魔女様の一番弟子

瑠栄

時の魔女【タン・ドゥーベ】

第1話

"チリンチリンッ"


 景気のいい鐘の音が車内に響き、扉の向こう側が騒がしくなり始めた。


『まもなく終点・時の駅でございます。お忘れ物のないようご注意ください』


 指先で車窓カーテンを少し退けると、そこは白銀の世界。外は相当寒いらしく、窓の周りが白く曇っていた。この時期に雪が降ってるのは、確かに時の駅の周辺諸国だけだろう。


「もうそろそろ着くようですね。師匠」


 俺が『師匠』と呼びかけた目の前の少女は、ゆっくりと瞼を上げた。この世界の誰もが羨み、魔力と技術が豊富な事を意味する金髪紅眼。珍しくもエルフの証である白くと尖った耳。おまけにビスクドールのような服にご尊顔。やっぱり騒がれないようスイートクラスにしといて正解だったな。


「……私がいなくとも、せめてファーストクラスにはするべきだったと思うわ」

「あのですね、他人の心を許可なく読むのやめてくださいよ」


 先程の発言通り、この人は俺の恩師であり世界でたった7人しか存在しない魔女・クフェア様。俺はそんな伝説の人物の弟子、と言っても銀髪碧眼魔力が全くないの為魔法が使える訳ないのだが。


 さて、今までずっと家で引きこもっていた俺達が何故汽車に乗ってまで遠路遥々ここまで来たのか。それは先日の昼頃まで遡る。




✧˖°.✧˖°.⟡⋆⭒˚。⋆✧˖°⁺˚⋆。°✩₊⋆。˚




"コンコンコン"


「……?」


 それはいつも通り、14:39ぴったりに午後の紅茶を淹れ師匠の部屋に運んできたところだった。すぐに帰ってくる返事がいつまで経っても聞こえず、俺は心配になって扉を開けた。


「失礼しまーす」


 長い髪で顔は見えなかったが、何やら真剣な雰囲気で手元を見つめていた。滅多に開けない窓は全開にされており、不思議と別の部屋に感じられる。


「あのー、師匠?紅茶淹れましたよー」


 これだけ話しかけられて微動だにしないなんて、こりゃ何とも珍しい。気になって手元を覗き込むと、一通の便箋が握られていた。……そう、手紙ではなく便だ。


 まぁ、師匠魔女だし。こういう事もあるか。


 こちらは特段珍しい事でもないので、とりあえず風が入り込み過ぎないよう窓を閉め、紅茶を注いでおく。


「師匠ー、渋くなる前に飲んどいてくださいよー」


 自分の世界に入った師匠はとにかく周りが見えなくなるタイプだ。返事は元から期待してなかったのもあって、さっさと台所に戻る。先程洗い終えた皿を拭きながら、今日のノルマを頭の中で整理する。


 庭の手入れと試作薬作って、その後魔法陣の勉強をして、それか――――


「アルク」

「はい!?」


 思わず落としそうになったカップを床スレスレでキャッチし、体操選手みたいな恰好のまま首だけ振り向いた。


 そこには、繊細な金糸の刺繍で明らかに余所行きだとわかるドレスを身に纏った師匠が、身長と同じくらいのどでかいトランクを横に置いて立っていた。


「悪いけど、今から出掛けるわよ」

「え、ど、はい?」

「急ぎなさい。汽車の時間もあるから、あと10分で出るわよ」

「ま、待ってくださいよ、急にどうし」

「坊や……時の魔女から呼び出されたのよ」


 そう言って突き出された手には、"時の駅行きー特別車両SSー"と書かれた切符。何が何だか状況把握が出来ない俺は、それをしばらくポカンと見つめていた。




 今思えば、その切符こそ俺の運命を分けるものだったのかもしれない。

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