第五話 初の練習試合、ベンチ入り
その知らせは、朝のミーティングで唐突に告げられた。
「今週末、地元の強豪校との練習試合だ」
監督・藤堂の声に、部員たちがざわめく。相手は県大会常連、昨年はベスト8まで勝ち進んだ名門だ。練習試合とはいえ、真剣勝負は必至。グラウンドの空気が一気に熱を帯びた。
「そして……ベンチ入りのメンバーを発表する」
藤堂が手元のリストを見ながら名前を読み上げていく。
「投手、高城……そして、一年、如月」
その瞬間、空気が止まった。
「……は?」
誰かが小さく声を漏らす。
高城と並んで名前を呼ばれたことに、部員たちの視線が一斉に俺へ突き刺さった。
「一年でベンチ入り……?」
「いやいや、いくらなんでも早すぎだろ」
「でも、あのブルペンと紅白戦見ただろ。球、ヤバかったぞ」
半信半疑の声が飛び交う中、篠原が笑いながら俺の肩を叩いた。
「おい隼人、やったじゃねぇか! 本物の試合だぞ」
水島は目を丸くしながら「俺ですらまだ控え扱いなのに……」と苦笑している。
山根は冷静にメモを取り、「データを集める必要があるな」と呟いていた。
――前世で一度も呼ばれなかった「名前」が、今度はしっかりと刻まれた。
胸の奥で何かが熱く膨らみ、拳を固く握った。
◆
試合当日。
グラウンドに立った瞬間、観客席からのざわめきが耳に届いた。
「相手のピッチャー、高城って奴だろ?」「いや、今日は一年のサイドスローも出るらしいぞ」
情報はすでに広がっているらしい。
ユニフォームに袖を通し、背番号をつけたときの感覚は、前世のプロ時代すら超えていた。
「如月、緊張してるか?」
篠原がニヤリと笑う。
「してる。でも、楽しみでもある」
「だよな。行こうぜ」
試合前のシートノック。俺はベンチでグラブを叩きながら、仲間の動きを眺めた。
高城の投球練習はやはり圧巻だ。速球は唸りを上げ、打者が立っていなくても威圧感がある。
「やっぱ、あいつは本物だな……」
誰かが呟いた。
だが俺は負けるつもりはない。
——今日こそ、俺の魔球を見せる。
◆
試合が始まると、相手はさすが強豪。序盤から高城を攻略しようと粘り、鋭い打球を放つ。だが彼は落ち着いて低めに集め、三回を終えて無失点。
「さすがだな……」
ベンチで見ていた俺は素直に感心したが、同時に燃えるものがあった。
四回表、相手校の三番が二塁打を放ち、続く四番が送りバント。ワンアウト三塁。
ここで監督が動いた。
「如月、肩をつくっておけ」
心臓が跳ねる。すぐにブルペンに走り、肩を回す。
スライダー、シュート、そして真っ直ぐ。ミットに突き刺さる音が響くたび、緊張が少しずつ研ぎ澄まされていく。
「隼人……行け!」
監督の声。
ついにマウンドを託された。
◆
土を踏む音がやけに大きく響いた。マウンドに上がると、観客席のざわめきが一段高まる。
「一年が投げるぞ」「左のサイドスローだって!」
バッテリーを組むのは山根。彼はミットを構えながら、落ち着いた声を投げてきた。
「隼人、気負うな。いつもの球を投げろ」
初球。
大きく腕を振り、サイドからスライダーを投じる。
——ズバァン!
外角ギリギリ、空振り。スタンドから「おおっ!」と声が上がった。
二球目はシュート。打者の懐を抉り、バットの芯を外す。ファウル。
0-2。追い込んだ。
三球目。外へ逃げるスライダー。
打者は食らいつくが、空を切った。三振。
「よっしゃああ!」
ベンチが一斉に沸き立つ。
◆
続く打者は五番。パワーのあるスラッガーだ。
山根のサインは内角。俺は首を振る。再度サイン。今度は外。頷く。
外角高め、力を込めて真っ直ぐを放つ。
——カキーン!
打球は鋭くセンターへ。だが守備陣が好捕。ランナー三塁、ツーアウト。
六番。ここを抑えれば無失点で切り抜けられる。
「隼人、勝負球だ」
山根が低く構える。
俺はシュートを選んだ。左腕から放たれた球が、打者の手元で食い込む。
バットが詰まり、三塁ゴロ。篠原が落ち着いてさばき、一塁送球アウト。チェンジ。
◆
ベンチに戻ると、仲間たちが一斉に俺を迎えた。
「やるじゃねぇか!」「魔球だな、あれ!」
水島が目を輝かせ、篠原は豪快に笑った。
「お前、俺たちの切り札だ!」
前世では味わえなかった歓声。
胸の奥で何かが震えた。これこそが、俺が求めていたものだ。
——この手で、仲間と共に勝利を掴む。
決意は、ますます強くなっていった。
現在の能力表(如月 隼人)
球速:134km/h
コントロール:C+
スタミナ:C+(実戦登板で集中維持)
変化球:スライダー4/シュート3
特殊能力:奪三振◎(初実戦で発動)/対ピンチ○(発動確認)/キレ○/打たれ強さ○/逃げ球
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