第31話:交渉的な
師走川クイナという少女と度々会うようになって知ったこと。
コイツはすごい嘘吐きだ。
真中ミズキには「友達に会う」と言って俺のところに来ているし、俺の連絡先も疑われないように別の名前で登録していて、いつだって楽しそうなフリをする。
作った笑顔と愛想笑いと本当に楽しい笑顔に差がなくて分かりにくい。ずっと笑っていてほしいと願ったらたぶんそうしてくれるけど、本音で接してほしいと思ってもきっと難しい。
「んー、厄神さんってどこに住んでるんですか?」
「言わない。絶対押しかけてくるだろ。……誘拐犯と思われたらたまったもんじゃない」
「えー、押しかけたりなんてしませんよ。単に知りたいだけです」
「……普通に、俺じゃなくて別のやつに懐けよな。ロクでもないぞ、俺なんて」
「いい人だから好かれるようなものでもないですよ。世の中は残酷なものです」
世の中のことなんて何も知らないだろうに。
二人で歩くときの歩幅にはもう慣れた。どれぐらいの声量なら声が届くのかも、嘘っぽい笑顔の本当の意味にも。
ただ何となく一緒にいるだけで、なのに師走川クイナという少女のことを自然と知るようになった。
「師走川って名字。……本名じゃないよな」
「まぁ本名は元々ないですから。師走川もクイナもノリでつけたんですよ」
「ノリで……か」
「はい。大した意味はないですよ。12月に引き取られたから師走でそれだと人名っぽくないから川をつけてみました」
適当だな……まぁ、悩めばいいというものでもないけど。
「珍名を名乗るぐらいなら適当に自警団の中からもらうとかしたらよかったのに」
「んー、真中さんと拝島さんは名家のお嬢様なので勝手に名乗るのはマズイですし、愛知さんと平林さんは男性なので同じ名字を名乗るのはちょっと変な意味が出てしまうというか」
クイナはイタズラっぽく俺を見る。
「今度から、厄神って名乗ってあげましょうか?」
「やめろ。というか厄神は厄神でだいぶ珍名だろ」
俺のツッコミにクイナはクスクスと笑う。
……俺はつまらないやつだろうに、なんでこの子はこんなに俺の元に会いに来るのだろうか。
行き帰りの交通費も彼女は口にしないがそれなりにかかっているだろうし、時間も無駄になっている。
少し強い風が吹いてクイナはスカートを押さえながらクスリと笑う。
「今、横目で見ようとしましたね。えっちー」
「見てない。……風強いな」
今日クイナが履いているのはスカートではあるけれど、ミニではないので簡単に捲れたりはしないだろう。
クソガキって感じなのに、服装は結構落ち着いていて清楚な印象を受けるものが多いのは、たぶん彼女なりにオシャレをしてきているつもりなのだと思う。
俺に対して異性としての好意は別にないだろうが、それでも男と遊ぶからデートのフリぐらいは一応しておくぐらいの、適当なのか真面目なのか分からないクイナらしい服装なのだと思う。
前髪を気にしている様子のクイナから目を逸らして空を見上げると、黒い雲が近づいてきているのが見える。
「……雨降りそうだな。風も強いし電車止まるかもなぁ。駅まで送るから帰れよ」
「えー、いやです。雲ぐらいバーって吹き飛ばしてくださいよ」
「なんか雲を散らしたら別のところで豪雨になるかもって話を聞いたことがあるからやらないかな」
「出来ないとは言わないんですね……。というか、嵐で電車が止まったら、電車の中で立ち往生するかもしれないじゃないですか」
「ええ……帰らないつもりか? 天気予報ぐらい見てから……いや、わざとかお前」
クイナはわざとであることを隠そうともしない様子でピーヒョロローと誤魔化すフリをする。
「……痛い目見るぞ、いつか」
「今日、痛い目見せてくれてもいいんですよ?」
クイナはすっと俺の腕を抱いて、ふにふにと柔らかい胸を押し付ける。
「……当たってる」
「嬉しいですか?」
俺の言葉を聞いて楽しそうにぎゅーっと押し付けて、それから照れたような表情を隠すように顔を俺の腕に埋める。
俺はゆっくりとクイナの方に空いた手を近づけて……ピシッとデコピンをする。
「あいたっ!」
「マセガキがよ」
「痛いじゃないですか」
クイナは涙目になりながら俺を睨みつけて、俺はため息を吐いて言い返す。
「クイナが痛い目見せていいって言っただろ」
「そういう意味じゃないですよー」
おでこを抑えていたクイナはそれでもやっぱり俺の腕にくっついて、膨らみかけの胸を触らせる。
「……破滅願望があるのかもしれないけどな。それが叶っても人生は何も変わらないぞ。漫画とか小説とか映画とか、物語じゃないんだ。ハッピーエンドです、バッドエンドです、って感じで終わった感が出ても明日は普通に続いていく。分かったら離れろ」
「……破滅願望じゃないですよ。……全部めちゃくちゃになったらって、考えること自体はよくありますけど、今はそうじゃなくて」
クイナはそう言ってからジッと俺の顔を見つめる。
「普通に厄神さんと一緒にいたらムラムラしただけです」
「離れろマセガキ」
「やー、でーすー!」
「そんなの自分でどうにかしろ、自分で」
「やり方知らないんですよ! 殺人用の人造人間だから! 人造殺人マシーンへの差別ですよそれは!」
「スマホで調べろよ!」
「真中さんに監視されてるんですよ! 検索履歴とか! バレたら恥ずかしいです!」
「今の発言の方が絶対に恥ずかしいだろ!」
俺はバタバタと腕を振って追い払おうとするが、クイナはしがみついて離れない。
「分かった。分かりました! じゃあいいです。今日のところは諦めてやりましょう。ったく、生娘でもあるまいし……」
「生娘だった瞬間なんてこの世で一度としてねえよ」
「その代わり、今日泊めてください」
「……まぁそれぐらいなら……自警団の連中には適当に言っとけよ?」
「はい!」
はあ……とため息を吐いてから気がつく。
……この俺の腕に張り付いてるあったかい小動物……ドア・イン・ザ・フェイス的なテクニック使ってなかった?
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