第37話:合(法ではないロリ)コン

 それから数日……俺は総理大臣とラスボスを巻き込んだ合コンが開催される。

 俺はとにかく盛り上げるための知識を詰め込んで、その当日……クイナが予約した店を聞いて俺は頭を抱えていた。


「……なんですか。文句あるんですか」

「……いや、うん。俺が悪かったよ。冷静になれば、普通に女の子にだけ声をかけてもらって、俺が他のことをすべきだった。というか機関の連中に押し付けるべきだった」

「なんですか!? 文句があるならあるでハッキリ言ってくださいよ……!」

「いや……」


 俺はクイナのスマホ画面に表示されている店を見て頭を抱える。


「パワフル太郎……。ファミリー層向けの焼肉チェーン店……ないだろ……! 総理大臣が合コンに来るのにそのチョイスはないだろ……!」

「なんでですか。焼肉美味しいじゃないですか」

「焼肉でも別の高級店とかにしろよ……!」


 いやしかし、責められるべきは俺の方だ。

 どうでもいい平林のお願いならまだしも、総理が来るなら最低限の体裁を保つために俺がするべきだった。

 というか普通にもっと前に確認するべきだった……!

 何やってんだよ、俺は……!


「でもですよ? ヤクさん」

「……まぁ、うん、クイナを責めるべきではないか。何か考えがあるんだな」

「パワフル太郎はソフトクリームが食べ放題で……しかも自分で作れるんですよ!?」

「だからなんだよ……!」

「ワッフルも焼けるんですよ!? ワッフルにソフトクリーム挟んでもいいんですよ!?」

「だからなんだよ……!」

「お菓子屋さんを目指してるヤクさんにはいいじゃないですか!」


 そうでもないだろ……!

 目指すならチェーン店の子供向けの設備じゃなくてちゃんと練習すべきだろ……!


「く……正直、よく考えたらクイナの来歴的に総理大臣がロリ合コンに来る際の適切な店選び方が出来るはずがなかった……!」

「総理大臣が合コンに来るときに適切な店ってなんですか?」

「……ねえよそんな店!」

「酷い逆ギレです……」


 俺はひとりアジトの中でもがく。

 何をどう考えてもイカれた状況下、正常なものがない中で正常なものを見出すのは不可能に近い。


「そもそもですね。総理大臣、総理大臣と言いますが、民主主義の国にとって国の代表であるだけで、特別な人ではないのです。君主制なら分かりますが、この国の制度において私達も総理大臣も同じ人でしかないのではないでしょうか」

「……!」

「日本に身分制度はありません。同じ日本国民として、対等なのではないでしょうか。パワフル太郎に連れていくことに、なんら倫理的な問題があるとは思いません」

「……それは……いや、でもクイナって日本国籍持ってなくない?」

「マシュマロとか焼きましょう。せっかくの焼肉なんですから」

「……さっきからお菓子の話ばかりで肉の話題出てなくないか?」


 まぁ……決まってしまったものは仕方ない。

 クイナは「そろそろ女の子で集まっておきますね。では現地で」と去っていく。


 ……まぁ、総理大臣としては深見と会うのが目的なのだから、合コンはもうなんでもいいか。

 メインは……合コンの開始ではなく、今からだ。


 スマホが鳴ってすぐに出ると平林の声が聞こえてくる。


『深見が来たぞ。護衛もない。無警戒だな。撃つか?』

「やめとけ。狙撃じゃ無理だし、依頼が果たせなくなるだろ」

『……総理大臣の頼みとか別に無視で良くないか? この前の遭遇戦とは違うんだから、準備はしている。仕留められるぞ』

「……試してもいいけど。不意打ちの狙撃ぐらいでキレるやつでもないし」

『おう。……あ、無理だ。スコープ越しに目が合った』

「だろうな」

『あ、総理の車っぽいのもきた』

「……マジでくるのかぁ」


 仕方なくアジトの外に出ると、先に黒い車が止まりテレビで見たことがある男性が降りてくる。


「……」


 目が合って軽く会釈をする。

 秘書のような人とひとこと言葉を交わしてから扉を閉じる。


「君が……」

「厄神ヨウです。申し訳ないんですけど、深見が来るまで時間がないので挨拶とかは抜きでいいですか?」

「ああ、もちろん。私が無理を言ったんだ。……本当に会えるんだな」

「はい。まぁ……あ、車はそこだと邪魔になるんでここの駐車スペース使ってください。自警団、みんな車持ってないんで」


 総理大臣をアジトの中に案内してそれから冷や汗をダラダラと垂らしながら彼を見る。

 老人と呼べる年だが背筋はしっかりと伸びている。

 ゆっくりとした動作は年齢の問題もあるだろうが、意図して厳かに振る舞っていたのが身に染み付いているからだろう。


「……まず、あと数分もすれば深見クノウも到着します。が……まぁ聞いていると思いますが、会談に応じたというわけではなく、別の用事で呼び出したところを騙し討ちのような形で会わせています」

「ああ、すまない」

「いや、まぁ俺は別に大丈夫ですけど。まぁ深見は気を悪くする可能性がありますが、大概の場合は俺がいるのでどうにでもなりますし、あちらも暴力的な手段は避けるでしょう」


 軽く咳払いをしてリビングの扉を開けて中に案内する。

 ……昨日平林が見ていたグラビア雑誌が部屋の隅に置かれていることに気がつく。気が付かないフリをして続ける。


「ですが、まぁ知っての通り深見は安定した世界が気に入らないって理由で革命を起こそうとしている人間なので、理屈や理性だけで動くほど御しやすい人でもない。……怒らせたら戦闘になる可能性はありますし、その場合……悪いけど守るのは他の人を優先させてもらいます」

「ああ、構わない。私は死んでも代わりがいる」


 当然とばかりに頷く。

 機関から俺の人柄が伝わっていたのだろうか。


「それで本題なんですけど。深見クノウを呼び出した名目なんですが」

「ああ、どうやって呼び出したんだ」

「合コンです」


 総理大臣は無言で、けれども「なるほど」とばかりに頷く。


「合コン。……とは、いわゆる合同コンパのことだろうか」

「合(法ではないロリ)コンの集まりです」

「……なるほど、そういうことか」


 総理は頷く。


「なんで?」

「俺が聞きたいです」

「それで深見がくるの?」

「はい」

「……なんで?」

「俺が聞きたいです。とにかく、深見と話すタイミングは今からここに来るのと、合コンまでの道のり、そして合コンの最中です」

「……合コンで、女の子ではなくお爺さんと話してくれると思うか?」

「無理じゃないっすかね。アイツ、この前も一発ギャグとかしてたんでノリノリですよ」

「……なるほど。まぁ……仕方ないか」


 そんな話をしているとチャイムが鳴る。


「深見ですね」

「深見クノウってチャイムとか鳴らすんだ」


 玄関に迎えにいくと、この前よりもちょっとシュッとしたカジュアルな服を着た深見が立っていた。


「ヘドロ。そして……うわ、なんか総理いるじゃん。えっ、なんで?」

「合コンに参加するんだ」

「……なるほど、ライバルということか。よし、早速作戦会議からいこう。ヘドロ、総理」

「なんでノリノリなんだよコイツ……」


 それから総理は深見と何かを聞こうとするが、深見はあまり気にせずに合コンの段取りを決めていく。


「そういえば、店はどうするんだ?」

「ああ、焼肉チェーン店のパワフル太郎ってあるだろ?」

「……あのソフトクリームやワッフルが作れて、ドリンクバーが充実してる?」

「詳しいなこの男」

「うちの組織の打ち上げはいつもパワフル太郎だ」

「わんぱくすぎるだろ。革命軍」

「ふむ、相手も楽しめそうだし、ちょっと上手く出来なかったりで盛り上がったり、上手く出来たら褒め合うことで距離を縮めることが出来る。……なかなかのいい選択だ」


 ……いい選択なんだ。

 ソフトクリームが手作り出来る安い焼肉食べ放題の店って。


「……秘書にさまざまなパターンを用意してもらっていたが……合コンは、対策してなかったな」

「ご愁傷様です」

「総理、狙っている相手を示す合図は咳払いの回数だからな」

「……ああ」


 全てを諦めた表情の総理とノリノリの深見を連れて、先に焼肉屋の中に入って待つ。しばらくすると、クイナが山田と柳を連れてやってくる。

 席は左から順にクイナ、山田、柳か。


 深見は相変わらず2回咳払いをした。

 深見はノリノリだなと思いながら、死んだ目をしていた総理を同情の目で見て……。


「ごほん」


 と、咳払いをした。

 俺は総理をしばいた。



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