第25話:仲間的な人

 助手席に座るクイナは意外と静かなもので、何が面白いのかジッと俺の顔を見ていた。

 レンタカーを返して電車に乗って、それから歩きながら話し始める。


「……異能対策機関なんだけど、たぶん潰れるな」

「んー、そうですか。やっぱり裏切ってました?」

「ああ、白石ハガネの件もあるし、工作員が組織のトップの一角として堂々と動いていたことを考えると……まぁ保たないだろうな」

「……似てました? 私の元になった人」

「いやあんまり。遺伝子改造されてるから純粋なクローンってわけでもないしな、そもそも娘の真中ミズキが気が付かないぐらいだし。なんかちょっと似てるから親族かなってぐらいだ。それよりも機関がなぁどうしたものか」


 クイナは俺の手を触って慰めるようにきゅっと握る。


「まぁ、機関が潰れるのはしゃーないですよ。切り替えていきましょー」

「愛知の悪い影響を受けてる……!」

「いやー、でも、私達にはそんなに関係ないですし、ガバガバだった機関が悪いわけで」

「クソガキ……」

「20年ですよ? 20年一緒にいる人に、自分たちが嫌われてることにすら気が付かなかったんです。その程度ならもうどうしようもないでしょう。私なんてヤクさんが他の女の子を見たら1秒で気がつきますよ」


 まぁ……そうか?

 20年かぁ……クイナの今までの人生よりも長いと考えるとかなりの時間だ。

 それまで誰も真中イバラの叛意に気が付かなかった……と聞けば、確かに薄情に思える。


「……まぁ……そうだな。止めるタイミングはあったろうな」


 歩いてアジトに戻ると、玄関に愛知と真中の靴とあと二人の自警団のメンバーの靴が揃っていた。

 俺とクイナも入れると六人全員揃ったことになるか。


 あともうひとつ靴があるが……。ぽいぽいっと靴を脱いでいこうとするクイナに自分の靴を揃えさせたあとにリビングに入ると、愛知と真中と二人の男女……と、さっきのおじさんがいた。


 ツッコむべきか……? いやしかし、知り合いでもないおじさんに対して「なんでいるんだよ」とツッコミにくい。

 俺が真剣に考えていると愛知は俺たちが座れるように軽く移動しながら笑みを作る。


「お、これで全員揃ったな」


 ……余計なおじさんもいるけど、いいのか?


「……ああ」

「どうした? とりあえずこれからの方針を考えよう。……異能対策機関がなくなることを前提として。……あー、そうだな、機関自体は潰れるが、元異能対策機関の一部とも協力出来そうではある。今日も助けてくれた五天一刃のひとりがいたし」


 まだあまり親しくない自警団二人がおじさんを見て「あっそういうことね」という表情をする。

 どうやらこのおじさんを助けてくれた五大一刃のひとりと思っているようだ。


 実態は隣家のおじさんである。


「あ、そうだ。自己紹介しとかないとな。俺はまぁみんな知ってるだろうけど愛知リュウだ」

「えっと、真中ミズキです。一応、その、裏切った五大名家の娘でした……」


 愛知と真中に続いて、俺とはまだあまり親交のない二人も名乗る。


「拝島ツユだよー、よろよろー」

「平林ヨシト。どうも」


 クイナに肘で突かれて俺も名乗る。


「あー、厄神ヨウ」

「師走川クイナです」


 そして最後にタンクトップの中年のおじさんにみんなの目が向く。


「朱雀院グレンだ」

「朱雀院グレン!?」

「朱雀院グレン!?」

「朱雀院グレン!?」

「こらっ。……ヤクさんたち、失礼ですよ?」


 クイナに嗜められる。

 いや、まぁそうなのだけど、そうなのだけど。


「いや、でも、朱雀院グレンだぞ!? おじさんの名前!」

「いやまあ……確かにかなり派手ですけど、名字は仕方ないでしょう。朱雀院さん、すみません、うちのヤクさんが」

「お、俺が悪いのか……? いや、まあ……名前に驚くのはな、確かに失礼か……すみません」

「いや、いいんだ。慣れっこさ」


 そう言いながらもおじさんは少し拗ねた表情をする。


「ほら、朱雀院さん拗ねちゃったじゃないですか。そもそもヤクさんも厄神って名字なんで似たようなもんですよ」

「俺は……違うだろ!? 世界最強なんだからちょっと変わった名字でも許されるところあるだろ……!?」

「力があれば許されるという考え……やめましょうよ」

「正論やめろ……!」

「いいんだ嬢ちゃん。それより話を進めよう」


 朱雀院に場を仕切られてる……。

 拝島ツユと平林ヨシトも驚きながらも「まぁ五大名家の名字だもんな……」という表情で納得し始めているが、朱雀院グレンは五大名家ではなく隣の家の人である。


 五大名家の名字は真中とか山下とか川村とかで割と普通な感じである。


「えっと……裏切りがあったとのことだけど」


 平林ヨシトがおずおずとおじさんに尋ねる。


「ああ……お互いの仲間が拮抗しているときにな、こう……な?」


 おじさんは語り、平林は神妙に頷く。

 たぶんおじさんがしてるのはゲートボールの話である。


「あー、愛知から話してやってくれないか」

「ん? ああ、とりあえず仲間になれそうなのは五大一刃の一刃を継いだやつで、見た目は強そうに見えないが腕っぷしは確かだ」


 平林と拝島はおじさんのビール腹を見る。

 いや、朱雀院も見た目は強そうに見えないけど実際強くない方なんだよ。


「なんか結構アレだな。可愛い系」

「可愛い系!?」


 拝島がおじさんを見ながら勢いよく立ち上がったせいで机に膝をぶつけて、ミニスカートなのに地面に転がって痛みに悶える。


「なんか厄神とかが好みそうな感じだな」


 平林の目が俺を見る。

 そしてクイナとおじさんを交互に見て、慄くようにゆっくりと口を開く。


「これが……世界最強の男……っ!」

「不名誉な勘違いしてないか?」


「それで……だ。たぶん、急激に治安が悪化すると思う。というのも海外の強い公的な異能組織がないところは深見が暴れ出してからかなりギャングとかマフィアが強くなってな。で、自警団が組織されてるけど自警団は自警団で現代的にはあまりよろしくない存在だからなぁ。法律や警察ではなく自分達で解決しようというのは」

「お前がそれを言うのか……?」

「まぁうちの自警団のことは置いといて……。その海外の後追いになりそうなんだよな」

「解決策は?」

「ない。敢えて言うなら国が建て直しを図ろうとするのを深見が邪魔するだろうから、それを邪魔するのが基本的な方針になるだろうな」


 おじさんは頷く。


「どうやら俺の教えが役に立っているようだな」

「へへっ」


 愛知とおじさんのやり取りで拝島は若干尊敬の目をおじさんに向けるが、彼は終始ゲートボールの話をしているだけのおじさんである。


「まぁ、あっちはあっちで色々と立て直しの期間だし、何かあるまでは仲間同士で連携を深めたり特訓したりの期間って感じだな」

「……気は抜けるけど仕方ないか。リュウ、特訓手伝ってくれよな」

「ああ、もちろん」


 拝島と愛知が笑っているのを見ておじさんは満足そうに頷く。


「どうやら、もう大丈夫そうだな」

「おじさん、行くんですか?」

「ああ……若者しかいなくて気まずい。リュウくん、やっくん。元気にな。負けるなよ」


 そう言っておじさんは去っていく。


「いやネタバラシはしてから帰れよ」


 帰り際に俺と愛知の師匠キャラっぽい雰囲気出すな。


 俺はそのあと朱雀院グレンはただの隣のおじさんであることを皆に説明した。

 あと愛知はしばいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る