偽物人間 私は一体…
欠陥品の磨き石 磨奇 未知
『私のバケモノ』
私はバケモノを飼っている。
その子はいつも私の側にいる。
鏡を見ると嫌味のように色濃く写る。
バケモノは人と関わる時必ず現れる。
私はそんなバケモノを抱えて今から彼氏に会いに行く。
仕事と人間関係に疲れ切った私は
彼に安らぎを求めて会いに行く。
集合場所に30分遅れで到着した私は
急いで彼に弁明をする。
「メイクと服選びに気合い入れちゃって
ちょっと遅れちゃった。
少しでも可愛い私で翔太に会いたくてさ。」
私は少しモジモジしながら袖を顔に当てて言った。
翔太は優しく微笑みながら私の頭をポンポンと
撫でる。
その時私のバケモノが耳元で囁く。
【お前 本当は寝坊しただけやろ。
自分のプライドのために嘘をつく姿 めちゃくちゃ幼稚やけどそれでええんか?
翔太の善意を利用して自分の承認欲求を満たしてもその場しのぎにしかならへんで?】
バケモノの言葉は幸せで満たされていた私の心臓を深く抉った。
私は何も聞いていないと心の中で繰り返す。
不安を掻き消すと言わんばかりに翔太の手を握る。
「最近さ〜
仕事とか人間関係上手くいってないんだよね〜
職場でミスして怒られることが多くて…
同僚からも少し嫌われてるんよね。
私こんなに優しくて可愛いのに意味わからないよね。」
私は翔太の肩に寄りかかる。
翔太はゆっくりとベンチに腰を下ろすと
ゆっくりと喋り始めた。
「誰だってミスするよ。
天下のエジソンだって失敗してたんだ。
だからそんなに気にしなくていいよ。
ミスすることってそんなに悪いことじゃないと思うんだ。
失敗することによって自分のダメな所も知れるし次にも活かせる。
失敗するってさまだまだ成長できるの言い換えやと思うんだよね。
だから愛花 そんなに気にしなくていよ。
同僚だって時間が経てばわかってくれる。」
翔太の声が冷え切った私の心の奥を優しく包み込む。
翔太の優しく微笑んだ顔はダイヤモンドよりも美くしくみえてくる。
しかし幸せな時間はいつまでも続かない。
後ろからモヤモヤとした嫌な空気が流れてくる。
私の体の中から漏れ出ている感覚だ。
【お前 また翔太の優しさ利用してるやん。
ミスしたお前が悪いのに自分のプライドのために
私は悪くないって逃げるの人としてダサすぎへんか?
同僚から嫌われるのもお前にちゃんと原因があるんちゃうか?
見たくないものから目を逸らして逃げ続けても
根本的な解決には一生ならへんで。】
バケモノは私の背中にピッタリと張り付きながら、
じわじわと私の心を蝕む。
「私は悪くない…私は悪くない…
私は悪くない…」
私は頭を抑えながら何回も何回も唱える。
次第に息も荒くなり、震えが止まらなくなってくる。
漆黒の姿をしたバケモノが私の心臓をガッチリと掴む。
【お前本当は気づいてるんやろ。自分に原因があるって。
自分は悪くないって思い込まないと自分を保てないんやろ。
もう俺を解放するべきちゃうか?】
周りの通行人の冷ややかな目線が私の心臓をさらに深く抉る。
この世にいる全ての人間が悪人のように見えてくる。
周りの景色すら敵に見えてくる。
「愛花 大丈夫か?
もしかして俺愛花のこと傷つけてしまってた?
俺に原因があるならゆっくり話してくれる?」
翔太は焦った顔で優しく語りかける。
心配してくれてるんだと思うと少し心がマシになる。
翔太だけは味方だ。翔太さえいれば…
バケモノが耳元で囁く。
【お前もしかして翔太のせいにしようとしてないよな。
翔太のせいにして翔太の善意を利用するつもりちゃうよな。
周りの人間が敵に見えてくるって言ってるけど
本当の敵はお前なんちゃうか?
あんまりこういうこと言いたくないけどさ
このままいったら翔太に見限られるで。】
私はバケモノの声を無視して翔太に抱きつく。
「翔太がぜんぜん会ってくれないから
私本当はすごく寂しかったんだ…
それが少し溢れちゃってさ
私翔太がいないと生きていけない。
翔太 結婚しよ。」
私の突然の告白に翔太は少し困惑した顔をしていた。
翔太は引き攣った顔をしながら、
「そこまで重いのはちょっとしんどいかな…
最近の愛花別人みたいだよ。
言いにくいけどどんどん太ってるし、
会話も共感を求めた話しかしてこないし
辛いアピールは正直もう限界だよ…」
翔太は何か葛藤した顔で歯を食い縛っていた。
「え?どういうこと?
何を言ってるの?」
いきなりの出来事で私には彼が何を言っているのか理解できなかった。
私はキョロキョロと目線を泳がしながら、何をいうべきか慌てて考える。
言いにくいけどどんどん太ってるし…
彼のこの言葉は私の心臓の奥に突き刺さった。
私は何回も何回も心の中で反芻を繰り返す。
次第に翔太の顔が同僚の顔に見えてくる。
「翔太も敵なの?
ねぇ なんで?
どういうこと?ねぇ教えてよ
なんで?なんで私を一人にするの?
翔太は罪悪感を感じないの?
私を裏切って一人にしてそれでバイバイって
あんまりだよ。
私には翔太が必要なの。
翔太だけは私の敵にならないで。」
私は翔太の腕に一心不乱にしがみつく。
翔太の顔は酷く引き攣っていて、汚物を煙たがるように私の腕を引き剥がそうとする。
翔太の嫌がっている顔が私の脳裏に焼きつく。
「またこれだよ…」
漆黒の姿をしたバケモノがゆっくりと私の腕に浸食して行く。
【裏切ったのはお前ちゃうんか?
怠惰に怠けてどんどん肥えて、
努力から逃げて全部人のせいにして
自分は悪くないって正当化する道具として彼を利用して
全部お前が原因やんか。】
私の腕は次第に真っ黒に染まり、私の意志とは
反対に彼の体から私の腕を引き剥がした。
「ねぇ やめてよ。
ねぇやめてよ。
なんでゆうこと聞かないのよ。」
翔太は安堵した表情で私から離れる。
翔太は後退りしながら、少しずつ少しずつ離れて行く。
私は追いかけようとして立ちあがろうとしたが
足が動かない。
バケモノの浸食は足のつま先まで浸透しており、
私の足をガッチリと拘束していたからだ。
【所詮 お前の価値は外見だけやったんや。
その外見すら醜く肥えたら、
お前には何が残るんや?
本当は気づいてたんやろ
翔太が自分といてくれてたのって外見が
可愛かったからって
今追いかけてもどうにもならんことぐらい
本当はわかってるんやろ。】
私はバケモノのその言葉に何も言い返すことが
できなかった。
本当はわかっていたんだ。
翔太が好きなのは私の外見だってことぐらい…
私はそれにかまけて内面を磨かなかった。
自分に嫌なことがあればすべて周りにぶつけて
自分の都合のいいように生きてきた。
「本当のバケモノは私だったんだ…
消えるべきなのはあなたじゃない 私の方だったんだ…
本当の私はあなたの方だったんだ…」
私は小さくそう呟くと
溢れそうな涙を堪えながら
バケモノに体を預ける。
バケモノだった私の体はどんどんと色味を取り戻して行く。
手と足だけしか色味がなかった体がどんどんとカラフルになって行く。
「黒く見えていたのは私だけだったのか…」
私はいやバケモノは最後にそう呟くと暗い暗黒の世界に消えていった…
偽物人間 私は一体… 欠陥品の磨き石 磨奇 未知 @migakiisi
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