004 シモン・ベール


「え? 少女? え? え? えぇ~?」


 宿屋の一室で目覚めたシモンは混乱中。12、3歳ぐらいの少女が同じベッドで寝ていたから、昨日の記憶を一から思い出していた。

 すると酒場で飲んでいたところまで思い出したけど、そこからの記憶はナシ。酔った勢いで少女を誘拐して襲ったんじゃないかと血の気が引いている。


「ふぁ~……」

「ッ!?」


 そこに少女があくびをしたものだから、シモンはベッドから飛び下りて壁に張り付いた。


「な、なんだお前は!? どこから入った!?」


 とりあえずシモンは怒鳴ってみる。自分に非はないと逆ギレで乗り切ろうとしているのかもしれない。


「んん~……あ、お兄さん、やっと起きたんか」

「おおお、お兄さん~~~? いつの間に俺に妹ができたんだ……」

「なに寝惚けてんの? 昨日酒場でちょっと喋ったやろ? すぐ寝てもうたけど」

「酒場? 酒場ってことは、お前は大人なのか??」

「せやけど……あぁ~。そゆこと。少女を襲ったと思っとったんか。残念ながら、何もあらへんで。あーしはドワーフのプック。よろしくな」

「よかった~~~!!」


 シモン、バンザイ。犯罪者にならずに済んだと小躍りしていたが、しばらくしたらピタリと止まった。


「てか、ドワーフなんかが、なんで俺の部屋で寝てるんだ??」


 そう。疑問はまだまだあるのだ。


「そりゃ、勝手に泊まったからや。元カノさんが、もう夜も遅いから泊まって行けって。お兄さんなら一度寝たら起きないからって、ソファー使えってな」

「ベッドにいたよな??」

「お兄さんの部屋なのに、お兄さんがソファーじゃかわいそうやん?」

「逆!? どう考えてもお前がソファーだろ!!」

「……あっ!?」


 プック、凡ミス。家族構成が男ばかりの家で育ったから男に免疫があり過ぎて、他の男と一緒に寝るのも苦にならなかったから、普通に寝てしまったのだ。


「ま、まぁお互い何もなかったんやから、それでええやん」

「いや、人の部屋で勝手に寝てるってのは、なんらかの犯罪なのでは??」

「それは運んでやった対価ってことで。文句あるなら元カノさんに言ってや」

「う~ん……」


 シモンが納得いかないと首を捻ったところで、プックは強引に話題を変える。


「昨日も聞いたんやけど、これはお兄さんの持ち物なんやろ? なんに使う物なん??」


 プックは指に摘まんだ金属を見せると、シモンの顔色が変わった。


「盗んだのか?」

「ちゃうちゃう。酒場の前に落ちてたんや」

「届けてくれたってワケだな。ありがとう。それを置いてさっさと帰れ」

「はあ? なんなん? そんなに大事な物なん? 何個も持ってるって聞いてるで。ちょっとぐらい教えてくれてもええやん」

「言いたくない。もう出てけ。俺は忙しいんだ」

「ちょ、待ってえや~」


 明らかに雰囲気の変わったシモンは、プックを強引に部屋から追い出すのであった。


「まだいやがったのか……」

「服とか取らせてくれへんかったから待ってたんや」

「あ……」


 シモンが仕事の準備をして部屋を出たら、プックが待ち構えていたので文句を言ったけど、それなら仕方ないともう一度プックを中に入れるシモンであったとさ。



 プックがモタモタしていたせいで、一緒に宿屋を出たシモン。仕事に向かって歩いているのに、プックが質問しまくるからわずらわしそうにしている。

 そうしてシモンが無視して歩いていたら、町の中央にある高く分厚い壁で囲まれた施設に着いた。さすがにここまでついて来てしまっては、シモンも無視できないのか振り返った。


「お前の相手をしてやれるのはここまでだ。冒険者カードを持ってないヤツは、迷宮に入れないからな」

「それぐらい知ってますがな。何時頃にお戻りで?」

「言うか!!」

「いってらっしゃいませ~」


 プックもルールは知っていたみたい。わざわざ教えてあげたのにと、シモンは怒って迷宮に入って行き、プックはそれを手を振って見送るのであった。



 夕方……


 プックは懲りずにシモンが泊まっている宿屋兼、酒場に顔を出し、カウンターに座ってシモンとイレーナのやり取りを見ていた。


「まだあの野郎に用があるのか?」


 するとマスターは不思議そうにエールを出した。


「いや~。あの金属、どういうワケか何も教えてくれなくって……気になるやろ?」

「何も教えてくれない? 別に大事そうにはしてなかったけどな……コロコロ転がしてたし」

「それに今日、冒険者ギルドで張ってたら、大量の魔石を持ち帰ってたんや。本当に実力ないんか? ソロであの量やと、相当儲けとんで」


 今日プックがしつこくしていなかったのは、シモンの情報収集をするため。

 迷宮街を根城にしている冒険者は、迷宮で倒したモンスターが落とす魔石をギルドで売って日銭を稼ぐのだから、そこで待っていればシモンを見付けるのは容易なのだ。


「そういえば、一度も滞納したことないな……でも、クビになったのは事実だぞ?」

「何か他に理由があるんちゃうか? 例えば女関係とか。娘さんも別れを切り出したのは娘さんやろ??」

「それならいまだにあんなに仲良くしないと思うけど……追加情報があったら、エール奢ってやるから持って来い」

「それより宿代負けてくれへん? 今日から泊まりたいんやけど」

「わかった。格安にしてやる」

「ありがとな~」


 交渉成立。マスターは自分の娘がもてあそばれたのだと思って、プックの願いを叶えてしまうのであった。


 ストーカーを手助けしているようなモノなのに……

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