ある日、突然異世界転移。悲しいことに、転移先は終末世界。

@SFDLB

第1話 プロローグ

「次元振動に起因する次元断裂を確認。ε世界との接続に成功しました。これより、適性者の捜索を開始します」

「適合率58%、86%、92%、サーチ完了。100%の適性者を発見。『命導御霊輪』による魂の確保に成功。魂の定着を開始……」

「定着率が所定のレベルに達した為、これより帰還プログラムを起動します。」

「次元世界の座標を確認。転移を実行します……」

「転移開始まで十……九……八……七……六……五……四……三……二…………一……ゼロ」

「……帰還に成功。帰還後、魂を起点とした肉体の再構築を開始します。α液とγ結晶の投与を確認し、再構築プロセスを進行中」

「肉体の再構築に成功。魂と肉体の定着を確認しました」

「精密検査を開始。バイタルサインは正常、精神状態も安定。全行程が終了し、次元転移による適性者の回収に成功しました」


 一人の男が入ったカプセルの周囲で、研究員達が喜びの声を上げていた。


(……何だか騒がしいな……。何が起きたんだ……?)


 身体に走る痛みに耐えつつ、目を開いた。


「お目覚めですか?」

「ここは……いったい……?」


 ぼんやりとした頭でカプセルの中から周囲を見回す。


「ここは『スフィア』という星です。あなたは次元転移によって、この世界にやって来ました」

「次元……転移……?」

「はい、貴方は適性者として選ばれました」

「……適性者?」

「貴方には指揮官として我々『ミネルヴァ』を導き、侵略者『ヴェクスター』を撃退して頂きたいのです」

「???」


 何を言ってるのか分からないといった様子で周囲を見る。

 眼の前にいる女性はとても綺麗ではあるが髪や眼の色が蒼く、特徴的な長い耳が無ければコスプレイヤーか何かと判断していたであろう。

 他にもどうやって動いてるのか分からない機器の数々を見るに、彼女の言う通り、次元転移したと言うのなら、ここは本当に異世界なのだろう。


「いや、待ってくれ。侵略者? 俺が指揮官?」

「はい」

「一体何から……?」

「そうですね。詳しくご説明すると────」

「カトレア、詳細な説明は後回しで良いわ。長々と口頭で伝えても余計混乱するだけよ。こちらへどうぞ」


 カトレアと呼ばれた蒼い髪の美女が説明しようとするのを制し、幼い黒髪の少女がカプセルを操作して男を解放する。


「ゲホッ!ゲホッ!!」


 カプセル内部に詰め込まれていた液体が、喉に絡み付き咽る。


「肩をお貸しします。ゆっくりで良いので、あちらへ」

「あぁ……」


 カトレアの肩を借りて立ち上がろうとするが、上手く力が入らない。


「肉体を再構築したので力が入り辛いかもしれませんが、直に回復しますのでご安心を……」


 もたれ掛かる俺を優しく抱き留めてくれる。


(や、柔らかい……それに良い香りがする……)


 異性とここまで接触した事が無かったので思わず赤面する。


「大丈夫ですか?」

「あ、あぁ、悪いな……」


 何とか立ち上がり、黒髪の少女の元へと向かう。


「こちらへ触れて貰えますか?」


 言われるまま、少女が端末に置いた手の隣に手を置く。

 すると、俺の手から蒼い光が出て、眼前に置かれた巨大なディスプレイが明るくなる。


「やった!起動した!」


「成功だ!完全に同期も出来ています!本物の適性者だ!」

「俯瞰視点装置『隼』正常に動作中です!」


 様々な計器を確認しながら周囲の人達がざわざわと騒いでいる。


「これは……?」


 上空から眺めた視点だろうか。


(これの何が凄いのだろう?)


「これは私達が住んでいる施設を上空から映した映像ですね。こちらの方へとスライドさせて貰えるかしら?」


 言われるままに画面をスライドしていくと廃墟が映る。


「何が凄いのか分からないといった顔ですね。現在、我々の星は侵略者の放つ粒子によって汚染されています」

「粒子……?」

「ええ。この粒子はジャミング効果を持つ粒子で、これのせいで通信やレーダーが碌に機能しません」

「そんな……、じゃあ、この映像は……?」

「こちらは貴方が持つ別次元の力を軸にして、この世界を俯瞰した視点です。その力のお陰で粒子が極端に濃い場所を除けば、無人航空機等を使わずともどこでも覗き見る事が可能です」

「???」

「あまりピンと来ない? この機械は住んでいる世界の座標が違う貴方にしか使えない機能なのよ」


 カトレアと黒髪の少女が説明してくれても小難しい話は良く分からず、少女が操作しようとしても受け付けない様子で納得した。

 ディスプレイをスライドや拡縮させて眺めていると、激しい銃声や爆発音が聞こえたのでそれを表示させる。


「これは……」

「はい、これは戦闘中の様ですね。彼女達は先程お話した侵略者『ヴェクスター』と戦っています」

「これが『ヴェクスター』……?」


 ディスプレイに映された映像では異形の怪物と少女達が闘っていた。


(なんだ……あの化け物は?)


 多脚の虫型機械生命体や甲殻類の様な機械生命体がうじゃうじゃと群がっていた。


「でやああああッ!!」

「そこっ!!」


 その機械生命体に負けじと、剣や鎌といった武装をした少女達が一進一退の攻防を繰り広げていた。


「彼女達は人類が侵略者『ヴェクスター』に対抗する為に結成した特殊部隊『ミネルヴァ』です」

「『ヴェクスター』が現れ、人類が蹂躙される中、ある日、力に目覚めた少女達です」


 カトレアが彼女達について説明する。

 特殊部隊というだけあって、恐ろしい機械生命体にも優位に闘っているように見える。


「凄いな……。全然勝てそうじゃん」

「いえ、そういう訳には……。いけないっ!彼女達に撤退命令をお願いします!」


 映像内の周囲を観察していたカトレアが突然大きな声を出して要求される。


「えっと……。操作が分かんないんだけど……!?」

「彼女達に意識を向けて、語り掛ければ繋がると思うわ」


 黒髪の少女に言われた通り、部隊の中でも一際目立つ金髪ツインテールの少女に語り掛ける。


『あのーもしも~し』

『ひっ!?何々なになにッ!?新手の攻撃!?」

『いや、俺は敵じゃないんだけど……。その……撤退してくれない?』

『は?何言ってるの!?今が攻め時でしょうが!それに『ヴェクスター』を倒すのがあたし達の仕事よ!』

『いや、だから……』

『ロードグライドがそちらに向かっています。直ちに撤退してください』

『その声はカトレア……?分かったわ。みんな撤退よ!』


 カトレアの命令と分かると素直に撤退する少女達。


「指揮官、こちらをご覧ください」

「まだ指揮官になると決めてないけど……」


 視線を向けた先には、圧倒的な存在感を放つ巨大な機械生命体が佇んでいた。


「これがロードグライドと呼称している機械生命体です」

「重厚な外骨格に覆われたこの機械生命体は、生半可な攻撃では傷一つ付けられず、前面に装備されたワイヤークローで敵を捕縛、切断し、機動力も確保しています」

「両側面には我々のエネルギーシールドを容易く貫く機銃が多数配置されていて、近づく事すらままなりません」

「そんな化け物相手にどうするんだ……?」

「アイスコフィンの発射準備が完了しました。撤退が確認されたため、これより発射プロセスを開始します」


 宣告からまもなくアイスコフィンと呼ばれる砲弾が発射され、巨大な機械生命体ロードグライドに一直線に命中した。

 激しい爆発音の後に、周囲は白い銀世界となって氷漬けになった。


「なるほど……。小さいのは特殊部隊で処理して大物はアイスコフィンで倒すのか……」

「いえ……。アイスコフィンは、人類が所有する兵器の中でも屈指の性能を誇りますが、これでも一時しのぎにしかなりません……」

「アイスコフィンでロードグライドを倒すとなると、こちらも早々に資材が尽きて共倒れでしょうね……」


 カトレアと黒髪の少女の会話を聞きながら、眺めているとアイスコフィンが直撃して破損した箇所もジワジワと再生されていく。

 氷漬けにしたというのに細かいひび割れが発生していき、再度動き出すのも時間の問題だった。


「えっと……。じゃあどうやって倒すの?」

「現在の我々の力ではあのクラスを相手に倒す手段は持ち合わせておりません……」

「『ミネルヴァ』が相手取れるのは先程闘っていた雑兵だけ。しかし圧倒的な数の前には成す術がありません」

「ロードグライドに至っては傷一つ与える事は出来ません」

「そんな……」


 カトレアが沈んだ顔で語った。

 人智を超越したとも言える戦闘力を持っていたあの少女達でさえ、太刀打ち出来ない事に愕然とする。


「ですが、流石の俯瞰視点『隼』ですね。この力があったお陰で撤退も容易に済みました」

「そうね。これが無ければあの子達もロードグライドにやられて死んでいたわ。貴方の持つ力のお陰よ」


 黒髪の少女が両手を握ってお礼を言う。


「お礼を言われる事なんて……俺は別に何もしてないし……」


 彼女達にとっては状況を激変させるだけの事なのだが、未だ実感を持てずにいた。


「けど、あいつが出てきたら逃げる事しか出来ないならどうしようもないんじゃないか?」

「俺にはあの女の子達みたいに闘う事なんて出来ないぞ……」

「いえ、貴方にはもっと重要な役割があります」

「ええ、異世界の住民である貴方をこんな死地に召喚して、闘ってこいなんていう程、私達は鬼畜じゃないわ」

「その役割とは一体……?」


 ピー!ピー!ピー!

 質問しようとするとディスプレイから音が鳴る。


『ちょっと!緊急連絡なんだから早く出なさいよ!!』


 咄嗟に操作して何とか応答した瞬間、大きな声で怒鳴られた。


『どうしましたエルヴィーラ?』

『撤退する途中に逃げ遅れた人を見つけたの。助けてあげて!』

『……直にそこも激戦区へと変わります。避難誘導していたら貴女達が犠牲になる恐れがあるので、承諾しかねます』

『見捨てろっていうの!?』

『私も心苦しいのですが、これ以上、大事な戦力を失う訳にはいかないのです!』


 お互いの言い分は正しいからこそ譲れないのであろう。

 口を挟む事も出来ず眺める事しか出来なかった。


『……あたしは友達を、仲間を、人類を守る為にこの部隊に入ったのよ!見捨てるくらいなら死んだ方がマシよ!』

『エルヴィーラ!』

『落ち着いてエルヴィーラ。今の私達にはもう一つの希望があるわ。どうするかはそれの結果次第にしない?』

『……ごめん熱くなりすぎた。咲夜に従うわ……』


 エルヴィーラと呼ばれた少女はしゅんと肩を落とした様子で連絡を切った。


「じゃあ、もう一つの希望の結果がどうなるか見に行きましょうか」


 咲夜と呼ばれた少女の後を追って移動する。


「何故貴方を召喚する必要があったのかに関係する事なんだけど。どうして彼女達があれ程の力を発揮出来るか気にならない?」

「気になると言えばそうですね」

「大なり小なりあれど、この組織に集められた子達は私を含めてみんな不思議な力を持っているわ」

「力に目覚めた少女が現れてから、その力の出所をずっと私は追っていたの」

「それを追い求める傍らでこの施設が生まれ、特殊部隊『ミネルヴァ』が出来上がったのだけど」

「その力の出所が、貴方の住む別次元の世界という訳ね」

「何と言うか凄い壮大な話ですね……」

「そうね。でも今思えば全て必要な過程だったと思うわ。ここよ」


 咲夜に説明を受けながらとある部屋へと案内される。


「これは……?」

「これは、『Extra Dimension Harmonics Actuator』省略して『E-DHA』という物よ。貴方の住む世界から発生するエネルギーを増幅して少女達に与える機械と言えば良いかしら?」

「次元を超えて送られるエネルギーが、貴方を捉える事で座標を固定させて、振動し、増幅させているのだけど」

「正確に言うと……、ダメね話が長くなるだけで順を追って上手く言語化する自信が無いわ」

「どっちにしても良く分からないんだけど……」

「簡単に言うと彼女達を強化する装置といった所かしら?作ったのは私なんだけど技術的にも解明出来ていない点が多くて、細々とした指定とかは出来ないの」

「うーん、つまり誰がどれくらい強くなるかは分からないという事?」

「そんな所ね。ここのゲージにエネルギーが溜まっていれば起動する事が出来るはずよ」


 咲夜の隣に立ち、俯瞰視点装置『隼』を起動した時の様に手を添えると機械が動き始める。

 回転する機械からは、絶えず変化する多彩な輝きがあふれ、部屋中に温かくも幻想的な光が降り注いだ。


「凄い……!何が起きてるの……!?」

「これは……!」


 機械が大きく光を放つと頭の中に文字が浮かぶ。


(UR 暁の鎌舞姫 エルヴィーラ)


「結果はどうでしたか?」

「えっと、頭に文字が浮かんできて────」

「申し訳ありません!呼び出し音が鳴り響いているのでお戻り頂いても宜しいでしょうか!?」


 カトレアが勢い良く扉を開いて入ってくる。


「あ、あぁ」

「行きましょうか。恐らくさっきの結果が反映されたんだと思うわ」


 慌ただしく俯瞰視点装置『隼』が置いている指令室へと戻る。


『ちょっと!あんた達一体何をやったの!?』


 けたたましく鳴る呼び出し音に応じるとエルヴィーラから怒鳴られる。

 彼女の姿を見ると先程とは衣装が変わっており、装飾も豪華になっている。


『機械を動かしたらUR 暁の鎌舞姫 エルヴィーラと頭に浮かんだんだけど……』

『暁の鎌舞姫……?寝惚けてんの!?』

『エルヴィーラ?見た目以外に変化は無いかしら?』

『見た目以外……?今までと比べ物にならないくらい力が溢れてるわ……』

「エルヴィーラさんの状態をチェック始めます……。す、凄いです!これまでの2倍いや3倍……。いえ!10倍以上の力が計測されています!」


 オペレーターの女性がディスプレイと機器を見合わせながら驚愕の声を上げる。


『この力さえあればロードグライドにもきっと通用する……!良いでしょ咲夜!?』

『……そうね。その力が世界を救うに値するか見定める必要があるし。貴女がそこまで言うなら許可します。けれど手に入れた力をむざむざ失う訳にもいかないわ』

『ですから、少しでも劣勢になる様ならすぐに撤退してください。それが条件です」


 カトレアと咲夜は渋々と了承する。


『分かったわ……。それじゃ、あたしが時間を稼ぐから、みんなは逃げ遅れた人達の避難をよろしくね』


 オペレーターから避難ルートを提示され、隊員達もそれに従い、速やかに各自の役割をこなしていく。


「よし……。さぁ、来るなら来なさいッ!!」


 ロードグライドは短時間で修復を完了し、視認できる程に進行を再開していた。

 エルヴィーラは愛用の鎌を振り回してロードグライドと呼ばれる巨大な機械生命体を迎え撃ち挑発する。


「ギャオオオ!!」


 ロードグライドは咆哮を上げて前面に装備された複数のワイヤークローをエルヴィーラに向けて射出する。

 それをエルヴィーラは大きな鎌を軽々と操り、巧みにその攻撃を捌いていく。


「あいつの攻撃が見える……!これならいけるわ!」


 素早い動きでロードグライドの側面に回り込むが、その動きを瞬時に反応して機銃を乱射する。


「くっ……!」


 それに対してエネルギーシールドを張り攻撃を防ぐ。


「凄いです……!あの機銃は私達だと5秒と持たずに蜂の巣にされちゃうのに、完全に無効化できています!」


 俯瞰視点装置『隼』で状況を見守るオペレーターは興奮気味に話す。


「でやああああッ!」


 エルヴィーラは機銃を搔い潜る様に接近し、その勢いを重ねて鎌を大きく振り上げる。


「ギャオオッ……!」


 ロードグライドが呻き声を上げ、その大きな巨体がよろめく。


「あたしの攻撃であいつの装甲がこんなにも容易く……」


 アイスコフィンでも大した損傷を与える事が出来なかったのに、あの重装甲を深く切り裂く程の損傷を与えている。


「これなら……!」


 エルヴィーラは轟く音を響かせながら鎌を振るい、華麗な動きで翻弄する。

 対するロードグライドは、機関砲の連射で攻勢をかけるが、そのすべてが堅固なシールドに阻まれ、更には放たれたワイヤークローすら、エルヴィーラの鋭い鎌によって鮮やかに迎撃される。


「ここよ!」


 瞬時に鋭利な鎌で駆動部を斬り裂き、ロードグライドの機動力を奪う。

 その後、彼女は空へ高く舞い上がり、頂点から豪快に鎌を振り下ろす。

 すると、その刹那、ロードグライドの口が上下に裂け、内側から恐るべき砲門が出現する。


「なッ……!?」

『危ない避けて!!』


 カトレアが叫ぶが時すでに遅く、鋭い光りの輝きがロードグライドの砲門から放たれて、エルヴィーラの身体を貫く。

 直撃により体が吹き飛ばされ、激しい衝撃で地面に叩きつけられるも、怯むことなく瞬時に起き上がり、再び鋭い鎌を構えた。


「状態を確認します!損傷は軽微です!戦闘続行は可能です!」


 慌ててオペレーターがエルヴィーラの負傷状態を報告する。


『エルヴィーラ!大丈夫なの!?』


 カトレアが心配そうに問いかける。


『うん、今のはちょっと油断してたわ。次は喰らわない』


 先程の攻撃でも軽傷だった事に驚きを隠せない隊員達に対して、彼女は淡々とした様子で答えると再び駆け出す。


「今のレーザーは隔壁すら貫く威力なのに……」

「これが別次元からの力……」


 するとディスプレイが光り点滅を始める。


『今ならもっと凄い力を解き放つ事が出来そう……』


 それに呼応する様にエルヴィーラの身体が光を放つ。


『ロードグライドのエネルギー増大!次弾、間もなく発射されます!』

「させない!」

(エルヴィーラさん!どうか無事に帰ってきてくれ!)


 触れている端末に力が入り手に汗を握る。

 その想いに反応する様にエルヴィーラの衣装が変形し、より戦闘に適した形態になる。


「いっけえええッ!!」


 エルヴィーラの掛け声と共に大鎌が光り輝く巨大な三日月状の刃となり、ロードグライドに放たれる。


「ギャオオオ……」


 それはロードグライドの放った極太のレーザーをも切り裂いて、巨大な機械生命体を跡形も無く消し飛ばした。


「や、やった……!凄いです!勝った!勝ちましたよ!?」


 オペレーターが戸惑いながら感嘆の声を漏らす。


『やったわね!エルヴィーラ!』

「想像以上の結果だったわ。それに今のは次元翔華……。発動させる条件すら分からなかったのに、彼がいればそれすらも可能になるという事なのかしら」


 咲夜も驚きを隠せない様子である。


「はぁ……はぁ……、勝てた……?本当に倒せたの……?」


 自らの攻撃によって、眼前に広がる廃墟群は一瞬にして粉砕され、機械生命体の痕跡は影も形もなく消失した。

 あまりにも非現実的な破壊力に、現実感が薄れ呆然と立ち尽くす。

 エルヴィーラの装衣から排熱処理が行われ、元の服装へと戻る。


『エルヴィーラさん!やりましたよ!私達の完全勝利です!!』


 オペレーターが歓喜の声を上げる。


『凄いわエルヴィーラ!ロードグライドを倒したのよ!!』


 その声を聞いてエルヴィーラは足元から崩れ落ちる。


「うあああああっ……!」


 エルヴィーラが大粒の涙を流して泣きじゃくる。


「倒せた……。倒せたよぉ……!やった……。勝ったよぉ……」

『エルヴィーラ……。よく頑張ったわね……』


 指令室から俯瞰視点装置『隼』で見守る皆も涙ぐみ、勝利を分かち合う。

 皆の喜ぶ様からきっと歴史的勝利だったんだろうなと察するがその輪に入れず、ただ眺めている事しか出来なかった。

 その後、エルヴィーラ達は避難民を無事に連れて帰り、祝勝会だと皆は楽しそうに騒いでいた。

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