第8話 新たな課題

注文をこなすため、三人は必死に製作に励んだ。しかし、すぐに新たな問題が浮上した。


「魔石が足りない…」


下級魔石でさえ、十個も買うと銀貨五十枚かかってしまう。利益がほとんど残らない計算だった。


「やっぱり自前で魔力を供給する方法を考えないと」リリィが提案した。


「自前で?」


「魔石に頼らず、使用者自身の魔力で動かすの。でも、そのためには魔法陣を組み込まないといけない」


魔法陣となると、さらに高度な技術が必要になる。三人とも魔法陣の専門家ではない。


「うーん…誰か詳しい人を探しましょうか」


その時、作業場のドアが勢いよく開いた。


「ちょっと待ちなさい!」


現れたのは怒った表情の中年女性だった。町の衛生管理を担当する役人のようだ。


「あなたたち、許可もなしに勝手な装置を販売しているそうじゃない」


「許可?」


「この町で新しい商品を販売するには、役場の許可が必要なのよ。それに、その装置とやらは本当に安全なの?」


ウォル=水原は内心で頭を抱えた。現代日本でも、新しい商品には様々な認可が必要だった。この世界でも同じらしい。


「安全性については十分に確認しています」


「口で言うだけじゃダメ。きちんとした検査を受けてもらうわ」


「検査にはどのくらいかかるんですか?」


「最低でも一ヶ月。費用は金貨一枚よ」


金貨一枚は銀貨百枚。せっかくの利益が吹き飛んでしまう。


「そんな…」


「規則は規則よ。嫌なら販売をやめることね」


女性は鼻を鳴らして去っていった。


三人は呆然とその場に立ち尽くした。


「これが…既得権益の壁ってやつか」


ウォル=水原は前世の経験を思い出した。新しい技術や商品を世に出すとき、必ず現れるのが既存のシステムからの抵抗だった。


「でも、負けるわけにはいかない」


エルナが拳を握りしめた。


「そうね。何か方法があるはず」リリィも頷いた。


「まずは正攻法で許可を取りましょう。その間に、技術も改良していきます」


ウォル=水原は決意を固めた。困難は予想していたが、予想以上に複雑な問題が絡んでいることが分かった。


技術的な課題、経済的な問題、そして官僚制度の壁。すべてを乗り越えなければ、真の意味での水道革命は実現できない。


「俺は絶対に諦めない。この世界を楽園に変えるんだ」


夕日が作業場を赤く染める中、三人の戦いは続いていた。

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