~始まりの街~ 6 夜の村で
「お前って何を選んだんだ?」
「内緒だが」
「いやそれだと困るんだが……」
まぁ、村長のとこで見ればいいか。
そう思っていると、白髪女が急に何もない方向を見て目を細める。
「どうした」
「……何かの気配がした」
「何かの気配?……ガキ共かお前の
「この村に来たばかりの私にファンなんている訳ないのでは」
「そうでもないだろ、お前の外見はこの村の奴にとっては眩しいらしいからな」
実際、俺の同僚の1人は目を焼かれていたからな。
「……その気配が、森の方からしたって言ったら?」
「野生動物かお前は」
「・・・」
俺の返答に白髪女は少しショックを覚えたようで、流石に悪いと思いすぐに謝った。
対価は揚げ芋10袋だった。合計2000Gという手痛い出費になるが、それだけで
妻持ちの奴の話だと、妻に機嫌を直してもらうために1000G以上の出費がかかったと聞くし。
そう思い直した俺は、自分の財布の残金を確かめようと懐に手を伸ばす。
「お主ら、もう決めたのか」
すると、背中に荷物を担いだ村長と出くわした。
家にいるんじゃないのかよ。
「決めさせていただきました。それと村長、どうしてここに」
「村の男衆への呼びかけついでに、おぬしらの様子を見ておこうと思ったのじゃよ」
「そうなのですか」
確かに、もしゴブリンが攻めてきたとしても、村の防衛は自警団だけではできないからな。
自警団が中心になって戦うのは変わりないが、こういう大きな戦いでは村の男衆も一緒に戦うんのが常だ。そのための呼びかけも村長がする必要があるのだろう。
「それより、決めたのならおぬしらが選んだ物を見せてくれんか?ホワイト殿も頼む」
「了解しました」
「分かりましたよ」
俺と白髪女は、それぞれ選んだ物を見せる。
俺が皮鎧1セットで、白髪女は ミスリルのショートソード……ッ、こんな物があったのか!それと、魔道具である魔法のランタンに俺が見つけた物と同じだが色違いの何かの皮鎧に、魔道具を動かすために必要な魔石が15個の4つか……。
俺ももう少し持ってくればよかったか?
「ホワイト殿はともかく、バンカは遠慮しすぎじゃぞ。確かに高位のモンスターの皮で作られた皮鎧だとしても、それだけではいささか不安じゃ」
「すみません」
「……仕方がない、これを持っていけ」
すると、村長は担いでいる荷物を降ろして中身を取り出す。
それは緑色に輝く液体、5本の下級ポーションだった。
「ほれ、これを持ってけ」
「そ、村長、それは村の物でしょう。流石にそれは受け取れません」
「気にするな、ワシの家に保管してあった物じゃし、倉庫の奥の方にある部屋にもたくさん置いてあるぞ」
「「そうなの(ですか)!?」」
マジか、気づかなかった…!
あの物品の山の奥にまだ部屋があったとは……。
見ると、白髪女も驚愕していた。
「見つけれんのも無理もないわ。なにせ、木箱で隠してたからの」
「そうなのですね……」
「そうじゃ。じゃが、ベテランの冒険者にとっては隠し部屋等の隠された物を探るのは基本要素。おぬしらは冒険者ではないとしても、探索時には注意深く回りを探るといいぞ」
村長はそう言うと、愉快気に倉庫の方へと向かって行った。
そんな村長の後をこそこそと後を尾けるガキ共の姿があったが、気にしないでおこう。
村長の視線からして、既にあいつらに気づいてるようだったし。
「これって……チュートリアル?」
「ちゅーとりある?」
「……何でもない、勉強になったって意味だから、そんな深く考えなくてもいい。……それより、これらを貰ってもいいんだよな?」
「何かお前、男みたいな口調になってんな。…何も言われなかったし、いいと思うぞ」
「よし!」
白髪女は賭けに勝った時のギャンカス共みたいにガッツポーズをする。
カランカラン……。
……その様子少しだけ怪訝に思えたが、気のせいだったか。
「……で、いつ出発できるの?」
「そうだな……明日の朝に」
「待てん、すぐ行こ「駄目だ」…なんで?」
「いや、もう日が暮れるぞ」
早朝にこいつと出会ってから、戦闘に連行、ゴブリン退治に倉庫の物色をしたりと、結構な時間が経っていた。
俺も正直言うと、いますぐにでも森へと向かい異変の全貌を探りたい。
だが、夜の森は奴らのテリトリー。下手に立ち入れば返り討ちに遭うなんて明白。だから、調査は明日からだ。
「そういう訳だ、今日は休んでおけ」
「……ねぇ、お前の名前ってバンカだったよな」
「そうだが、どうした」
「……金、貸してくんない?」
「・・・」
その後、今日泊まる分の金を受け取って白髪女は、宿へと向かって行った。
……揚げ芋を買う分の金、無くなったんだが?
日は沈み、暗闇と静寂に包まれた夜の村。その森へと面する南門の
こういう時、同僚共と交代交代でやるのだが、あいつらは昼間に飲んだくれていたせいで、絶賛爆睡中。俺だけで森の監視をしていた。
もちろん眠気が限界になり本格的にまずくなった時は、同僚共を叩き起こしてでも交代する。明日の重要な任務のために、過度な無理はしない。
なにせ、明日は一瞬の油断が命を奪うのかもしれないから。
「……いや、今もか」
俺は思い直す。
今ここにいる俺は、森に異常が無いかの監視役。村の仲間が寝静まる中で、俺1人だけが成すことができる使命だ。
異変を1つでも見逃せば、全員が危険な目に遭う可能性だってあるのだ。
だから、これも失敗が許されない重要な任務。明日も重要な任務があるからと、侮っていい訳が無い。
「………」
暗闇と静寂に包まれる森を睨みつける。
……やはり、野鳥の声すら聞こえないか。
いつもはフクロウや夜行性の獣の鳴き声が聞こえるにも拘わらず、今日は
今日のゴブリン騒ぎに、白髪女が感じた謎の気配。それと……畑から生えたイノシシとゾンビ。これに関してはマジでよく分からん。
同僚共が調べてみたが、それらしき仕掛けも穴や足跡のような痕跡さえも見つからなかった。
唯一の手掛かりは白髪女のファンブルを3回したというものだけ。
ファンブルって何?
事情を知っている白髪女は気にする必要はないなんて言ってるが、どう考えても現状で一番怪しいのは白髪女だ。あいつが来てから不可解な現象が頻発しているし、事情を知っているなんて怪しい以外の何物でもない。
そうでなくとも、すでに敵が村に忍び込んでいる可能性もある。
……いやそれなら、村内の警戒もした方がいいのでは?
「やはり、白髪女への警戒は必要か」
カランカラン……。
「・・・おい、白髪女。いるんだろ、出て来い」
気配は感じないし、姿も見ていない。だが、不可解な現象その1のダイス音が聞こえたので、当てずっぽうで言ってみた。
すると、下の方から声がする。
「なんで分かんだ」
「ダイスの音が鳴ったからな。お前がいると時々ダイスを転がす音が聞こえるからだ」
「……マジで?」
「マジでだ」
そんな俺の言葉に白髪女は額を抑える。
なんだ、自分の隠密にそんなに自信があったのか。それとも、白髪女にとっても想定外の事だったとかか……。
いや、だとしても対応は変わらないか。
白髪女が梯子を軽やかに上がり、俺の元まで登って来る。
「……で、ここで何してんの」
「見ての通り森の監視だ。毎日ではないが、自警団はここで森を見張る任があるからな」
「他の連中はしないの?お前しか自警団らしき人物は見ないんだけど」
「あそこで爆睡してる」
俺が指さす場所には、壁にもたれ掛かって気持ちよく爆睡している同僚共の姿がある。
あまりにも腑抜けたその姿に、流石の白髪女も苦笑いを浮かべているようだった。
「成程、お前以外に任せられる人がいなかったのか」
「明日の偵察任務か?それ以外にも俺が元々余所者だからこき使っているってのもあるだろうな」
「余所者って……お前が?余所者だからどうしてそんな扱い受けるんだ」
「お前……余所者は変なトラブルしか持ってこないから敬遠されてるって、どこの村でも常識だろうが。やっぱりお前、どっかの街から来たのか」
「そうだけど」
「なら、その街の名前は何ていう」
「…日本」
「どこだよそこ」
まったく知らん名前が出て驚いたが、嘘は言ってないのだということは分かる。
二ホンというのはまさか……別の国にある街か?そうなると白髪女は他国の人間なのかもな。
他国の冒険者ならこちらの常識も分からんだろうし、常識の無い行動にも理解は……一応はできる。いきなり殺しにかかるのは蛮族すぎるが。
そうなると、たまに聞こえるダイスは………やっぱ駄目だ、分からん。
こいつの魔法?それとも周囲に影響及ぼす系の呪いか?
いやでも、こいつが他国の間者の可能性もあるし、結局は警戒を解くわけにはいかんか。
結局はこいつ、現時点で一番怪しいのは変わりなし。
「……やはり、お前を信じられない」
「いきなりどうした。……何度も言うけど、アレはファンブルの産物だって言ってんだろが」
「それも込みでお前の言葉とか行動全部が信じられん。今も俺はお前がいつ襲って来るか警戒している」
「……やっぱ、私を疑ってんだ」
白髪女は目を細めて俺を睨みつける。
俺も睨み返し、数秒の間張り詰めた空気が生まれる。
……すると、白髪女は俺から視線を外してあからさまに警戒を解いた。
「……うん、やっぱお前は元凶じゃないな」
「は?……何意味分からんことをほざいてんだ。当たり前だろうが、容疑者筆頭」
「……まぁ私を信じてくれなくてもいいよ。でも、疑いすぎて敵に足元救われないようにしてよな」
「誰がするか、俺はそんな弱い奴じゃないぞ」
「いやいや、私達人間は弱い生き物でしょ。……特にただの人間NPCは」
「だから、そのNPCって何なんだよ」
俺はたびたび出てくるよく分からん言葉の意味を問い詰める。
しかし、白髪女はそんな疑問の声に答えず、そのまま去って行った。
「……NPCってなんだよ」
そんな俺の呟きが夜闇に響く。
……1人でこの暗がりの中にいると思い出すな。この村に来てしばらく経って、母さんが死んだ後のことを……。
『お前の母親は村を捨てたくせに、おめおめと逃げ帰って来た馬鹿な女だ。その息子のお前を村の仲間になれると思うなよ?』
『自分のことは自分でやりな!この村では、街と同じように過ごせるなんて思わないことだね!』
『何?村の仲間と認めて欲しい?……友人の孫の頼みじゃが、この村の人間はそう簡単におぬしを受け入れられんぞ。そうさなぁ……なら、自警団に入ってみんなの役に立て。自然と受け入れてくれるじゃろ』
ホント、最初は酷い物だった。
余所者だとか、逃げ帰って来た女の息子だとか馬鹿にされ、味方といったら村長と今の自警団の
その人達の助けもあって、次第にガキ共にも懐かれて、段々と受け入れられて……数年で村のみんなが俺に対して馬鹿にしたことを謝罪してくれるようになった。
それから起こった魔王軍との籠城戦では、何人もよくして貰った恩人が死んだけど、あれ以来、俺は村の中で頼られるようになって……。
ホント、色々あったなぁ……。
……今更だが、余所者とはいえ、白髪女を邪険にし過ぎたかもしれない。
せっかく協力してくれたのに、あんな態度をするなんてまるで……俺を馬鹿にしていた昔の村のみんなみたいだ。
俺がされて辛かったことを、無意識の内に他人にも同じようにしてたってわけだ。
………ダサいな、俺。
「……明日、あいつに謝るか」
夜の森へと視線を向ける。
いつもよりも遥かに静かな森を染める闇は、どこか俺を嘲笑しているように見える。
……それと同時に、憐れな犠牲者を飲み込もうとしている怪物が、手招きしているようにも見えた。
同僚を叩き起こしてから交代して朝まで寝た俺は、起きてすぐ装備を整え、村長の元へと向かった。
村長へと挨拶と今日の段取りを確認した後、白髪女を呼びに宿へと向かった。
……てか、今更だがあいつ、あんな夜更けに何してたんだ?
まぁ直接本人に聞けばいいか。
白髪女は宿の前で待っていた。
一見何も持ってないが、本人に聞いたところ魔法のカバンに全部積めたらしい。本当に便利だな、その魔法のカバンは。
それと、昨日の夜に何をしていたのかも聞いてみた。その返答として帰って来たのが、この村に今回の異変の犯人がいないか、またはそれに繋がる情報がないかを探っていたのだと言う。
昼間の間も、俺と別行動の時に村の人達にも聞き込みを行っていたのだそう。ガキ共と畑に行ったのもそれの一貫らしい。
なんか……想像以上に事件解決に動いてくれてたんだな。
「白髪女、お前はどうしてそこまでするんだ?」
「事件解決の為に動く理由?……強いて言うなら、それが私の役割だからだな」
「役割?何のだ」
「救世主」
「———!」
予想外の返答に言葉が詰まる。
思わず白髪女へと振り向くと、悪戯が成功した子供の顔をしていた。
なんだ、冗談か……。
「安心しろよ、私は本気でこの異変の解決に協力するから。……それに、報酬も期待できそうだし……」
そう言って、魔法のカバンからミスリルのショートソードを覗かせる。
……そりゃあ、この村の報酬としては破格だはな。
ミスリルの武器は、冒険者にとって喉から手が出る程に欲しい一品。この武器を持つことで冒険者としての格が決まるとまで言われている代物だ。
あの武器、多分だが村長が昔話してたサブとして使ってた武器だな。今思うとよく許可もらえたよな、そんな高級品。
「タダより怖いものは無いって聞いたことがあるが、まさかそれを実感する日がくるとは思わなかった」
「そっか、ならさっさと行くよ。さっさと終わらせて、報酬を受け取りたいし」
「……今の打算を隠そうとしないお前の方が信用できるよ………」
カランカラン……。
・・・。
俺は、初めて会った時には考えられない程に生き生きとし始めた白髪女に呆れを覚えながらも、そんな彼女の後を追うのだった。
―――――――――――――――
それぞれのNEW所持品
白
・ミスリルのショートソード:1D6+2+2 属性付与により+1D3の補正
・中級の魔法本・???
・魔法のランタン
・何かの皮鎧:装甲+2
・魔石×15個
バンカ
・何かの皮鎧:装甲+2
《あの女、マジでクリティカル出しやがりました》
《……まぁ、このシナリオは結構な数のアイテムを入手できますが、チュートリアルクエストにしては難易度が高いので、これでも妥当な配分かもしれませんね》
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