第3話俺の友達は3

きっと驚くだろう、なぜ東山さんが俺みたいな特徴も取柄もない、やや影が薄いクール系男子高校生と一緒に下校するのかって。


それは彼女が徹底した善人だからだ。


ああ、もちろん、より正確に言えば──お察しの通り──それは隣同士の家だからだ。


家がくっついてるんだから、帰り道が被るのは不可避だ。それなら、夏美という一人の女の子を危険な道を歩かせるより、信頼できる男を「護花使者(ボディーガード)」に付けた方がいい。よって「夏美は頼んだぞ」と。かくして小学生から高校へと上がり、東山さんと同じ学校に通う俺は、数年にもわたり彼女の両親からそう依頼されてきた。


こうした状況も高校で終わるかと思いきや、高1に上がったばかりの俺が「そろそろこの役目……」と遠回しに辞退を申し出たら、彼らはニヤニヤ不敵な笑みを浮かべて言ったんだ。「あらまあ、✕✕君もお年頃ね」「男の子って照れるのね」ってな。


そういうわけで俺の“退職願”は却下された。人権無視のブラック企業、まさに地獄だ。だから今でも俺ら二人は毎日、一緒に登下校している。


君はこう言うかもしれない:「そんな可愛い子と歩けるなら、なんで断るの?」


あるいはこう怒鳴る奴もいるだろう:「このリア充が贅沢言いやがって!(怒)」


何度も言ってるし、言ってもどうせ聞き流されるだろうが、改めて釈明させてくれ:


まず第一に、俺らはカップルじゃない。


学校ってのは、要するに未熟なガキ共のたまり場だ。ここでは情報がCIAより速く流れ、解析が情報到着と同時に進行する。つまり、ここで生きるってことは常に“噂”という風雲に飲み込まれる可能性があるってことだ。


そして俺ら青春真っ盛り、胸ときめくティーンズを最も惹きつける話題は、“ラブ”だ。


小学校では、無意識の接触、ただ数言話しただけで袋叩きにあったが、中学では逆にそれが崇められる存在になる。女子は化粧を意識し、男子は言動を気にし出す。


そして今や“ラブ”は権力の象徴だ。恋愛する者は“リア充”層に食い込み、いわゆる“上流階級”に入る。“歩いてるだけで道が空く”“週末の予約が殺到する”などの不文律の特権を手にできるのだ。


その頂点に立つ者こそ、“有名”なリア充だ。


そして“有名”リア充になるには、“有名”な相手と付き合わねばならない。


だから、よく東山さんに告白する奴らがいる。そんな風に“出世階段”を登ろうとしてな。残念ながら、そういう連中は見事に撃沈されている。


ごく一部の者たちは、今でも俺たちをカップルと勘違いしている。


重ねて厳重に申し上げる:俺らはただ仲のいい異性の友達だ。


「幼なじみじゃないか」と言う奴がいるなら、こう答える:「少女漫画は控えめにな」


幼なじみ≠恋愛発展だ、覚えておけ!


ごく普通の陰キャ男子高校生である俺は、生まれついての才能でもなんでもなく、ただの普通(超が付くレベルで)のクール系男子高校生として、古今東西受け継がれる「純粋異性交遊0%ルール」を生涯貫く。


もちろん、青春真っただ中の健全青少年として、「二人付き合ってるの?」と面と向かって聞かれると、つい赤面してしまうことはある(照)。


さて、どうでもいい愚痴はこのへんにしておこう。


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