第8話 白血病
5月。
「!? 体重が減ってる!?」
学校から帰って来た
子供は基本的に身体が大きくなるので体重が増えないとおかしい。減っている、というのは普通はありえないことだ。
微熱が続いており解熱剤も効いてなさそうだし、明らかにただの風邪ではない。
その日の夜、彼女の両親は不安で押しつぶされそうになっていた。
「あなた、どうしましょう……」
「明日は仕事を休んでオレが病院に連れていく。学校には体調不良で欠席すると伝えてくれないか?」
「分かったわ」
他でもない娘の非常事態。厚皮は仕事を投げ捨ててでも彼女を救う事にした。
かかりつけの診療所では無理だ、もっと大きな病院で診てもらわなければ。彼は予約受付時間ギリギリに滑り込みで予約を入れた。
翌日。かかりつけの診療所に次いで2院目となる、都内でも規模の大きい総合病院で厚皮が娘の
「他の病院で診てもらった方が良いですね。紹介状を出しますよ」
ここで詳しく診てもらった方が良い。と紹介状が出された。
紹介先は「東京都立小児総合医療センター」だった。曲がりなりにも医者である厚皮は、その病院名を聞くだけで「ピン」と来た。
「まさか……」
「ええ、お察しが鋭いようですね。娘さんの
「白血病!?
「『
東京都立小児総合医療センター……そこは「小児がん拠点病院」の1つで、小児がん治療を重点的に取り組む場所。
そこへの紹介状を出された理由はズバリ「小児がんの1つである白血病に罹ってる疑いがある」からだ。
紹介状を書いてもらった日の、さらに翌日。
そこで厚皮は娘の
「回りくどい言い方はせずに結論を述べましょう。
診察結果はやはり「白血病」だった。
「……治りますか?」
「完治するかどうかは現時点では判断できません。ただ
「治療はどのように進めるんですか? 手術するんですか?」
「手術は基本出来ません。抗がん剤による投薬治療が基本となりますね。全体的な治療期間は大体1年から2年ほどかかりますし、病状にもよりますけど治療が終わっても再発する可能性があるかもしれません。
また、治療中は無菌室に入院することになりますから面会の機会は限られてきます。あなたが良いと言うのなら、今日から治療を開始しましょう」
「不幸中の幸い」とでも言うべきか、すぐに治療を受けられる事になった。
「ところで厚皮さん。あなた確かがんは高濃度酸素水で免疫力を高めれば治るとか言ってましたよね? 娘さんには飲ませないんですか?」
「
まさかとは思うが、医者の気に入る気に入らないで患者を助けるかを決めるなんて言うんじゃないだろうな!? 訴えられたいのか!?」
厚皮は思わずガタン! と音を立てて椅子から立ち上がり、声を荒げながら医者に向かって怒鳴り散らす。彼は日ごろの行いを悔い改めることなど、全くしていなかった。
「厚皮さん落ち着いてください。もちろんそんな事はしませんよ。患者を救うのが医師の仕事ですから安心してください」
「ったく……驚かせるなよな」
何はともあれ、治療が開始されることとなった。
その一方……。
>厚皮の娘が小児がんの白血病に罹ったそうだ。
>厚皮は娘の治療には標準治療を使ってて、自分が提唱する高濃度酸素水は使ってないようだ。
>普段は患者に高濃度酸素水を飲ませてるくせに、自分の娘には飲ませないんだな。分かってたけど本当にやるとはな。
「厚皮は娘のがん治療に自分が提唱する高濃度酸素水は使わずに、標準治療を受けさせている。やっぱり酸素水はインチキなんじゃないか」
そんな噂が流れた。
WEB上で噂が広まるのはまさに「"あっ"と言う間」だ。特に日ごろから悪い噂の流れている厚皮の身内に不幸が降りかかった。となると「悪い奴に天罰が下る」となり、一層騒ぎ立ててくれる。
>厚皮さん! 娘さんには高濃度酸素水を使わずにがん治療を受けさせるってどういう事ですか!?
>「抗がん剤には必ず副作用がある」って言ってたじゃないですか! なのに自分の子供には抗がん剤を与えるんですか!? おかしくないですか!?
>あなた確か娘さんが白血病になったそうですけど抗がん剤治療を受けさせているそうですね? 抗がん剤は副作用があるって言ってるくせに娘には受けさせるって矛盾してませんか?
高濃度酸素水の宣伝、普及のために開設していた厚皮のSNSに批難が一斉に殺到していた……いわゆる「炎上」である。
「……」
厚皮はスマホで書き込みを見ていた。ここまで早く火の手が上がるとは、そして火の回りが良いとは思ってはいなかった。
娘の白血病がなぜかバレていた。一体どこから嗅ぎつけたのだろうか? 一体どこから
あと娘の
(……下手に反論すると突っ込まれるんだよな)
こういう時はもがけばもがくほどドツボにはまるもの……いわゆる「消すと増えます」って奴だ。厚皮は沈黙を貫くことにした。
「人の噂も75日」という物で、時間がたてば誰もが忘れる。とタカをくくっていたのだ。
しかし彼に限ってはそうはならなかった……「300人の怨念で出来た刃」が彼の首を斬ろうとしていた。
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