第17話 王都の洗礼

 王都ロイヤルキャピタルは、ウォル=水原が想像していた以上に巨大だった。人口五十万を超える大都市で、石造りの建物が空に向かって高くそびえ立っている。


「すごい...」


リリィが感嘆の声を上げた。地方都市出身の彼女には、王都の規模は圧倒的だった。


「でも、臭いがひどいわね」


エルナが鼻をつまんだ。確かに、人口密度が高い分、衛生問題も深刻になっているようだった。


「これだけの規模だと、上下水道の必要性はより切実ですね」


セオドアが技術者らしい観点で分析した。


馬車は王城に向かって進んでいく。道中、ウォル=水原は町の様子を注意深く観察していた。


井戸は所々にあるが、長蛇の列ができている。汚水は道端に垂れ流しで、悪臭を放っている。明らかに水インフラが人口に追いついていない。


「これは...想像以上に深刻な問題だ」


王城の技術開発棟に案内されると、そこには最新の研究設備が整っていた。魔法学院とは比較にならないほどの規模と質である。


「お疲れさまでした」


出迎えたのはレディ・ハイクラスと、見知らぬ男性だった。


「こちらは王国首席魔導技師のアルカナ・ハイスペック卿です」


アルカナは四十代半ばの男性で、知的な雰囲気を漂わせていた。しかし、その表情はどこか冷淡だった。


「君たちが地方で話題の水魔法使いか」


明らかに見下すような口調だった。


「はい、ウォル・アクアートです」


「ふむ」アルカナは鼻を鳴らした。「地方の小細工が、果たして王都で通用するかな」


「小細工?」


ウォル=水原は眉をひそめた。


「君の技術は確かに興味深い。だが、所詮は既存技術の組み合わせに過ぎない」


「既存技術の組み合わせ?」


「水魔法、土魔法、魔法陣。すべて昔からある技術だ。それを組み合わせただけで、画期的だと騒いでいるに過ぎない」


ウォル=水原は冷静さを保った。この手の技術者のプライドは、前世でも経験していた。


「確かにおっしゃる通りです。でも、組み合わせ方が重要ではないでしょうか?」


「ほう?」


「既存の要素でも、新しい視点で組み合わせることで、今まで解決できなかった問題を解決できる。それが技術革新だと思います」


アルカナの目が微かに光った。


「面白いことを言う。では、君の『新しい視点』とやらを見せてもらおうか」


「喜んで」


こうして、王都での技術実証が始まった。

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