だれかと、なにかと、それをみたわたしのあいだで

ミド

「目覚めたかい?ここが本当の物語の起点となるんだ」

 実在しない「原作」を下敷きにしたものとして描かれる物語、即ちメタフィクションは今や珍しくないようだ。ゲームの世界に転生するという設定の物語においては、作中主人公は「原作主人公」や「悪役」に成り代わり、「原作」の登場人物の運命を変えようと足掻くことが多いらしい。(私はこの分野の作品をほぼ見たことが無いので、「らしい」に留まるが……)


 今回紹介する私の好きな作品「OU」は、少し毛色の違う作品だと言えるかもしれない。主人公の少年「OU」と相棒のオポッサム「サリー」は、そこまで「原作」(作中では「原典」と呼ばれる)に干渉しない。ただ、台詞は無いもののどうやら記憶に欠落がありそうなOUは、自分の物語を求めて、絵本のような美しいグラフィックとギターを中心とした南米風の音楽に彩られた静かな世界をひたすら先へ先へと旅を続ける。

 本作がメタフィクションであることはサリーの口から僅かにだが早い内に仄めかされ、プレイヤーには察することができるが、OUは最初はそこが「原典」のある世界であることに気づかない。プレイヤーの認識としても、登場人物が二種類いるとはどういうことなのか、度々襲ってくる不気味な生き物「サウダージ」とは何か、各ルートの中盤に現れる、OUの双子の姉を名乗る「ジェミニ」の不可解な言動(ルートによっては世界の破壊を頼まれ、また別のルートでは亡霊「泣き女」に攫われる)は何なのか? など、先に進む内に謎は増える。

 そもそも、この台詞のない主人公OUは何を為したいのだろう? 例えば彼は誰に成り代わっているのか、または元々いないはずのキャラクターだったのか? サリーはOUに対し色々と語りかけるが、プレイヤーに対しその点についてはあまり多くのヒントは与えてくれない。ウクロニアでの旅を終えるまではずっと謎だ。

(彼に関する真実は是非実際にプレイして確かめて欲しいので記載しないが、後述するプレイヤーに向かっての言葉だけでなく、彼自身の物語としても面白く捻られていると思う。)


 アドベンチャーゲームの形をした「何か」というコンセプトのとおり、プレイヤーはOUを操作するものの、基本的に登場キャラクターの台詞や付箋の短い詩など、画面に描かれているものを眺める時間が多い。

 とはいえ多少は干渉できる。例えば何気なく置かれたオブジェを気まぐれに破壊するかどうか、突然現れた不気味な幽霊を追い返す為に攻撃を加えるか。或いはサメに音楽を聴かせてやるか。

 ただし、これが本当に数少ないプレイヤーからウクロニア(作中世界)への意思表示の場なのだが、あまりにもため、本当に何気なく攻撃を仕掛けた結果、後になって「この調子でこの世界を破壊して!」と言われ、本当に自分の手で全てを破壊する展開になり「待って、私はそんな心算では……」と愕然とした。


 こうして旅を一通り終え、最終的にサリーは文字通り「こちら」を見て真相を語り出した。OUの正体が判明すると同時に、これまでだれかのなにかだった「OU」が「わたし」と接触したのだ。

 その真相に対し、私はボロボロ泣いてしまった。

 思い当たる節が多すぎた。これまで二次創作を書いたり、自分の中で噛み砕いた結果、後になって一次創作ができたりした作品もあれば、終幕を見届けた後にフワッと理解、解釈、反論、後日談イメージが沸いたがわざわざ作品にまでせずそれでおしまいにした作品もある。

 そうして感動したり、大切になった筈の作品を、これまでの私はそのうち忘れてしまってきたし、これからも忘れていくのだ。小学校の時に大好きだった本の題名も今はもう思い出せないし、一時的に大好きだったが今はそれほど強く求めなくなった作品もある。

 サリーはそれを当たり前のこととして受け止めてくれた。私達の心の動きは確かにあったこと、いずれ忘却されるのも寂しいがありふれた終わりであること、また次の物語に進んでいくべきだということ。とても暖かいお別れだった。


 さて、「OU」は「だれか」の心の旅から始まった「なにか」だった。絵本のようなウクロニア世界での旅は、「原典」の引用なのかOUの独白なのか定かではない誰かの言葉や、「原典」に対するサリーの簡潔な解説と共に進んでいく。真相を知った後にもう一度プレイすると、もしかしてこれが「だれか」の言葉なのだろうかという想像も湧く。二周目は「だれか」にも想像を巡らせながらプレイした。


 そして先日、吉祥寺でこの「OU」の原画展が開催されると聞いて見に行った。そして原画を見ながら再び涙ぐみかけ、帰りの電車の中でこの記事を書こうと決めた。記事を書く為に物語をもう一度プレイし、またしても泣いた。「OU」、良い作品だった……。好きだ……。

 さて、ここまで「泣いた」、「泣いた」と連呼したが、実際プレイしていただけると、そこまで刺さらない人もいるだろう。というか、寧ろそれが当たり前なのだと思う。このゲームで語られているのは、そういうことだ。

 サリーなら多分、そういう態度をとる。

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