉に頷く。
「うん! 一真くん、本当にすごい! こんなに美味しい料理、初めて食べた」
雄宇の言葉に、一真は照れたように笑う。
「由季、雄宇。一真くんは、昔から料理が上手だったんだよ」
誠一郎が、一真の頭を優しく撫でる。その言葉に、佳代子もまた、優しく微笑む。
「本当にそうね。一真くんには、いつも感謝してるわ」
佳代子の言葉に、一真は、顔を赤くして俯く。一真は、佳代子と由季、雄宇の三人から感謝の言葉をかけられ、嬉しさと同時に、少しの戸惑いを覚えていた。
クリスマスパーティーは、温かく、そして穏やかな雰囲気で進んでいった。食事が終わり、佳代子と由季、雄宇がリビングで談笑している中、誠一郎は一真を自室へと呼び出した。
「一真、少し、話があるんだ」
誠一郎の真剣な眼差しに、一真は、胸の高鳴りを抑えきれずにいた。
誠一郎の自室に入ると、誠一郎は一真をソファに座らせ、自分も向かいに座る。誠一郎は、一真の瞳をじっと見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「一真。お前が、由季と雄宇、二人の人生を背負う覚悟を決めたと、佳代子から聞いた」
誠一郎の言葉に、一真は静かに頷く。
「はい。…俺は、由季と雄宇を、幸せにしたい」
一真がそう答えると、誠一郎は、一真の肩に手を置く。
「そうか。…由季と雄宇は、お前と出会ってから、本当に、心から笑顔を見せてくれるようになった。お前がいてくれるから、二人は幸せなんだ」
誠一郎の言葉に、一真の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。それは、誠一郎に理解してもらえたことへの安堵と、これまでの苦悩から解放されたことへの、嬉し涙だった。
「ありがとう、父さん」
一真は、誠一郎に深々と頭を下げる。誠一郎は、一真の頭を優しく撫でる。
「一真。…お前は、由季と雄宇の、大切な家族だ。…そして、これから、二人の人生を背負うことになる。…その覚悟が、本当にあるのか?」
誠一郎の問いかけに、一真は迷うことなく、力強く頷く。
「はい。…あります。俺は、由季と雄宇を、絶対に幸せにします」
一真の言葉に、誠一郎は、安堵の表情を浮かべる。誠一郎は、一真の決意を聞き、事実婚を家族として公認する。
「そうか。…なら、もう何も心配することはない。…お前が、由季と雄宇を幸せにしてくれると信じている」
誠一郎は、そう言って、一真を優しく抱きしめる。二人の間には、温かい空気が流れていた。
誠一郎の自室を出た一真は、リビングへと戻る。そこには、由季と雄宇、そして佳代子が、一真の帰りを待っていた。
「おかえりなさい、一真くん」
由季が、一真に駆け寄る。その瞳は、一真への愛で輝いていた。雄宇もまた、一真の隣に寄り添い、笑顔を浮かべる。
「おかえり、一真くん」
佳代子は、そんな三人の様子を、温かい眼差しで見つめていた。
一真は、由季と雄宇、二人の手をそっと握りしめる。由季と雄宇は、一真の温かい手に、安堵と幸福を感じる。家族からの祝福と、一真の決意に、二人の未来は、光に満ちたものに変わっていく。
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