第4話
「では、俺がいくつか質問するのでお応え頂けますか」
「勿論。嘘偽りなく答えさせてもらうよ」
自前の羊皮紙と羽ペンを用意した俺は、至って真剣な顔でタン様と向き合っていた。なんたって、世界の最先端技術の話を師匠以外の本物の魔女様と一対一でするのだから。
しかしながら、言わずもがな心中はLet's party状態である。こんな重役を師匠から任されるなんて、名誉以外に何があるというのか。ちなみに俺の表情と心中が合ってないのがわかる師匠は笑死してカウンターに突っ伏している。少し遠目になるここから見ても震えているのがガッツリわかる程笑っているが気にしない。嬉しい事は全力で喜んでこそなのだ。
と開き直りつつ、紙にペンを走らせる。
「まず、汽車自体にトラブルがあるという事ですが具体的は何があったのでしょうか?判断がつかない、とも仰っていましたが」
「そう、僕が実際に見たり体験した訳じゃないから判断がつかないんだけどね。汽車の操縦士から聞いた情報によると、どうやら随分性能が良過ぎるらしい」
「……??」
性能が良いのは……、トラブルというより嬉しい誤算なのでは?
あまりに表情に出過ぎていたのか、タン様は口を抑えて笑った。
「ククッ……、いやぁ命の魔女様が君を一番弟子にした理由がわかるなぁ」
「もしかしなくとも、今俺からかわれてます??」
「まさか!!褒めてるんだよ」
それにしては小馬鹿にされている感じがするんですけど。
「少し良い分には何も問題ないんだ。むしろ大歓迎。でも、良過ぎは予期せぬ大きなトラブルに繋がる可能性があるからね」
「なるほど。今回性能が良過ぎるっていうのは一体」
「汽車の速度が2倍くらい速かったらしい」
「それかなり危なくないですか??」
「そうなんだよね~」
この人すごいのほほんとしてるけど、操縦を少しミスったら大事故だ。最初はトラブル把握の為にタン様が確認してないのに違和感を覚えていたけれど、なるほど。確かに速度2倍なら話は別だ。汽車を走らせようものなら死者が出かねない。
「ちなみに他に性能の不具合があったりは?」
「ないね」
「となると、汽車の整備は?」
「1カ月前くらいに創造の魔女様が来て下さったよ。その時は問題なかったはずなんだけどね」
「魔女様の整備後に不具合が?」
「そう。その上、気になるのは不具合が生じた汽車が1本だけだったって事」
魔女様の整備なら完璧に安全性が保障されていると言っても過言じゃない。しかも1カ月前なら整備直後だ。そんな偶然あり得るのか?
「整備内容の変更等はありましたか?」
「いや、毎回同じにしてるよ。下手に変えて何かあったら困るからね」
俺は腕を組んで眉間に皺を寄せた。益々わからない。
創造の魔女様、クレエ・フェクダ様。ドワーフ合船国の長であり、世界屈指の魔導士でもある。これまでに何百人もの名のある魔道士がその門を叩いたというが、漏れ無く全員帰らされている程拘り強い技術者なのだ。
最先端の応用技術が必須な高難易度の仕事とはいえ、そんな人が中途半端な整備のままにするか?
訳も分からず唸っていると、蘇生(?)した師匠がやれやれと言わんばかりのため息を付いた。
「はぁ、話を聞くだけで解決するものでもないでしょ。汽車を直接見に行った方が良いんじゃない?」
「……確かに」
「では、倉庫にご案内しましょう」
師匠の言う通り、これは実物を見た方が速そうだ。単なる相談ではなく解決する為の質問だったが空振りで終わるかもなぁ。
すごすごと道具を俺専用のボストンバッグに片し、トランクの上に乗せて落ちないよう持ち手を付属のカラビナで固定する。
「アルク」
いつの間にか側にいた師匠は、俺に向けて両手を挙げ『ん』と言った。お決まりのだっこ合図である。
「はいはい」
「『はい』は一回」
「はい」
普段は子供扱いすると怒るのになぁ。剥れている師匠に軽く呆れながら抱き上げる。
「あれ」
「どうしたの」
「何か、師匠」
「何よ?」
何故このタイミングで言ったかは自分でもわからないが、俺は次の一言を思いっきり後悔する事となる。
「重くなりました?」
その瞬間。一気に凍り付く空気。視界の隅で額を抑えるタン様。そして、目の前で肩を震わす師匠。
あ、やってしまっ――――
その日、雪の舞う一面真っ白な空に随分小気味良い大きな音が響いたという。
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