番外No.5-1 ゆやの家(前半) / 住吉スミヨシ 様

(著者注:昼間に作品をご提供いただいたのですが、想定よりも分量が多すぎて公開がずれ込みました。前半、後半に分けて公開しますのでご了承ください)


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 先週に引き続き、昼間テンションのお時間です。


 今回、辻感想にご協力いただきましたのは住吉スミヨシ(@sumiyoshimeimai

)さん(カクヨムID(@cyororina)さん)です。


 カクヨムへのご登録は2025年7月。比較的ご新規さんですね。

 それでも既に小説を6本も公開されている。すごい!

 

 短編が多いご様子。

 それでも★はそれなりについていらっしゃる。さすがです。

 ラブコメ、ファンタジー、恋愛、ホラー、エッセイ。

 分野も色々ですね。


 住吉スミヨシさんとは、XでFFさんの関係です。

 わりあいに最近、相互関係になったように記憶しています。

 アイコンが稲穂を咥えたわんちゃんで可愛いです!

 

 たまに呟きを拝見して人の良い方だな、という印象です。

 理性と知性とコミカルさが同居した発言に、クスリとさせてもらってます。



 さて、そんな住吉スミヨシさんからご提供いただきました作品はこちら。



 『ゆやの家』

 https://kakuyomu.jp/works/16818792437224377537



 ホラー作品だそうです。


 > 番外No.2 別に怖い話ではないけれど


 で読んだ作品は軽妙なほんのりホラーでしたが、こちらは本格的な予感。

 部屋を暗くして臨んでいきたいと思います。


 概要を見ると



 キャッチ:「そうか、おれも作ればいいんだ」



 セリフからしてヤバそうな発想ですね。

 だいたい、とんでもないことになるやつです。


>放課後の教室で始まった奇妙な遊び「ゆやの家」

>化け物を“作る”その儀式は、ただの冗談だった――

>「やめて」

>そう叫んだのは、クラスメイトの“ゆや”だった。ゆやの家の怪異はやがて、予想外の結果を生むことになる。



 概要も短編なのでこれだけです。


 小学生、でしょうか。

 なんかもう、やってることがきっと罰当たりなんでしょうね。


 犠牲者、ゆや。

 「いったい何があった!?」と気になってしまいます。



 それでは本編に参りましょう。


 第1話~第10話 + エピローグ2話 の、計12話、1万8千字の作品です。

 長くなるため、前編、後編と分けさせていただきます。




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>第1話 連想ゲーム


 友達とよくやりますよね。



>ざわめきの消えた放課後の教室には、四人の子どもだけが残っていた。

>窓際の席を囲み、小声で笑い合っている。まだ九月の熱気が床板にじっとりと染みつき、湿った空気が窓から差し込む光を鈍く滲ませていた。

>誰かが持ち帰り忘れた体操服からは、汗と柔軟剤が混ざった匂いが、淀むようにこもっている。


 生々しい感じです。

 放課後のムシムシとした教室ですね。



>その空気を割るように、引き戸が開いた。

>寅彦――小学五年生。この町に越してきたのは夏休みの終わりだった。

>転校してから一ヶ月。ようやくクラスの雰囲気には馴染んできたが、まだ誰かと積極的に話すには至っていない。今日も忘れ物を取りに来ただけだった。


 小学生五年生でしたか。

 行動力が出始めて、大人の目から外れる年頃ですね。



>四人の視線が一瞬だけ寅彦をかすめ、すぐ机の上に戻る。


 寅彦、嫌われてます?



>「じゃ、始めようぜ。“ゆやの家”」

>クラスの中心格・ミツヤが、机に置いた白い箱を見つめながら言った。

>その名に、寅彦の足が止まる。ゆやの家――クラスで耳にした“幽霊屋敷”の名前だ。


 タイトルですね。「ゆやの家」。

 さて、どんなものなのでしょう。



>「じゃあ、おれが“作り手”やるわ」

>ミツヤがニヤリと笑い、白い箱を手元に引き寄せる。

>残る男女三人はわくわくした顔で身を乗り出し、矢継ぎ早に質問を投げかけ始めた。


 白い箱。意味深な感じです。



>「目はありますか?」「いいえ」

>「腕はちぎれていますか?」「はい」

>「頭はありますか?」「……うーん、はい」

>くすくすと笑いが漏れる。連想ゲームのようなやりとりだが、内容がどこかおぞましい。


 小学生ってこういう応答を平然としますよね。

 まだ実感のないことが多いのでしようがないことではあります。



>「肌は白いですか?」

>「なんか全然怖くねぇ。もっとこう、ゾクッとするやつでさ」

>「じゃあ、次はアンタが質問してよ」

>やり取りは続き、十個目の質問のあと、三人は嬉しそうに声をそろえた。


 あんたがたどこさ、的な感じですかね。 



>『ゆやの家に行くのは、この化物であってますか?』

>ゆっくりと間を置き、三人の顔を順に見渡しながら、ミツヤは笑いを堪えるように頷いた。

>「はい……!」

>「やったー!」

>それからミツヤはティッシュをねじって作った歪な人形を、白い箱の中へぐいと押し込んだ。


 呪いの人形的な役割なわけですね。



>その直後。

>「やめて!!」

>勢いよく引き戸が開き、息を切らした少年が飛び込んできた。

>寅彦と同じクラスの、どこか影の薄い少年。その顔は青ざめ、目は血走り、手は小刻みに震えている。

>「うわっ! ゆやが来た!」


 名前が出されている当人、ゆやの登場です。

 そりゃ自分の名前で遊ばれたら怒りますよ。



>「逃げろ逃げろ!」

>椅子を引き倒しながら、四人はランドセルを乱暴に引っつかみ、笑い声とともに教室を飛び出していく。


 このガキども……(怒



>ゆやはハッ、ハッと浅い呼吸を繰り返しながら箱に駆け寄ると、中の人形を握り締めた。その顔色の悪さに、寅彦は思わず声をかけた。

>「……大丈夫? 保健室、いく?」

>寅彦の存在に今しがた気付いた、というようにゆやはハッと振り向いた。

>そしてガタガタと机を押し除けながら寅彦の元に駆け寄る。その必死な形相に寅彦はたじろいだ。

>「あいつらの、あいつらの言ってたことっ! 覚えてる!?」

>「言ってたことって……」

>教室の端に追いやられる勢いで詰め寄ってくるゆやに、寅彦は恐怖を覚えた。


 心配したらいきなり必死の形相で迫って来る。

 これは寅彦もびっくりです。



>「連想ゲームみたいなやつ?  “目があるか”とか」

>「こっち来て!」

>ゆやは強く寅彦の手を引き、さっきまで四人が座っていた席へ連れていく。

>「座って、同じようにおれに質問して!」

>「ちょ、ちょっと。落ち着いて説明してくれん? そのゲーム、おれ先月転校してきたばかりでよくわからんっちゃけど……」


 ゆや、落ち着け。まずは説明を。



>来るんだ、とゆやは絞り出すように喉の奥で声をあげた。

>「あいつらが遊びで作った化け物が──うちに来るんだよ!」

>ほぼ悲鳴のように、ゆやは叫び、体を震わせた。来る? さっきので化物が家に? そんなバカな。けれど、目の前の少年は本気で怯えている。


 荒唐無稽な話でも、語る本人が真剣だと怖くなります。



>「じゃあ、どうすれば?」

>「さっきのをやり直して、質問して、ちゃんと否定して……。それだけで、今日は来ないかもしれない!」

>寅彦は混乱しながらも、言われた通りに口を開いた。しかし。

>「ごめん、全部は覚えてない。最初の四つくらいしか」


 関心がなければこんなものです。

 むしろ寅彦は関わりたくもないでしょうに……。



>その言葉を聞いて、ゆやは肩を震わせ、ぽろぽろと涙をこぼした。

>寅彦はおろおろと教室を見渡す。誰か、大人に伝えたほうがいいかもしれない。けれど。

>「あっ」

>ふと思いついたように声を上げる。

>「今日、金曜日やし。もし怖いんやったら、おれんち泊まりにくる?」

>「えっ、いいの……?」

>ゆやは、ぽかんとした顔で寅彦を見上げた。


 罪悪感? からの提案。

 寅彦、優しい!



>「うん、おれんち、夜は母ちゃん仕事でいないし。引っ越す前も、友達泊めてたから、たぶん大丈夫」

>その言葉に、ゆやは安心したように、涙をふきながら小さくうなずいた。

>寅彦はなんだか、うれしくて少し照れくさい気持ちになった。


 思いつきだけれども助けてあげられた。

 ゆやの表情で誇らしくなる寅彦が可愛いです。



>「じゃあ、18時に、にんじん公園集合で!」

>「うん! ありがとう」

>別れたあと、寅彦は家まで駆け足で帰った。

>母親に事情を話して了承を得ると、晩ごはんとおやつを用意して、約束の公園へ向かう。

>日が暮れて、時計の針は18時を過ぎた。

>ベンチに座って、ゆやを待つ。

>しかし、19時を過ぎてもゆやは公園に現れなかった。


 よーし、と寅彦も張り切ったのでしょうね。

 それなのに来ない。

 どうなったのでしょう?





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>第2話 夕茜


 続きですね。

 夕方。不気味な時間帯です。



>(来ない。なにかあったのかな)

>ベンチの下で足をぶらつかせながら、つま先で砂をいじる。視線はずっと、公園の入り口道路を歩く人を追っていた。


 こういう待ち時間、不安ですよね。

 心細そう。



>空が茜に染まりかけた頃、サッカーボールを手のひらで弾ませながら、金髪の青年と並んで歩くミツヤの姿が見えた。

>青年は大学生くらいだろうか。派手な金髪に複数のピアスがきらめいている。

>ミツヤがこちらに気づき、ボールを足元に転がしながら声をかけてきた。

>「お、転校生じゃん。こんなとこで何してんの?」


 悪ガキ筆頭、ミツヤ。

 関わりたくないけれど無視をするわけにもいかず。



>寅彦は少し迷いながらも、正直に答えた。

>「……ゆや君を待ってる」

>「ゆやぁ?」

>ミツヤは笑った。鼻で笑うような、どこか人を見下すような笑い方だった。


 この時点で嫌いになれます。こいつめ。



>「ゆやって、あれ? 二丁目の例のボロ屋に住んでる子?」

>隣にいた金髪の青年が顔を向けると、

>「ああ、そー」とミツヤはボールを軽く蹴り上げて答えた。

>「――アイツにあんまり関わんないほうがいいと思うけどね、俺は」


 関わっている奴が何を言うかと。



>「だからって、あんなイジメみたいなことをやるのは、どうかと思う」

>その言葉に、ミツヤの眉がぴくりと動く。空気が一瞬、張り詰めた。

>「は? お前イジメとかしてんの?」

>金髪の男が声色を変え、ミツヤの頭をがしっと押さえる。

>ミツヤは慌ててその手を振り払った。


 おっと、兄貴、常識人です!



>「べ、別にいじめてねーし! ほら、兄貴もYouTubeでやってたじゃん。連想ゲームで化け物作るやつ。あれをクラスでやっただけだよ」

>「……まあ、“ゆやの家に行く”ってルールはつけたけどさ」

>顔色を伺うように、ミツヤは上目遣いに兄を見上げた。

>「だってアイツんち、きもちわりーんだもん」


 見事な理由付け。責任転嫁。

 目の前にいたら首根っこ掴んで、くだんの恐怖体験会場へ放り込んでしまいそうです(笑




>************


>ゆやの家の場所を聞き出し、寅彦は迷った末に、直接迎えに行くことにした。

>途中、ミツヤの言葉が頭の中で繰り返される。

>「――アイツんち、すげーボロいから多分すぐわかるぜ。天気のいい日でもなんか妙に薄暗くてさ。周りでもボヤがあったとか、狂人騒ぎもしょっちゅうだ」

>「ゆやもさ、ふだんは大人しくて何も喋んない根暗のくせに、“あの遊び”が流行ってから、やたらキレるようになってさ。“うちに来る”とか“やめろ”とか。まあ、必死すぎて逆に面白かったけど」


 ミツヤはやはり、一度、シメてもらったほうが良さそうです。

 その言葉に惑わされず向かう寅彦が素敵。



>教えられた場所にたどり着いたとき、寅彦の足がぴたりと止まった。

>(ここが、ゆや君の家――)

>ゆやの家は、住宅街の外れにひっそりと佇んでいた。

>周囲は白い壁と整った庭を持つ新しい家々ばかりで、窓からは団欒の明かりが漏れ始めていた。だが、ゆやの家だけが、まるで別の時間に置き去りにされたように沈んで見える。


 見た目で分かる、というやつですね。



>木造二階建て。外壁は風雨にさらされ灰色に褪せ、所々で木肌が毛羽立っていた。傾いた門柱は片方が欠け、二階の窓には黄ばんだレースのカーテンが垂れている。長い間、誰の手も入っていないようだった。

>広い庭は草が伸び放題。石灯籠、朽ちたベンチ、苔に覆われた犬走り。この空気に漂う独特な匂いは何だろう。熱をもったまま長らく放置した米や雑穀のような、あまったるくすえた匂い。耐えられない程ではないが、あまり長時間嗅ぎたくないような匂いだった。


 ……ゆやには可哀そうだけれども、外見は大切ですよね。

 寅彦もさすがに抵抗を覚えています。



>玄関前で寅彦はインターホンを押す。

>カチリと軽い音が指先に返ってきたが、呼び鈴は鳴らない。


 状況によってはこれで回り右したくなります。



>目の前の玄関扉は、くすんだ銀色のアルミ枠に、薄く波打った曇りガラスがはめ込まれていた。中の様子はよく見えない。寅彦は、そっと拳を握り、控えめにドアを叩いた。コンコン、と乾いた音が、玄関先のコンクリ壁に反響する。

>「すみません、寅彦です。ゆや君いますか?」

>返事がない。しばらく待ち、諦めて帰ろうとしたそのとき――


 こういう間、嫌ですよね。

 勇気を出したのに反応がないって。



>ガタガタと扉が開き、中からゆやが顔を出した。

>「あっ……」

>寅彦を見た瞬間、ゆやは泣きそうな、縋るような表情を浮かべた。

>けれど次の瞬間、しゅんと首を垂れて言った。

>「ごめん、待ち合わせ場所に行けなくて。泊まりも無理そうなんだ」

>「ばあちゃんの痴呆がひどくて、それで、家にいないと……」

>今にも消え入りそうな声だった。


 子供同士、スマホなどの連絡手段がないと、こういうすれ違いがよくあります。

 それにしても、ゆやの家庭環境悪すぎじゃないですか?



>「そうなんだ、じゃあ……」

>寅彦はゆやに背を向けて歩きかけたが、何かが胸にひっかかったように、もう一度だけ振り返った。

>ゆやは少し寂しそうな表情で、寅彦に手を振っていた。その顔を見た瞬間、胸の奥が締めつけられるように痛んだ。まるで──これで最後になってしまう気がした。


 助けたつもりだったけれど、うまくいかなくて。

 またも罪悪感に苛まれる寅彦。優しい!

 嫌な予感つきですが。



>寅彦は踵を返し、ゆやのもとに戻った。

>「じゃあ、おれが、こっちに泊まりに来てもいい?」


 寅彦の状況なら、確かにそういう選択肢も。

 でも本来の目的から遠ざかるやつ。






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>第3話 ゆやの家


 タイトル回収。問題のおうち訪問です。



>「おじゃましまーす……」

>一度帰宅して荷物をまとめ、寅彦は再びゆやの家の門をくぐった。


 小学五年生でちゃんと準備できる寅彦、良い子。



>すでに空はとっぷりと暮れ、あたりの家々からは夕餉の匂いや、テレビの音が柔らかく漏れている。蛍光灯に照らされた窓越しには団欒の影が揺れ、生活の温もりが見えた。けれど、ゆやの家だけはぽつんと暗く沈み、灯りがついているのかもわからない。まるで空き家のようだ。


 一度帰って戻って来るとけっこうな時間が経っていそうです。

 夕闇の廃墟っぽい家。これは怖い。



>玄関を開けると、冷たい空気が足元を撫でた。

>細い廊下を歩くたび、ギィ、ギィ……と床が軋み、背後から誰かが付いてくるような錯覚を覚える。案内された先は、古い日本家屋によくある、台所と六畳間が続きになった造りだった。中央には楠の大きなテーブルが置かれている。


 子供の頃、人の家へお邪魔するとよく不思議な感覚になりました。

 どこか異世界感を抱くというか……自宅とは異なる別世界。

 そんな感じを思い出します。



>天井の蛍光灯はチカチカと頼りなく瞬き、その光は埃の中に吸い込まれていく。

>壁も床もくすんだ色で、影を含んだまま沈んでいた。


 薄暗さがすごいです。

 外見だけじゃなくて内側まで。



>昼間も感じたあの匂い――果物がすえたような、発酵しすぎた甘酒にも似た匂いが鼻をかすめる。

>流しの脇の黒ずんだゴミ入れには、形を保ったまま腐れた何かが沈んでいた。

>床のあちこちには黒くこびりついた埃の層があり、そこを踏むたびに足の裏にネトッとした感触がまとわりつく。一度、何かをこぼして、それがそのままになっているのだ、と寅彦は思った。


 汚部屋に近い状態でしょうか。

 子供心に「うえっ!」ってなってそうです。



>「ごめん、うち、ちょっと汚いんだ。嫌だったら帰っても大丈夫だから」

>ゆやは、気まずそうに、けれどどこか諦めを含んだ声でそう言った。


 ゆやも分かっていて、でもどうしようもなくて。可哀そう。



>寅彦は、そんな空気をけろりと受け流すように笑う。

>「お年寄りが長く住んでる家って、どこもこんな感じじゃないと? うちのじいちゃんちみたいで、なんか懐かしい感じ!」


 イケメン発言すぎるっ……!!



>思いもよらない言葉だったのか、ゆやは驚いたように目を見開いた。

>「この家が、気味悪いとか思わないの?」

>「え? べつに……とりあえずお腹すいたし夕飯たべよーよ。おれ家から唐揚げとか持ってきた!」

>寅彦がリュックをゴソゴソと漁る姿を、ゆやは黙って見つめていた。じわじわと、胸の内に温かいものが広がっていく。こんなふうに、他人の言葉が染み入ってくるのは、いったいどれくらいぶりだろう。


 寅彦の好感度が爆増です!

 (※男子同士)



>――そのときだった。

>「ゆっちゃぁん、ゆっちゃああああん!!」

>突如、背後から甲高い声が飛び込んできた。子どもが親を呼ぶような甘えた声。けれど、その裏に何か、怯えるような色を孕んでいた。

>振り返ると、白髪をぼさぼさにした老婆が、奥間からふらふらと台所に入ってくるところだった。虚ろな目はどこにも焦点を合わせず、着ている服は前後が逆のようにも見える。


 おっと、認知症のおばあちゃん……。



>「また、汚い猫が入ってきたよぉ……池に落として、土に埋めたのに、何度も、何度も戻ってくるんだよぉ……」

>寅彦は言葉を失った。どう返せばいいのかもわからず、息すら止まるような気持ちで立ち尽くした。


 これ、知らない人が見ると恐怖以外の何物でもないんですよね。

 


>「ばあちゃん、わかったから! こっち戻ろ!」

>ゆやが慌てて立ち上がり、祖母の肩を抱えて連れ戻す。老婆はぶつぶつと猫の話を繰り返しながら、ゆやに引かれてそのまま部屋の奥へと消えていった。

>ゆやのなだめる声に混じって、老婆のうわ言のような呻き声が細く重なってくる。加えて、くぐもった大人の声がボソボソと聞こえた。


 さすがゆや、慣れてます。

 でも介護要員とか家事要員に児童を使いすぎるのって、ヤングケアラーというやつですよね。

 境遇が心配です。



>──ああ、ちゃんと誰かがそばにいるんだ。

>そのことに、寅彦はほんの少しだけ安堵する。どこか現実感を取り戻すような気がした。


 それを心配している寅彦は大人すぎる。



>「ごめん、おれの部屋、二階なんだ。上で食べよ」

>戻ってきたゆやが、どこか焦るような手つきで寅彦の腕を引いた。

>「おばあちゃん、大丈夫?──」

>そう聞きかけて、しかし口の途中で言葉を飲み込む。

>その問いを口にしてはいけないような気がした。だから何も言わず、ただ静かに引かれるまま、古びた木の階段を踏みしめてゆやの部屋へと向かった。


 子供心に悟る寅彦。

 というか、本当に大人すぎる……凄いです。






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>第4話 ゆやの部屋


 次はお部屋にお邪魔です。



>二階へ上がると、廊下の突き当たりに年季の入ったベニア板のドアがあった。

>ゆやが先にドアノブを回し、中へ入る。

>その背に続こうとした瞬間、寅彦の肩先にバチッと鋭い静電気が走った。

>「いたっ」


 外装や1階がアレだったので、ゆやの部屋もちょっと不安ですよね。

 という矢先に静電気?



>顔をしかめると、ゆやが振り返る。

>「あっ、ごめん、大丈夫? 猫が入らないようにしたから……」

>(猫?)と首を傾げる間もなく、部屋の電気がパチンとついた。

>天井の裸電球が数回、明滅を繰り返してから灯り、寅彦の視線は自然と室内へと引き込まれていく。


 電灯のつき方からして古そうな雰囲気……。



>そこは、一階のあの湿った台所とはまるで別の空間だった。

>八畳ほどの和室。畳は日に焼けて色褪せているが、きれいに掃き清められていて、乾いた埃の匂いとともに、どこか懐かしい空気が漂っている。

>正面の木棚には古い漫画や本、使い込まれた玩具が丁寧に並び、部屋全体に温もりを添えていた。

>隅には畳まれた布団がひと組、大判のバスタオルが掛け布団代わりに重ねて置かれている。

>右奥の押し入れは勉強机代わりになっており、下段にはランタンと数冊の本。座布団と小ぶりな折りたたみ机が寄せられていた。


 意外過ぎます。

 ゆや、こんな環境で真っ当に育ってます……!!



>「うわ〜、めっちゃいい部屋! なんか秘密基地みたい!」

>寅彦が思わず声をあげると、ゆやは少し照れたように肩をすくめる。


 気を遣わなくて良くなった寅彦。

 良かった、子供っぽい雰囲気に戻れました。



>「そうかな。ボロいし、客用の布団もなくてごめん。おれ、掛け布団で寝るから、敷布団つかって」

>そう言いながら、押し入れから座布団と机を引き出し、部屋の真ん中に置いた。


 お客用に良いものを準備できるところ、ゆやも大人です。



>やがて、寅彦が持ってきた唐揚げやおにぎりを並べ、ささやかな夕食が始まる。

>自然と会話が弾み、寅彦は博多での暮らしや、介護士として働く母のこと、転校したばかりでまだ素を出せていないことなどをぽつぽつと語った。

>ゆやは驚いたり笑ったりしながら、時折くすくすと声を漏らして聞いている。

>その表情の豊かさからは、“根暗”という噂がまったく結びつかない。


 打ち解けてきましたね。

 良い感じ。



>(こんなに明るいのに。どうして、あんなこと言われてるんだろ)

>そう思った矢先、ゆやがふと笑みをやめて、どこか遠くを見るような目をした。

>「……久しぶりに、こんなに笑った。なんか今日は、“あれ”、来ないような気がするよ」

>“あれ”。

>その曖昧で重たい言葉が、空気を変える。


 そして良い感じのところに爆弾です。

 “あれ”。



>寅彦は少し声の調子を落としながら、慎重に口を開いた。

>「ねえ、あのさ……」

>「あの“遊び”のこと、教えてくれん?」

>その問いに、ゆやの表情が陰る。


 ゆや、怖いですもんね。

 口にするのも憚られる、というやつかも。



>「三ヶ月くらい前かな」

>視線を机に落としたまま、ぽつりと語り始める。

>「寺門くん——クラスではミツヤって呼ばれてる子。お兄さんが怪談系の有名なYouTuberなんだって。おれ、スマホ持ってないから動画は見てないけど……そのチャンネルで、“ゲーム”をやってたらしいんだ」

>寅彦の頭に、公園でミツヤとサッカーボールをつついていた金髪の青年の姿がよぎった。あの人か――。


 あの兄貴ですね。

 ちょっとだけ良い人だと思ったのに。



>「その動画の真似をして、“化け物を連想して作る”って遊びがクラスで流行った。正直、すごく嫌だった。悪趣味だなって思ったし……たぶん、それが顔に出てたんだと思う」

>ゆやの声がわずかに震える。

>「それで、ミツヤが言い出したんだ。“ゆやの家に出そうだよな”って――」


 うわー、嫌な奴です。

 子供には家庭環境なんて受け身で変えようもないのに……。

 そんな残酷なことを平気で出来るのが小学生。



>その言葉を境に、ゆやはゆっくりと拳を握った。指の関節がわずかに白くなり、静かに恐怖が滲み出す。

>「それから“それ”が来るようになったんだ。おれの家に」

>「“それ”って、人間っぽいやつ? 幽霊みたいなのが来るってこと?」

>寅彦が慎重に聞き返すと、ゆやは小さく首を横に振った。

>「わかんない。“それ”が来る前に、押し入れに隠れてるから。姿はちゃんと見たことない」


 あれ、とか、それ、とか。

 抽象的な言い方は想像をかきたてて怖いです。



>ゆやは何かに気付いたようにふと顔を上げて、視線を部屋の入り口に向ける。

>「でも、幽霊じゃないと思う。もっと、ずっと怖いんだ」

>ゆやは、無表情で自分の手のひらをじっと見つめたあと、そのままドアに向かって手を伸ばし、力強く握りしめた。

>「だって、もし幽霊なら——だいたいのは、潰せるから」


 幽霊よりも怖いって、ゆや、幽霊を知ってるの?

 え? 潰せる……?




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>第5話 トモの部屋


 別の人の家、でしょうか。



>「──兄ちゃんがこないだアップした羽鳴山の怪異に関するレポ、もう6万再生いってるじゃん。チャンネル登録20万人かぁ〜! ハハッ、すげぇ」

>ミツヤは兄の部屋のベッドに仰向けになり、スマホを顔の上に掲げたまま動画を再生していた。

>画面を何度もタップしては、再生数の増加やコメントを食い入るように追い、高評価の数字を見ては口元をにやけさせる。


 トモ、こいつか……。

 元凶です!



>「ミツ、もう21時過ぎてるぞ。明日サッカーの試合だろ? 自分の部屋戻って寝ろよ」

>兄のトモヤは椅子にあぐらをかき、二台のモニターを前にタイピングを続けている。口の端でチュッパチャップスをカラカラ鳴らしながら、一方の画面では動画編集ソフトのタイムラインを操作し、もう一方ではGPTのチャットで講義ノートをまとめていた。


 AI使って楽をするんじゃない!(笑



>不意に、画面の端にポップアップ通知が現れる。地元のニュースを自動で拾うAPIが、不審者通報の見出しを表示していた。

>「……また二丁目で通報か。ほんと多いな、あそこは」


 ご近所の犯罪率が高い?



>低く呟いたその声に、ミツヤが飛び起きるように上半身を起こす。

>「ね、ね。次は“ゆやの家”を撮ってみるってのはどう? 兄ちゃんも最初に見たとき、すげえ鳥肌立つって言ってたじゃん。俺、あの家のレポなら再生数めっちゃ取れると思うんだよね!」


 ミツヤ、やはりこいつは許してはいかんです。



>ミツヤの目はギラギラと光を帯びていた。その熱を受けて、トモヤは短く息をつき、椅子をわずかに倒して弟を見やると、ゆっくり腰を浮かせた。無言で顔を近づけ、真顔のまま人差し指で弟の鼻先をピンと弾く。

>「……あそこはお前のクラスメイトの家なんだろ。考えて物言えよ」


 発言だけみると常識人ぽいんですがねぇ。 



>そのまま椅子を回転させてPCに向き直ると、無言でパシャパシャとキーボードを打ち始める。しかし、再び手が止まった。

>「公園での話だけどな、もし“怪創ゲーム”でその子をからかってるんなら、もう二度とするな」

>静かながらも怒りのこもった声だった。トモヤは目線を外さず、続ける。

>「──あの動画も、もう消したから」


 怒り。気軽に触れるようなものではない、という意味でしょうか。



>「えっ!? なんで!? 初めて10万再生超えたって、喜んでたじゃん!それに俺──」

>ミツヤは勢いよく身を乗り出し、ベッドから足を下ろす。床に素足を叩きつけるようにして立ち上がったが、トモヤの一言がその動きを止めた。

>「他人ひとをいじるために作ったんじゃねーんだよ」


 うーん。怪談の迷惑チューバ―的な印象ですが。

 トモはどこを目指してる人なんでしょうね。



>その一言に、ミツヤはバツが悪そうに俯き下唇を噛む。

>(でも俺──怪異作れるようになったかもしれないのに……)

>ミツヤの脳裏に、本気で怖がるゆやの顔が浮かぶ。もし、本当にそんな能力に目覚めたのなら、俺だって兄ちゃんみたいに…。


 ミツヤ、なんで作れるって思ってるんでしょう?

 あの遊びで何かを見たのでしょうか。



>体を硬直させて、むすくれた表情を浮かべる弟をみて、トモヤは小さく息を吐いた。

>「もう寝ろ、俺も今日はもう休むわ」

>ノートPCをパタンと閉じて立ち上がり、無言でミツヤを部屋の外へ促す。

>「……試合応援、行けなくて悪い。明日、頑張れよ」

>そう言って、ポンと軽くミツヤの頭に手を置いた。


 弟想いだし、やはり常識人……?



>「……うん」

>机に戻ったトモヤは、椅子に無造作に腰を落とし、体ごと背もたれに沈み込む。天井を見上げたその視線の先──

>そこには、黒く滲んだような染みがあった。

>三ヶ月前にはなかったはずの染みが、気づけば輪郭を広げて天井際に居座っている。

>「……ゆやの家、か」


 もしかしてトモは既に……



>湿った声でつぶやくと、再びPCを開き、地元の過去ニュースを検索する。

>猫の異常死――その座標の近くに、ゆやの家の住所が重なっていた。

>記事をクリックし、画面いっぱいに表示された写真を、息を止めたまま見つめ続けた。


 それなのにそんなもの検索してるから……!!





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>第6話 あれ


 指示代名詞。

 またの名を恐怖代名詞。



>「ゆや君って、幽霊、見えるの?」

>ぽつりと漏れた寅彦の声に、ゆやの肩がわずかに揺れた。


 幽霊発言してますからね、聞きたくなります。



>ハッとして顔を上げると、寅彦がじっとこちらを見ていた。どこか呆然とした、けれど真剣な目。その視線に、ゆやは「しまった」と思った。今まで誰にも言ったことがなかったのに。寅彦のまっすぐな空気に、つい、心の紐をゆるめてしまっていた。

>「……うん。ごめん、でも、誰にも言わないで」


 これ、馬鹿にされるとか嫌われるとか、そういう心配ですね。

 気持ちはとてもわかります。 



>その言葉を聞いてもなお、寅彦はまるで耳に入っていないかのように、身を乗り出してきた。

>「おれの周りに、幽霊っていない? たとえば、メガネの痩せた男の人とか」


 守護霊、的にいてほしい人。父親、ですかね?

 


>突然の問いに、ゆやは少しだけ目を丸くし、首を横に振った。

>「……そっか」

>寅彦は静かに息をつき、ふっと寂しげに笑う。

>「もしかしたら、父ちゃんがそばにいないかなって思ってさ。あ、ごめん。もちろん、誰にも言わないよ」


 ゆやの心配に気付く寅彦。やっぱり大人です。



>「お父さん、亡くなってるの?」

>声を落として尋ねると、寅彦はうなずいた。膝の上で手を組み、遠くを見るように言葉を継ぐ。

>「うん。数年前に、過労で。人のためにすげー頑張る人だったんだ。母ちゃんも似てるから……ちょっと心配で」

>言葉を区切り、ゆっくりと背筋を伸ばす。

>「だから、おれ、早く大人になりたいんだ。誰にも迷惑かけないで、自分のことは全部自分でできるようになりたい」

>その声には年齢に似合わぬ決意が滲んでいた。


 家庭環境を一気に話す。

 自分も重い話をしながら、逆に話されたゆやはどう感じるでしょう。



>ゆやは黙って、寅彦の横顔を見つめた。そうか、と小さく思う。寅彦が持つ“やさしさ”の根が、少しだけ見えた気がした。ゆやの視線に気付き、寅彦は恥ずかしそうに頬を掻く。

>「……もう二十二時か。そろそろ寝よっか。母ちゃんに、寝るってメッセ送っとく」


 ゆやも気遣い屋さん。

 境遇が成長させているのでしょうね。



>そう言って寅彦はポケットからスマホを取り出し、画面を開いた。指先を動かしながら、表情がどこか柔らかくなる。ゆやは、その様子を静かに見つめていたが、ふと何かを思い出したように立ち上がった。

>「おれも婆ちゃんの様子見てくる。ここでちょっと待ってて」

>寅彦が小さく頷くのを見届けて、ゆやは静かに部屋を出た。


 寝る前にやることですね。



>家の明かりはすでに落ちている。

>手すりも段の輪郭も闇に沈み、ただ一階の玄関に灯された豆電球だけが、底からぼんやりと浮かび上がっていた。

>足裏で段差を確かめながら、軋む音を気にして一段ずつ降りる。


 勝手知ったる自宅、暗い家を歩いていくと……



>台所を抜け、奥の襖に手をかけた。

>その先は十畳ほどの和室。古い掛け軸と仏壇の灯りがぼんやりと空間を照らしている。

>畳の縁に沿って布団が敷かれ、中で祖母が微かな寝息を立てていた。


 例のお婆さん。

 無事?にすやすやでした。



>縁側の障子が半分開かれていて、奥の庭が見える。いつ手入れがされたかわからない鬱蒼と茂ったユズリハや常緑木の影が、月明かりを吸い込むように暗く沈んでいる。その中央に雨水が溜まり、苔や藻で黒く変色した池がまるで口を開けたように闇を抱えていた。


 月明かりがあるせいでかえって暗い印象ですね……。



>虫の入り込みを避けるように、ゆやは障子を静かに閉めた。布団の傍に目をやり、そろそろと部屋を出て襖を閉めようとした――そのとき。

>「ゆっちゃん、今日もあれが来るよ。あすこの池から、出てくるんだよ」


 お婆さん、怖えぇぇぇぇ!

 不意打ちすぎます(笑



>突然の声に、心臓が跳ねた。

>振り返ると、祖母が布団の中から顔だけをこちらに向けていた。

>その目は異様に爛々と光り、まっすぐゆやを射抜いている。


 むしろお婆さんが怖い!



>ゆやは、その言葉を遮断するように襖を閉めた。


 ……このシーンだけ切り取るとギャグっぽいんですが(笑



>消えかけていた恐怖が、再び意識の奥に焼きつく。

>「大丈夫、大丈夫……今日は、大丈夫……」

>かすれた声で繰り返しながら、ふらつく足取りで階段を上る。

>一段登るごとに、心臓の鼓動が耳の奥でどくん、どくんと大きく響いていた。


 現時点で一番怖いのはお婆さんです。






 以上、前半6話分でした。

 ゆやの自宅が普通に怖いんですが……。

 しかし真の恐怖は次からっぽいです……



 後半に続きます。


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