第二回さいかわ葉月賞 / 鳥のさえずり賞

 第二回さいかわ葉月賞テーマは「夏」、参加者の皆さま、並びに選者の皆さま、お疲れさまでした。

 夏と言えば、光と影が色濃く出る季節。生の輝きが増せば増すほど、そこに落とされる影も濃いように感じます。日本は八月に終戦記念日を迎えることも影響しているのではないかと思います。


 今回は選者の作品を除き50作。素晴らしい物語ばかりで、どれも甲乙つけがたく、かなり迷いましたが、最終的にずっと印象に残り続けた作品に決めました。

 鳥尾巻の選んだ作品はこちらです。


「蒼玻璃の地を征く」鈴ノ木 鈴ノ子様

https://kakuyomu.jp/works/16818792437821691469


 舞台は異世界。獣を基本とする様々な種族が混在する世界です。

 流麗で詩文的な文章で、寓話的な手法を取りながら、美しさだけではない戦争の虚無と厳格な死生観、人としての尊厳を描き出しています。

 鈴ノ木様の他の作品を拝読いたしますと、現代ドラマが多い印象ですが、言葉の選び方が美しく、こういった世界観を描き出すのにぴったりなのではないかと思います。それを一万文字以内に収めた手腕もお見事ですが、個人的には壮大な大河ドラマとして、長編で読みたいくらいです。


 私はどちらかといえば、物語を読む時はイメージ先行で、情景が頭に浮かぶかどうかを考えます。この物語を最初に読んだ時、なんとなくアジアの雄大な景勝地が浮かんだのですが、何度か読み返すうちに、ヨーロッパの小国が浮かびました。

 具体的な場所で言えば、ジョージア(グルジア)辺りでしょうか。コーカサス山脈の南麓、黒海の東岸、古来から数多くの民族が行き交う交通の要衝であり、幾度もの他民族支配にさらされながらも伝統文化を守り通してきた国です。

 まことに勝手ながら、作中の民族軍衣に「チョハ」と呼ばれるジョージアの民族衣装を当てはめて読んでおりました。宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」の衣装の元になったと言われる服と言ったら分かりやすいでしょうか。(鈴ノ木様のイメージと違っていたらすみません)

 

 様々な要素を溶かし込んだ多様な文化と、そこに息づく人々、蒼い玻璃ガラスを透かして見たような涼やかな夏が眼前に浮かびます。

 亡き人の遺志を継ぎ、しきたりに従い冷厳な沙汰を下した准将の顔から、最後に、いち女性の顔、母の顔に戻っていく……。かの人本来の柔らかさや想いに触れて、切ないような感慨を抱きました。


「スリファンは夏が映ゆる、まこと、瑠璃の如く。」

 最初と最後の一文も効果的で素晴らしかったです。


 鈴ノ木鈴ノ子様、素敵な「夏」作品をありがとうございました。


 たくさんの力のこもった物語に出会い、私も素晴らしく熱い夏を過ごさせていただきました。


 あ、そうそう。さえずり賞なのに、鳥のさえずりを忘れていました。素敵な作品に出会った時の鳴き声です。

 では、改めまして。

「すきぃぃぃぃ!!」


 皆様、本当にありがとうございました。

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二丁目スナックさいかわ / 鳥尾巻編 鳥尾巻 @toriokan

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