第五話 初の練習試合、ベンチ入り

 その知らせは、朝のミーティングで唐突に告げられた。

 「今週末、地元の強豪校との練習試合だ」


 監督・藤堂の声に、部員たちがざわめく。相手は県大会常連、昨年はベスト8まで勝ち進んだ名門だ。練習試合とはいえ、真剣勝負は必至。グラウンドの空気が一気に熱を帯びた。


 「そして……ベンチ入りのメンバーを発表する」


 藤堂が手元のリストを見ながら名前を読み上げていく。

 「投手、高城……そして、一年、如月」


 その瞬間、空気が止まった。


 「……は?」

 誰かが小さく声を漏らす。

 高城と並んで名前を呼ばれたことに、部員たちの視線が一斉に俺へ突き刺さった。


 「一年でベンチ入り……?」

 「いやいや、いくらなんでも早すぎだろ」

 「でも、あのブルペンと紅白戦見ただろ。球、ヤバかったぞ」


 半信半疑の声が飛び交う中、篠原が笑いながら俺の肩を叩いた。

 「おい隼人、やったじゃねぇか! 本物の試合だぞ」


 水島は目を丸くしながら「俺ですらまだ控え扱いなのに……」と苦笑している。

 山根は冷静にメモを取り、「データを集める必要があるな」と呟いていた。


 ――前世で一度も呼ばれなかった「名前」が、今度はしっかりと刻まれた。

 胸の奥で何かが熱く膨らみ、拳を固く握った。



 試合当日。

 グラウンドに立った瞬間、観客席からのざわめきが耳に届いた。

 「相手のピッチャー、高城って奴だろ?」「いや、今日は一年のサイドスローも出るらしいぞ」

 情報はすでに広がっているらしい。


 ユニフォームに袖を通し、背番号をつけたときの感覚は、前世のプロ時代すら超えていた。

 「如月、緊張してるか?」

 篠原がニヤリと笑う。

 「してる。でも、楽しみでもある」

 「だよな。行こうぜ」


 試合前のシートノック。俺はベンチでグラブを叩きながら、仲間の動きを眺めた。

 高城の投球練習はやはり圧巻だ。速球は唸りを上げ、打者が立っていなくても威圧感がある。

 「やっぱ、あいつは本物だな……」

 誰かが呟いた。


 だが俺は負けるつもりはない。

 ——今日こそ、俺の魔球を見せる。



 試合が始まると、相手はさすが強豪。序盤から高城を攻略しようと粘り、鋭い打球を放つ。だが彼は落ち着いて低めに集め、三回を終えて無失点。

 「さすがだな……」

 ベンチで見ていた俺は素直に感心したが、同時に燃えるものがあった。


 四回表、相手校の三番が二塁打を放ち、続く四番が送りバント。ワンアウト三塁。

 ここで監督が動いた。

 「如月、肩をつくっておけ」


 心臓が跳ねる。すぐにブルペンに走り、肩を回す。

 スライダー、シュート、そして真っ直ぐ。ミットに突き刺さる音が響くたび、緊張が少しずつ研ぎ澄まされていく。


 「隼人……行け!」


 監督の声。

 ついにマウンドを託された。



 土を踏む音がやけに大きく響いた。マウンドに上がると、観客席のざわめきが一段高まる。

 「一年が投げるぞ」「左のサイドスローだって!」


 バッテリーを組むのは山根。彼はミットを構えながら、落ち着いた声を投げてきた。

 「隼人、気負うな。いつもの球を投げろ」


 初球。

 大きく腕を振り、サイドからスライダーを投じる。

 ——ズバァン!


 外角ギリギリ、空振り。スタンドから「おおっ!」と声が上がった。

 二球目はシュート。打者の懐を抉り、バットの芯を外す。ファウル。

 0-2。追い込んだ。


 三球目。外へ逃げるスライダー。

 打者は食らいつくが、空を切った。三振。


 「よっしゃああ!」

 ベンチが一斉に沸き立つ。



 続く打者は五番。パワーのあるスラッガーだ。

 山根のサインは内角。俺は首を振る。再度サイン。今度は外。頷く。

 外角高め、力を込めて真っ直ぐを放つ。


 ——カキーン!


 打球は鋭くセンターへ。だが守備陣が好捕。ランナー三塁、ツーアウト。


 六番。ここを抑えれば無失点で切り抜けられる。

 「隼人、勝負球だ」

 山根が低く構える。


 俺はシュートを選んだ。左腕から放たれた球が、打者の手元で食い込む。

 バットが詰まり、三塁ゴロ。篠原が落ち着いてさばき、一塁送球アウト。チェンジ。



 ベンチに戻ると、仲間たちが一斉に俺を迎えた。

 「やるじゃねぇか!」「魔球だな、あれ!」

 水島が目を輝かせ、篠原は豪快に笑った。

 「お前、俺たちの切り札だ!」


 前世では味わえなかった歓声。

 胸の奥で何かが震えた。これこそが、俺が求めていたものだ。


 ——この手で、仲間と共に勝利を掴む。


 決意は、ますます強くなっていった。


現在の能力表(如月 隼人)


球速:134km/h


コントロール:C+


スタミナ:C+(実戦登板で集中維持)


変化球:スライダー4/シュート3


特殊能力:奪三振◎(初実戦で発動)/対ピンチ○(発動確認)/キレ○/打たれ強さ○/逃げ球

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