ドリームチューナー
@YinYue
第一夜:星の聲、道を導く
目の前で、ひとりの少年が地面にしゃがみ込んで泣き続けていた。
そして場面は映画のフィルムのように次々と切り替わる——
疑念、不信、年齢とともに深まる衝突、そして彼のために二度と開かれることのない家の扉。
私は、何もできず、ただその映像が目の前で繰り返されるのを見ているしかなかった。
やがてそれは壊れた鏡のように砕け散り、光の粒となって消えていく。
最近、このような夢を見ることが多くなった。
夢に出てくるのは、毎回違う人たち。
そして、終わる直前には必ず低く落ち着いた声が聞こえてくる:「彼らを、助けたいと思うか?」
その声とともに、私は目を覚ます。
「あなたなら、助けられる。」
—
午前五時十二分。
光はまだ窓辺に届いていない。
少女は夢から目を覚ましたばかりで、
瞳はまだどこか虚ろで、まつげには微かに震える光が宿っていた。
まるで、魂がまだ完全には戻ってきていないかのように。
彼女の名前は尹月インユエ。
今年二十歳になったばかり。
見た目は、どこにでもいそうな普通の女の子だ。
だが、このときの尹月はまだ、さっき見た奇妙な夢から完全には目覚めておらず、ぼんやりしていた。
そんなとき——
「こんにちは~!」
耳元で、突然そんな明るくて可愛らしい声が聞こえた。
柔らかくて透き通った声、語尾はふんわりと軽い。
この部屋に、他に誰かいるわけがない?
一人暮らしのはずで、せいぜい二匹の猫と暮らしているだけ。
誰かの声が聞こえるなんて、そんなはずは——
「ありえない」
その言葉が頭の中をぐるぐる巡る中、反射的に尹月の体は起き上がっていた。
その動きに驚いて、ベッドで眠っていた二匹の猫もぴょんと跳ね起きた。
そして、目をこらして部屋を見渡すと——
そこに、立っているウサギが一匹。
「う、ウサギ…?」
もしこれが夢でなければ、見間違いでもなければ、幽霊でも見ていなければ...
このウサギ、どう見ても普通じゃない。
ぬいぐるみでもない、幻でもない。
普通のウサギより少し大きめで、全身が星屑のようにキラキラ輝いていて、毛皮は夜空のような紺黒色。
どこか、この世のものとは思えない違和感がある。
ウサギは前足を一生懸命振りながら、無邪気に笑っていた。
「こんにちは~!こんにちは~!」
「…な、なんなのあんた…?」
尹月は思わず声を漏らした。
疑いと警戒心を込めた声で。
でも、このウサギ、喋れるならもしかして…会話できるのかも?と一瞬思った。
「ぼくは星霊ウサギだよ!」
そのウサギは芸を披露する子どものようにぴょんぴょん跳ねながら答えると、元気に言った。
「尹月さま、ずーっと探してたんです! お願いがあって…」
「断る。」
尹月は考える間もなく即答した。
直感でわかっていた。
「あなたには特別な運命がある」とか「世界を救ってほしい」とか、あの手の話だと。
星霊ウサギは一瞬ぽかんとしたあと、
「わああああああん!!!」
と大泣きし出した。
地面にしゃがみ込み、ぼろぼろと涙を流しながら、
最後は彼女の足にしがみついてきた。
「お願いですぅぅ…ひっく…尹月さま…あなたしかいないんですぅぅ…!」
ウソみたいに派手に泣きわめくウサギを、
尹月の二匹の猫が警戒しつつも興味深そうに見つめていた。
「もう断ったってば…!」
「お願い、お願い…!せめて…一度だけでいいんですっ…!」
星霊ウサギは潤んだ目で尹月を見上げる。
「星霊界は、本当に今…あなたの力が必要なんですぅぅ…」
「その『星霊界』って名前からして、なんか怪しすぎるでしょ!行かないから!!」
……とは言ったものの、このウサギ、泣いてる姿があまりにも可哀想で、
しかも「一度だけでいい」と言ってるし……結局、尹月はつい口を開いてしまった。
「……一応聞くだけ。……それで、何があったの?」
その瞬間、ウサギの顔がパッと明るくなった。
態度の変わりようはまるで手のひら返し。
「それがそれが!まずはこっちに来て~!」
そう言うと、ウサギは懐から古びた鍵を取り出し、ぴょんぴょんとドアの方へ跳ねていった。
「ちょ、ちょっと!うちのドア壊さないで!」
叫ぶ間もなく、ウサギは鍵を尹月の部屋のドア——ドアの真ん中に差し込んだ。
「…は?」
あまりの出来事に、尹月はただ瞬きを繰り返すばかり。
そして、ウサギはジャンプしてドアノブを回す。
ドアが開いた。
だが、そこに広がっていたのは見慣れたリビングではなかった。
それは、星空だった。
正確に言えば、そこは廃墟のような空間で、周囲には無数の銀河と星々が広がっていた。
静寂に包まれた空間。
唯一の光源は、柔らかに輝く星たちだった。
星霊ウサギは振り返り、尹月の手を取り、導くようにその空間へと入っていく。
それを見ていた二匹の猫も、尹月のあとを追って中へ。
足を踏み入れた瞬間、星の光がキラキラとまたたいた。
そして、星霊ウサギは尹月に、銀の鎖に吊るされた紅い宝石を差し出した。
尹月は反射的にその手を伸ばし、宝石を受け取る。
その瞬間、世界が静寂に包まれた。
彼女が自分の体に目をやると、
ゆるっとした部屋着は消えていて、
代わりに身についていたのは露出が少し多めの紅と黒のドレス。
髪もまとめられ、毛先には火のような赤いハイライトが入っていた。
宝石は、左手首にブレスレットのように装着されている。
「な、なにこれ!?!?」
「ママ~っ!?ぼく、なんかすっごいことになってる~!?」
空中から可愛い男の子の声が聞こえる。
ふわふわ浮いてるのは、尹月の大猫・ハルだった。
背中には天使の羽を模した飾り、頭には大きな帽子を被って、ぐるぐると空中を慌てて回っていた。
「な、なにが起きたの!?何が!?」
もう一方からは、気品ある女の子の声。
それはもう一匹の猫、ミミ。
彼女は黒と赤の悪魔の羽根飾りに、頭には小さな角。
やはり空中に浮かんでいた。
「ようこそ、星霊界へ。調律者さま。」
星霊ウサギは微笑む。
その声は相変わらず可愛くて柔らかい。
けれどその笑顔に、尹月はゾクリと背筋を震わせた。
それは歓迎ではなく、宣告のように感じたのだった。
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