第29話:フェチ
相手が子供なので合コン……合コンと呼べるのか分からないナニカは暗くなる前に終わって、深見クノウはさっさと逃げていった。
深見クノウに一番ダメージを与えたのは滑った時のソラちゃんの愛想笑いだな。
……戦いにならずに済んでよかったな。
もう深見クノウを倒したところで解決する状況ではなくなった以上、街に被害を出してまでどうこうするメリットはない。
「ふふ、楽しかったですね」
「アレを楽しめたならお前は大物だよ……クイナ」
一応、ソラちゃんと山田は家まで送り届けて、柳は今日はこちらに泊まるということで三人でアジトに帰っていく。
……一応アジトは数人なら泊まれるし、お客さんの柳だけ残して帰るわけにもいかないので今日は俺たちもアジトに泊まるか。
「それにしてもヤクさん、二人もお持ち帰りなんてやりますね」
「えっ、わ、私お持ち帰りされてるんですか!? あわわ」
「されてないから落ち着け。刀重くないか? 待とうか?」
「あ、ありがとうございます。でも、これは私の魂なのです」
そう言って柳は大きな刀を撫でる。
「あ、とりあえずアジトに泊まること連絡しておきますね。朝ごはん買っておきます?」
「ああ、まぁそうするか」
俺は頷いてから、夕暮れの街を見る。
それなりに発展していた街は、けれども今はがらんどうだ。
三人の足音は車の音が掻き消すことはないし、車道と歩道を分けて考えるほどもないぐらいだ。
「柳はこれからの身の振り方考えてるのか? ニュース見てるけど、バッシングすごいだろ。治安悪化もあるし……異能対策機関はもう保たないと思うぞ」
「……師から、一刃の名前を預かっているので」
死んだんだろ。
というか、なんならこの状況の結構な割合がその師匠の責任だ。
などと言うには柳は真剣そうな表情をしていた。
「……あんまり、小さい子供が真剣な顔とか深刻な顔とかしてるの好きじゃないんだけどなぁ。まぁ、愛知なら言えば自警団に入れてくれるだろうし、辛くなったらきたらいい」
「……はい」
「別に戻りたくなったら戻ってもいいんだしな」
まぁ……柳が残りたがろうと、その残る場所がそもそもなくなるだろうけど。
「……これから荒れるだろうなぁ。こうしていられるのも長くはないかもな」
「シェルターでも作りますか?」
「いや……まぁシェルターとまではいかなくとも、ちょっと大きい陣地は持っておきたいな。……愛知の性格だと困った人をドンドン受け入れてしまうだろうし、支えてやらないとな」
とりあえず……金は有り余ってるし、地価は下がりまくってるから土地と建物を買い漁るか……? どうせ金もすぐに紙切れになるしな。
そのときは土地の権利がどうこうみたいな話でもなくなるだろうが、真中ミズキは真面目なので権利がないと嫌がるだろう。
「……めちゃくちゃになったら、結婚出来ちゃいますね」
「出来ちゃうなぁ」
「……学校、まだ通わないとダメです?」
「あー、ちょっとは勉強についていけるようになってるだろ? 友達もいるし」
「ヤクさんと一緒にいる時間を増やしたいです」
「……真中ミズキと話してみるかぁ。流石にもう学歴とか言ってる場合じゃないしな。勉強が必要なら俺が教えられるし」
クイナは意外そうな目で俺を見る。
「いいんですか?」
「さすがになぁ。国がめちゃくちゃ荒れるだろうし、子供もここからドンドン引っ越してるだろ。俺としてはもういいかなと思ってる」
「じゃ、じゃあ……一日中、ずっと……キスとかしちゃいます?」
「あ、あわわ……お、大人だ」
クイナの発言に柳が顔を赤く染める。
いや、大人は一日中キスなんてバカなことはしないと思う。
アジトに着くが他に人はいないようだ。
自分自身そんなに慣れていない間取りを柳に説明して、それから一度着替えを取りに自宅に帰る。
アスファルトは相変わらず荒れている。
電灯はまばらで、少しずつ毎日夜の闇は深くなっていく。
世界は悪い方に向かっている。
……星空の灯りが綺麗になるほど、今の世界は壊れてしまっている。きっとこれから、この街から覗く夜空は多くの星が輝くのだろう。
俺は、あるいはクイナは、その星を見て手を繋いで「綺麗だな」なんて言うのだろう。
世界が壊れれば壊れるほどに俺とクイナの呼吸は楽になる。
法律も何もなくなる世界になれば……クイナと結婚して、毎日楽しく過ごせるだろう。
反対に数年前までの安定した世界に戻れば、交際を隠さなければならないだろう。俺はいつもぼーっと過ごして、クイナは学校で周りに馴染めず勉強もついていけず、綺麗な白髪も黒く染めてしまうことになる。
……今日、俺が深見を仕留めなかったのは本当に街のためだったのだろうか。
本気を出せば何の抵抗もさせずに殺せたんじゃないか。
俺は……クイナと幸せに暮らしたいから、意図的に逃したのではないか?
……違う、はずだ。たぶん。
ハッキリと断言は出来ない。……そんなことを考えながらアジトに戻りリビングに入ると、学校の体操服を着たクイナが座っていた。
制服にシワがつかないように寝巻き代わりにしているのだろうが……こう、なんというか……いいな。
学校制服にはあまり反応しなかったが……いいな、体操服。
白いシャツから伸びる腕も、ハーフパンツから覗くふとももも、なんとなく特別感を覚える。
……俺、体操服がフェチだったんだな。
新たな自分の発見をして、いつも以上に可愛く見えるクイナから目を逸らす。
「? どうしたんですか?」
「ああ、いや、なんでもない。俺もシャワー浴びてくるか」
「あっ、今、キリちゃんが入ってますよ」
「あー、そうか」
……逃げ道を失った。
くっ……まさか自分がこんなにもクイナの体操服にやられるとは思っていなかった。なんでこんなにも心が惹かれるのか分からないけどグッとくる。
俺の様子がおかしいことに気がついたのか、クイナは不思議そうに俺を見て、それから「ははーん」と声を出す。
「もしや、体操服がお好きなんですか?」
「な、な、何を馬鹿なことを!? 体操服なんて全然好きじゃないが!?」
「未だかつてない慌てよう……。本当に好きなんですね」
「い、いや、違うんだ。……たぶん、異能力による攻撃を受けている」
「!? ……い、言い訳が酷い……!」
クイナはアピールするようにベッドの上で体を動かして首をこてりと傾げてみせる。白い髪がさらりと揺れる。
「……素直になったら、ふたりきりのときも着てあげますよ?」
「好きです。体操服……!」
俺の言葉にクイナは満足そうにクスクスと笑った。
色々道を歩きながら考えていたけど、もはやどうでもいい気がしてきたな……。
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