「きゃぁ！立（たち）河（かわ）様よ！」

「第一部隊の方が入院されているから、きっと隊長として見（み）舞（ま）いに来られたのね！」

「無表情なのも知性あふれて素（す）敵（てき）ねぇ」

「まとっている雰（ふん）囲（い）気（き）が素晴らしいわ」

仕事の合間に凉花が中庭の傍（そば）を通ると、面会にきたのだろう婦人達の会話が耳に入る。

チラリと見ると、数人の軍人が中庭に立っていた。

その中にいる一人の美男子に婦人達の目線は釘（くぎ）付（づ）けだ。

「聞きました？ついに立河様も結婚のお相手探しを始めたんですって！」

「聞きました聞きました。いろんなところからご紹介が絶（た）えないと」

「若くして立河家を立て直し、第一部隊の指（し）揮（き）をとる方ですもの」

「軍学校でも首席だったとか」

当の本人に噂（うわさ）話（ばなし）は聞こえているはずだが、凉花からみれば、立河はその麗（うるわ）しい見た目を見せつけに来ているように見えた。

誰にも気付かれていないのをいいことに、凉花は一人眉（まゆ）根（ね）を寄せる。

「無表情といえど、噂の美（び）貌（ぼう）をみて納得ですわ」

お貴族様や軍が得意な建（たて）前（まえ）か、あるいは嫁探しに行くように命令されたか。

軍学校時代を知っている凉花は、勝手に哀（あわ）れみの気持ちを立河に向けた。

そんな立河の黒色の瞳が凉花を捉（とら）えたような気がした。

「⁈」

無表情でみていたのがばれた？

凉花はすぐに目をそらし、逃げるように足早に中庭を去った。

　＊　＊　＊

「立河隊長？」

話していた部下がふいに佳（か）入（いり）の名前を呼ぶ。

駆（か）けていった小柄な姿に、無意識に佳入のくちびるは弧を描いていたが、すぐに元に戻る。

「どうされました？」

「いや、なんでもない」

心の中だけで佳入は面白そうに小さく笑った。

今週に起きるであろう出来事を予想しながら。

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