「とくん」 ――ラブ・ストーリーにならなかったラブ・ストーリー ――

柊 あると

プロローグ  鼓動だけが、ふたりを繋いでいた

//SE (静かな空気音、遠くで風が吹くようなノイズ)


これは、

“ラブ・ストーリーにならなかったラブ・ストーリー”。

心臓の音だけが、ふたりを繋いでいた―――。


//SE(近接マイクで拾ったような、低く湿った鼓動音「とくん」)


それは、

誰かを見つけた瞬間に、

胸の奥で鳴る音。


//SE(少女の浅い息遣い。マイクに触れるような近さで、緊張と戸惑いを含む)


名前も知らない。

言葉も交わしていない。

でも、確かにそこにいた。


//SE(教室のざわめき:遠くで話す声、椅子の軋み。チャイム音は窓越しに微かに)


教室の隅。

体育館の光。

水場の沈黙。

写真の奇跡。

フォークダンスの一瞬。


//SE(床を擦る足音。フォークダンスの音楽:アコーディオンとタンバリンが一瞬だけ流れ、すぐにフェードアウト)




すれ違うだけの距離。

見つめるだけの時間。

触れたのに、覚えていない手。


//SE (沈黙:環境音が完全に消える。鼓動音:遠くから響くような「とくん……とくん……」)




それでも、

心臓は、

ずっと、

とくん、とくん、とくん……と鳴り続けていた。


//SE(秒針の音:乾いた「カチ…カチ…」が徐々に鼓動に重なる。時間と感情の交錯)


これは、

語られなかった恋の記録。

凍結されたままの少年と、

言葉にならなかった少女の物語。


//SE (氷が砕けるような繊細なきらめき音。光の音:高音のベルが遠くで鳴る)


でも、

確かに、

ここにあった。


//SE (鼓動音が徐々に遠ざかり、空気音に溶け込むようにフェードアウト)



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