~始まりの村~ 11 異形との遭遇

 区間4で分かったことは、森中にモンスターの死体が転がっていたこと。

 以上だ。

 どういう訳か、死体から得られる情報が不自然な程に得られず、死因も状態も分からん。

 しかも、周囲を確認しても何があったのかがまったく分からない。

 まるで情報が認識できない……幻術にかかったみたいだ。


 だが、湛山の死体がある以上、この先には森のモンスターを蹂躙できる存在がいることだけは分かった。

 そして、その存在はヌシ様である可能性が高い……。いや、別の存在がこの場所に紛れ込んだかもしれないから、下手人はヌシ様じゃない可能性も残ってる。

 そのによって、ヌシ様が動けない状態になってるかもしれないからな。


 そう自分に言い聞かせるように何度も同じ推理を反推させながら、死の森に変わり果てた区間4を見回して進む。

 生きた動物やモンスターに出会うことなく中層域の森を抜け、とうとう目的地である深層域へと辿り着いた。



 ———森を抜けるとそこには、これまで見た中で最も大きい思えるくらいの巨大樹が立っていた。

 木々が不自然に空いた空間に、ポツンと1本だけ栄える大樹は、どこか普通の木とは違い神聖さを醸し出していた。

 この場所こそが俺達の目的地、ヌシ様の住処だ。


「ここが目的地か?」

「俺も直接来るのは初めてだが、以前村長から聞いた話と一致するから間違いないだろう。あの巨大樹のうろにヌシ様は住んでるらしい。見に行くぞ」

「それが私らの仕事だからな、いつでも戦えるようにしとけよ」


 ラピスは俺にそう告げると、周囲の音を聞き取ろうと耳を澄まし始めた。


「……音がしない。多分だが今は不在だぞ、そのヌシ様とやらは」

「そうか。……なら、今の内に住処を調べるぞ」


 ラピスのお陰でヌシ様がいないことが分かったが、それでも念のために武器を抜き、周囲に気を配りながら探索する。

 狭い場所でも無いし、用心したに越したことはない。剣を持ちながらでも調査や戦闘を行っても支障はないだろう。

 そう思い中を覗くと、大人2人分もの高さのある空洞だった。

 想像以上に広いな。それに、流石はヌシ様の住処というべきか、獣臭さもあまり感じないな。


「獣にしては清潔感のある場所だな、食いかけのヤツとか残骸が転がってるけど」

「高位のモンスターほど、生活環境は清潔にする傾向があるらしい。知能が高いからなのかもな」


 ということで、ヌシ様の住処を調べる。


 カランカラン……。

 白68失敗 

 バンカ50成功


 ・・・何かよく分からん物があった。

 ラピスに聞いてみるか。


「ラピス、これを見てくれないか」

「何か見つけたか~」


 たった今見つけた物に指をさし、見るように窺う。

 その指を指す方を見たラピスは………まじまじと見た後、何かに気が付いたようで表情を一変させる。

 整った表情が固まり、頬を引き攣らせていた。


 ………俺が指さした物とは、見たことも無い生物の残骸だった。

 その残骸とは、川原でたまに見かけるカニのような硬い殻と、コウモリのような大きな羽だ。

 このような残骸が、いくつも洞の中にあるゴミ寄せ場と思わしき場所に放置されていた。


 この2つの部位を持つモンスターはこの辺りにはいないし、見たことすらない。

 それぞれ別のモンスターの残骸の可能性もある?

 ……いや、残骸の中には引き千切られた物だと思わしき甲殻で覆われた腕部分と、その部位につながったコウモリの羽と思わしき物まである。

 だから、同じモンスターである可能性が高い。

 もしかして新種か。

 他の地域からの流れのモンスターがこの森に入り、ヌシ様に仕留められて喰われたのだろう。


 そう考える方が自然だ。

 だが俺は、この残骸に異様に興味を惹かれた。

 これは見逃してはいけない情報だと思えたのだ。


「てことでお前に見せたわけだが、何か分かったか?」

「・・・」

「お、おい、どうした」

「……なぁ、バンカ。今回の件は絶対に面倒臭いことになるの確定したわ」

「は?」


 いきなり何を言い出すんだ、こいつ……?

 俺がそう思っていると、ラピスは木の洞から出て周囲を見回す。

 すると、ある場所へと一直線に向かい出した。


「ここか」


 向かった先は、木々とかも何もない開けた場所だ。

 何か手掛かりや痕跡でも見つけたか?と、俺がそう思った瞬間、ラピスはその場所へと手を伸ばし………何もない空間に手をかざしていた。


 ……いや、あれは何かに触れているのか?


「バンカ、ここに何かあるぞ」

「成程、魔法か幻術の類で隠してあるのか。よく見敗れたな」

「この辺りだけ景色が少し歪んでいるように見えたからな。それより、こういう術の消し方とか持ってるか?」

「すまん、俺は持ってない」

「……なら仕方ないか」


 ラピスはそう呟くと、その空間に向けて鉄の棒を構え、勢いよく振り下ろした―――!。

 バキィィィン―――と、硬い物同士がぶつかる音がした。

 すると、バチリという音と共に、一瞬だけ隠されていた物体の全体像が見えた気がする。


「もう、1回だ!」


 再び鉄の棒を振り下ろす。


 バキィン、というさっきよりも軽い殴打音のが響く。

 だが次の瞬間、再び同じバチリという音がした。

 すると、その音が鳴ったと同時に、隠されていた物体の全体像が、今度こそはっきりと見えるようになった。


 それは、硬い石のような材質でできた建物。

 外見は綺麗な正方形をしており、高い技術を持って造られたのだと予想できる。

 このような綺麗な建物は、王都の貴族邸でも見られるか分からない。そう思える程の代物だった。

 このような建物が何故、こんな辺鄙な村近くの森の深い場所にあるんだ?そんな疑問を抱く程に見事で、この森の中では場違いな代物だった。


「うわぁ、コンクリート製かよ。ファンタジー世界にこんなの持ちこむんじゃねぇぞ、あのえび野郎……」

「……は?お前、この建物を造った人物に心当たりあるのか」

「ぶっちゃけ、あるっちゃある。正直言うと、私も会ったことなんて無いがそいつに関する知識はある。物語に登場するドラゴンという怪物は知ってるが、実際には見たことは無いって感じだな。それより、ここの入り口空けっぱになってっから肉壁になれ先導してくれ

「……なんかお前、さっきよりも元気になってないか?さっきは少しだけ残ってた落ち着きが消失してるぞ。……それと最後、何か物騒なこと考えなかったか?」

「考えてない。そんな御託はいいからさっさと進めよ。いつでも襲われてもいいように、武器は常に構えとけよ」

「それは十分承知してるが………なぁ、俺達って今からモンスターの巣にでも侵入でもするのか?」

「そうだぞ」

「そうなの!?」


 ……気になることはたくさんあるが、ラピスは何も話そうとしてくれない。だから、ここで話していても時間を消費するだけか。

 つか、こいつが俺を先導させるなんてな。

 短い付き合いだが、どんな時でも前に出たがる性質だと思っていたが……何を考えてる。

 仲間を肉壁にでもしようとしてんのか?それともやっぱり敵勢力の刺客で、俺を後ろから始末しようとしてるとかか?

 ………とりあえず、いつ襲われてもいいように気を付けておこう。


 そう考えながら、若干挙動不審気に先に建物の中に立ち入って進んでいく。

 建物に入ってすぐの所に、白を中心とした材質のわからない素材でできた通路と、下へと伸びる階段が見えた。

 階段があるということは、本命は地下にありそうだな。

 これまで見たことない光景に若干圧倒されたが、すぐに気を取り直して階段を降りていく。

 すると、大きな扉が見えてきた。

 しかも、開けっぱなしになっている。

 もしや俺達を、中へ入るように誘われるのか?


 恐る恐る中を覗いてみる。

 中は大きな部屋だった。

 使用目的の分からない道具やら機材やらがたくさん置いてあり、液体の入ったガラスの筒が何本も設置させている。

 その筒には何かが入っているが、一緒に入っている緑色の液体のせいで遠くからだと中身がゆく見えない。


 そんな魔女の家の改良版みたいな場所の奥。

 そこには、巨大な狐型モンスターが結界らしき物に閉じ込められていた。


(ヌシ様……!)


 今すぐ駆け寄りたかったが、罠の可能性もある。だから、慎重に動かなければならない。

 もう一度、この部屋をじっくりと見渡す。


 カランカラン……。

 目星43成功


 ……よし、人影は見えないし、何かの生物の姿もヌシ様以外は見えない。

 脳内でダイスの音が流れたが、俺以外には聴こえてないから大丈夫だと思う。

 とにかく今は情報の共有が先だ。

 ラピスに小声で声をかけ、どうするか意見を求める。

 その結果、一思いに突入して中を漁ることになった。


「ラピス、準備はいいか」

「いつでもいける」

「よし、行くか」


 俺達は大部屋へと入り、ヌシ様の元へと向かう。

 ……今更だが、俺達の目的はヌシ様の様子を確認することだから、部屋に入らずに村へと帰ってヌシ様の現状を報告するべきだったかもしれない。

 だが、命の恩人であるヌシ様が捕まってる姿を見たら、何もせず戻るなんて選択しは消え、思わず助け出そうとしてしまった。

 ま、まぁ、この場でヌシ様の助ければ済む話だよな……。

 そういうことにしておこう。


 自分の失敗はひとまず置いといて、囚われているヌシ様の元へと近づく。

 次の瞬間———一筋の光が俺の眼前を通過し、白い壁の一部に黒い焼き焦げ跡を創り出した。。


「……やはりいたか」


 自分達の拠点を隠す術を持っている時点で、何者かがこの大部屋に姿を消して隠れていることなんて想定できていた。

 今の光線は恐らく、何らかの魔法か?……まぁいい。何にせよ、想定できてた以上はこの程度で動揺なんてしない。

 落ち着いて、冷静に、下手人に対して手を下せる。


「お前らが何のためにヌシ様を捕まえ、森のモンスターを虐殺したかは分からない。だが、俺…俺らの恩人に手を出した以上、容赦はしないぞ…!」


 姿を隠しているであろう奴らを睨みつける。

 ……すると、そいつらはバサリと音を立て、羽織っていたらしいマントを脱ぎ去りその姿を現す。


「………は?」


 そいつらを一言で言い表すならば、だった。

 大きさは1人と同じくらい。背中には一対の蝙蝠のような翼を持ち、薄桃色のカニのような甲殻を纏った姿をしている。渦巻き状の楕円形の頭にはアンテナのような突起物が幾つか生えており、鉤爪のついた手足が多数あった。

 そんな人の精神を削るような不気味でおぞましい姿に寒気を感じる。SAN59 成功 

 それが……3体、俺の目の前に存在していた。


 モンスターだったのか!?

 何のモンスターだ。……いや、こんな姿のヤツは見たことが無い。

 まさか新種か?ゴブリンのように相手を待ち伏せし、3体共が協調的な動きをしていたから、集団行動もできる。ならばこいつらは、ゴブリンと同じかそれ以上の高い知能を持っているかもしれない。

 しかも、こちらは2人に対して相手は3体。明らかに人数不利だ

 ……おぞましい見た目に怖気づくな、絶対に勝たなければならない。

 心を奮い立たせろ、俺には1人じゃない。仲間がついている!


「いくぞ、ラピス!」


 心を奮起させるように、声を張り上げる。

 ……だが、返事は返ってこない。

 新種の甲殻類共も、顔が無いくせにどこか困惑した様子を見せている。


「・・・」


 気になって後ろを見てみる。

 ラピスの姿は無い。


「・・・」


 周囲を見てみる。

 やっぱり、ラピスの姿は無かった。


 ………あの野郎、俺1人に突貫させやがった!?


「クソが!こうなりゃヤケだ、俺1人でもやってやるッ!!」


 3体の新種が、これまたよく分からない物を俺に向けてくる。

 あれは魔法を放つ時の杖か?

 なら、撃たれる前に仕留めてやる……!


「かかって来いやオラァ!!」


 未知なるモンスター、不明確な手札を持つ相手に対しての、俺の孤軍奮闘の戦いが今、始まっt「くたばれゴミゴが―――!!」……は?


「‘@*¥@lmd:ァ!?」

「!?」


 いつの間にか未知のモンスター達の背後。使用用途不明な機材の物陰から飛び出したラピスが、そのの内の1体に跳び蹴りを炸裂させた。


 ―――――――――――――――

《クトゥルフ神話TTRPGでお馴染みの、ユゴスよりのものが現れました。なんでも、彼らはベテラン探索者達からはゴ=ミとか呼ばれたりと侮られているご様子。………人間に例えると、様々な武器を持った筋肉マッチョのインテリ軍人を相手にしてるのと同じ(個人の主観です)なのに……》

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