第33話:彼シャツ回

 クイナは、若い女の保険医に発情している中学生男子みたいな雰囲気で俺に性欲を向けている。

 ……完全に……こう、中学生ぐらいの時期ってちょっとおかしくなるよなと納得しながらもどうしたものかと考える。


 もちろん手を出すのはアウトとして、しっかり叱って止めるのも…………なんというか、最悪死にかねなさそうな雰囲気だ。


 本人の人格としては、非常に鬱々としていて薄い絶望を感じているが、それはそうとして本能的なところは若さゆえに活発というか……。性欲のおかげでちょっと前向きなところがあるというか。


 根っこの部分が非常にネガティヴだから扱いにくい……!

 落ち着かせて帰らせたいが、雨はどんどん強まっていて電車の再開見込みはなさそうだ。


 あまり冷たく当たるというか、欲望的なところを否定したら死んでもおかしくない雰囲気がある。


 真中ミズキや愛知リュウ達はなにをしてるんだか……まぁ、アイツらも若いから仕方ないのか。別に俺とはそこまで年齢変わらなさそうではあるが。


 ぺたりと俺に甘えているクイナを見て……この前、心が多少救われたのもあって無碍にしにくい。


「あー、ストレスとか溜まってるのか?」

「……そうかもしれません。何やっても怒られるので」

「真中にか?」

「学校でも、アジトでもです。……私が周りに合わせられてなくて悪いのは分かってます。……でも、仕方ないじゃないですか。分からないんですもん」


 ああ……まぁ、環境があまりにもガラッと変わったらな。

 それで明らかに社会から外れていそうな俺に安心感や仲間意識が芽生えているということだろうか。

 そこに加えて思春期の異性への興味、あるいは今現在とは違うものへの期待を俺に向けているようだ。


 あこがれ……でもないか、逃避先か。


 ……はあ、少女の恋心という可愛らしいものをああだこうだと分析しようとするのも馬鹿馬鹿しいか。


 性欲、憧れ、現状からの救いを異性に求める、同質性への安心感、異性への興味、他者への同情、期待。

 純粋な恋愛感情なんてものは存在しておらず、バラしていけば大概がそんなもので……クイナの場合そういう本音を隠すことを学んでいなかったせいで明け透けなだけで、普通の恋愛感情と違いはないだろう。


「……飯用意しておくから、風呂入ってこいよ」

「あっ、着替えの服持ってきてないです。貸してください」

「そこら辺にあるの持っていっていいから。あ、タオルはそっちな」


 クイナは「へー、こんな服もってるんだー」と俺の服を物色しながら、俺が着古してよれよれになったTシャツをご機嫌な様子で持っていく。


 わざわざよれたやつを持っていったのは遠慮のつもりなのか別の理由なのか。

 狭いアパートなので扉のある脱衣所はなく、もしそこら辺で服を脱いだらどうしようかと思っていると、どうやら流石に裸を見られるのは恥ずかしいのか風呂場の中で服を脱いでいるらしい。


 シャワーの音と出始めが冷たかったのか「ぴゃっ!」というクイナの悲鳴を気にしながら冷蔵庫を見る。

 ……ほとんど何もないな。


 カップ麺はあるから、カップ麺に卵とか野菜とかをちょっと追加するぐらいでいいだろうか。

 俺もあまり今から外には出たくないし、放っておいたらクイナがパソコンの中身を覗いてしまいかねない。


 風呂場やクイナが脱いだ衣服の方に目を向けないようにしながらお湯を沸かしたり野菜を焼いたりしているうちに、見ないようにしているのは自分がクイナを異性として意識しているからなのではと考えはじめたところで風呂場から篭った声が聞こえてくる。


「厄神さん、今何してますか?」


 何の後ろめたいこともしていないのに肩がビクッと揺れてしまう。

 平静を装いながら返事をする。


「あー……飯の準備、と言ってもカップ麺だけどな」

「えー、本当ですか? ほんとは一緒にお風呂に入ろうとしてません?」

「してない。あのな、俺は大人だぞ? ガキに興味なんてない」

「えー、どうだか。なんだかんだで数日以内にメロメロになって今までの人生とか全部かなぐり捨ててきそうな雰囲気があります」

「そんなことはありえない。というか数日とか期間が短すぎるだろ……」


 クイナは「そうですか?」と言いながらぱちゃぱちゃとする。


「そういえば、さっき言ってたジョイント部分ってどこです?」

「保健の教科書を読め……」

「自分の体なら観察した方が早いかと」

「俺の家でするな、俺の家で」


 クイナは気になるのか不満そうな声を出す。

 ……賢くはありそうなんだけど、常識とか勉強とか一切やってきてないからなぁ。


 しばらくしてかちゃっと風呂場の扉が開いて、すぐにかちゃっと閉まる。どうやら手を伸ばしてタオルや着替えを取ったらしい。


 ガサゴソと音が聞こえて、少ししてからブカブカのTシャツをワンピースのように着ているクイナが出てくる。

 元々安物のTシャツの薄い生地が風呂場の湿気やちゃんと拭えていなかったせいで少し濡れて、そのせいで微かに肌色が透けていた。


 子供っぽい可愛らしい下着の柄がTシャツ越しに透けて見えて……こてり、と不思議そうにクイナが首を傾げたのを見て我に返る。


「ドライヤーってありますか? 髪びちゃびちゃで」

「ああ……そっちにあるよ」


 クイナ……エロいことを誘ってくるときはそこまでなのに、普通に油断しているときの破壊力がすごい。いや、ガキの下着なんかに興味はないが。大人なので。


 細い脚がTシャツから伸びていて、Tシャツの襟から白い鎖骨が覗く。


 一通り用意が終わったのであとはクイナが乾かすのを待つか……と、部屋に座ってスマホを眺めていると、クイナがドライヤーを持ってやってきて、俺の前で屈む。


「このドライヤーってどう使うんですか?」


 クイナは俺に尋ねるが……言葉が頭に入ってこない。

 屈んだクイナのTシャツはスカスカで、前屈みになっているせいで首元の隙間から服の中が全部視界の中に入ってしまっていた。


 子供っぽいワイヤーの入っていない柔らかそうな下着と、その奥に見える形のいいヘソとうすべったい腰つき。ふとももの付け根までしっかりと目の中に入って……。


 クイナが「どうしたんですか?」と体勢を変えて、服の中が見えなくなるまでフリーズしたように中を見てしまった。


「厄神さん? ……あれ?」


 ドライヤーを持ったクイナは俺の下半身に目を向けて目を開く。


「で、出っ張りが……! ジョイントするための出っ張りがありますっ!」


 それは……それは、仕方ないだろ……!!

 俺だって、俺だって……マトモに学校にすら通ってなかったんだ……! 女の子と付き合うとかそういうこともしたことがないし、かと言って五大名家みたいに許嫁がいるわけでもない。


 普通の人よりも遥かに異性との関わりがないまま大人になってしまったところで……可愛い容姿の女の子の下着を見てしまえば……するだろう、反応。


 そりゃどうしようもないぐらい臨戦態勢になってしまうだろう……!!


 クイナは少し恥ずかしそうに、照れたように俺の目を見て口をもじもじと開く。


「さ、さっきまでそうじゃなかったですよね。……変形するんですか?」


 嘘を吐けば信じてしまうだろう。

 変な嘘を吐いたらこの子が不幸な目に遭ってしまうかもしれないと思って……観念して頷く。


「……そうだな。性的に興奮すると大きくなる」

「へ、へぇー。興奮したんですね。な、なんでしたんですか?」

「お前、異性の前でその格好は油断しすぎだ。……見えてる、屈んだとき、中が」


 クイナはもじりと手でそこを隠して、それからこくりと頷く。


「……他の人には見られないように気をつけます」

「俺にもそうしてくれ」


 ぎこちない様子でクイナは俺の近くに座ってドライヤーで髪を乾かしていく。


「……厄神さんも、私に興奮してくれるんですね」

「……仕方ないだろ。俺も似たような境遇なんだから、女の肌になんて慣れてない」


 クイナにとってもそうだろうが、俺にとっても今の状況は刺激が強く……。妙に気恥ずかしい時間が続いてしまった。


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