第3話
母が結婚を見据えて交際している人がいるということを知ったのは、高校一年生の秋だった。
父は私が3歳の時に亡くなった。
父と過ごした日々の記憶のかけらは残っているけれど、その記憶は当時のものなのか、ホームビデオや動画をみて後から肉付けされたものなのかは分からない。
父が亡くなったということを、当時まだ幼かった私が理解できるはずがなかった。
しかし母曰く、突然いなくなった父を恋しく思い、夜になると時折泣いていたという。そんな私を見て胸が張り裂けそうだった、と。
まだ幼い娘を抱え、夫の死を乗り越え生きて行くのはどれほど過酷だっただろうか。
女手一つで私を育ててくれた母。私が自立できるようになったら、自由に自分の人生を生きてほしい。それが私の切実な願いだった。
だから、部活帰りに友達と寄った繁華街で、母が男性と手を繋いで歩いているのを見かけた時
見てはいけないものを見てしまったのではないか、と思った反面
母に恋人が出来たのなら素直に嬉しいとも思った。
その日の夜、私は母に聞いた。
「お母さん、付き合ってる人がいるの?」って。
母は驚いた顔をした後、とても綺麗に微笑んだ。
「びっくりさせてごめんね。莉乃にはいつか言おうと思っていたんだけど、タイミングが難しくて今まで言えなかったの。」
相手は同じ会社で働いている同僚で、奥さんとはずいぶん昔に離婚しているということ、その人も私と同じ歳の頃の子供がいることを教えてくれた。
そして、
「莉乃が良ければお母さん、その人といつか再婚したいなって思ってるのよ。」
そう続けた。
同級生からも近所のおばさま方からも、「莉乃ちゃんのお母さんって綺麗な人ね」と褒めてもらえるような、自慢の母だった。
今までだって恋をするチャンスはたくさんあったはず。でもきっと、私に対しての遠慮があったんじゃないだろうか。
もう私1人のために自分の人生を我慢しないで。お母さんは、お母さんの選びたい未来を選んで。
確か私は、母にそんな感じの返事をしたのだと思う。
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