第16話 新たな技術への挑戦

レディ・ハイクラスからの提案を受けて、プロジェクトは一気に拡大した。王室からの資金援助、技術者の派遣、そして何より権威ある後ろ盾を得たのだ。


「これで堂々と事業を進められます」


エルナが安堵の表情を見せた。


しかし、ウォル=水原の心には新たな野心が芽生えていた。


「温水洗浄器と下水処理だけじゃない。もっと根本的な改革ができるはずだ」


「根本的な改革?」


「上水道システムです。各家庭に直接、清潔な水を供給する」


前世の知識では、上水道と下水道は一体のシステムだった。片方だけでは真の衛生改革は実現できない。


「でも、それには大規模な配管工事が…」


「そこで魔法の出番です」


ウォル=水原は興奮気味に説明した。


「土魔法で地中に管を通し、水魔法で水圧を管理する。従来の工事より遥かに効率的にできるはずです」


「理論的には可能ですね」セオドアが頷いた。「ただし、魔力の供給をどうするかが問題です」


「それなら、魔力増幅装置を開発すればいいんじゃない?」


リリィが提案した。


「一人の魔法使いの魔力を増幅して、広範囲に効果を及ぼすの」


「魔力増幅装置…」


セオドアが考え込んだ。


「理論的には不可能ではありませんが、非常に高度な魔法陣が必要です」


「じゃあ、王都の魔法学院に協力を求めましょう」


レディ・ハイクラスが提案した。


「この技術開発は王国プロジェクトです。最高の人材と資源を投入できます」


こうして、異世界初の魔法上水道システムの開発が始まった。


しかし、技術的な困難は予想以上だった。


「魔力の伝達距離に限界があります」


派遣された魔法学院の研究者が報告した。


「現在の魔法陣では、せいぜい半径百メートルが限界です」


「百メートル?それじゃあ町全体をカバーできない」


「複数の魔力供給ポイントを設置するしかありませんね」


「それだと魔法使いが大勢必要になるわ」


エルナが懸念を表明した。


「魔法使いの人件費だけで膨大な金額になる」


ウォル=水原は頭を抱えた。技術的には可能でも、経済的に成り立たなければ意味がない。


「何か別の方法はないのか…」


その時、グランドが口を開いた。


「待てよ。魔力を貯めておく方法はないのか?」


「貯める?」


「ああ。一度に大量の魔力を注入して、それを少しずつ使うんだ」


「それは…魔力蓄積装置ですね」


セオドアの目が輝いた。


「大型の魔石を使えば可能かもしれません。でも、そのサイズの魔石は…」


「高価すぎるってことね」


「いえ、そうではありません」


レディ・ハイクラスが意外なことを言った。


「王室には大型魔石の備蓄があります。国家事業として提供できます」


「本当ですか!」


「ただし、条件があります」


「条件?」


「この技術を王国の機密技術として管理すること。他国への流出を防ぐためです」


ウォル=水原は複雑な心境だった。技術を独占するのは本意ではないが、普及のためには仕方がない。


「分かりました」


「それと、技術開発チームを王都に移していただきます。より本格的な研究環境で開発を進めるためです」


「王都に?」


「はい。あなたたちには王室直属の技術開発顧問に就任していただきます」


思わぬ大出世の話だった。しかし、それは同時に故郷を離れることを意味していた。


「検討させてください」


「もちろんです。ただし、返事は一週間以内にお願いします」


レディ・ハイクラスが去った後、四人は深刻な表情で話し合った。


「王都に行くべきか…」


大きな決断の時が来ていた。

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