第24話:たっくん的なやつ

 クイナとミズキの待つアジトに帰る途中、疲れたせいもあってか愛知は隣で爆睡していた。


 そういやコイツっていくつなんだろうか。高校は出てるっぽいけどかなり若そうだから20歳前後……酒飲んでるところ見ないし18歳か19歳ぐらいか。


「はあー、今日ぐらいは酒に付き合ってくれる奴がいたらありがたいんだが」

「ん、あー、俺でいいなら飲もうか?」

「起きてたのか。20歳超えてるのか?」

「先週な」

「言えよ……。というか、ミズキ達にも祝われてないだろ」


 愛知はぼーっとしながら体を起こす。


「祝われるの苦手なんだよ。だから教えなかった」


 割といつも騒がしい印象なんだけど……まあ、意外でもないか。


 愛知リュウは普通の人ではない。

 異能力者であるという意味ではなく、普通の生活をしていたのに……普通の生活のままでいられるのに戦士になった。


 ぱっと見は普通の若者に見えるがその普通に見えることこそが異様で……。

 人格の裏側という表現が正しいかは分からないが、いつもの楽しそうにしていたり、慣れないまとめ役をやろうとしているところだけが彼の本質ではないのだろう。


 彼はすれ違う車を見て、ポツリと言う。


「……昔、犬を飼ってたんだ。すごく好きだったんだけど、苦手で」

「ああ」

「なんていうか、俺なんて大したやつじゃないのにすごい信頼してきてさ。可愛くて、申し訳なくて」


 不貞腐れたような、あるいは吹っ切れたような声だ。


「ミズキってなんか犬っぽいんだよな。生真面目な性格で」

「……惚気てんなぁ」

「惚気させろよ。時々はこっちも。まぁ付き合ってるわけじゃないけど」

「面倒くさいしさっさと付き合えよ……」

「そうだな。落ち着いたらそうするか」


 フラれる可能性はないと分かっているのか、のんびりとした様子で愛知は言う。

 景色が徐々に見知ったものになっていき、道が若干荒れ出してくる。


 傍目から見れば治安が悪くなっていそうな雰囲気だが、結構なんだかんだと気に入り出した街だ。


「じゃあ愛知、アジトの前で下ろすぞ。俺は車返してくるから」

「……いや、わざわざアジトに寄らなくていいよ。普通に歩いて帰る」

「疲れてるんだろ。気にするなよ」

「いやいや」

「いやいや」

「……」

「……」


 俺と愛知は車の中で黙りこくる。


「厄神さ、もしかして面倒くさい説明を俺に任せようとしてない?」

「……。アジトの前で降ろすな」

「してるよな? 親切なフリしてやってるよな?」


 アジトの前に車を停めて愛知を降ろそうとすると愛知が俺の肩を掴む。


「厄神も説明手伝えよ。疲れ切った俺にだけ押し付けるな。歳上だろ」

「いだだだ!? まだまだ元気だろ! お前! 握力めちゃくちゃ残ってるじゃねえか!」

「昔から握力強いんだよ。たぶん近所のおっさんとゲートボールやってたからだと思う」

「ゲートボールにそこまでの握力は必要ないだろ……!」

「仲間だろ。俺ひとりで説明するのはしんどいんだよ……! 母親は裏切っていて元いた組織なくなりそうでとかさあ! 仲間なんだから辛いことも楽しいこともゲートボールも分かち合おう……!」

「それならゲートボールのおっさん呼んで来いよ……!」


 と、俺たちがバタバタしていると隣の家から中年太りをした短パンとタンクトップのおじさんが出てくる。


「呼んだ?」


 呼んでない。


「おじさん!」

「よく分からないけど俺の力が必要ってことでいいか?」


 必要ではない。


「おじさんがいれば百人力だ!」


 百人力ではないだろ。


 短パンのおじさんと目が合う。

 そしてニコリと微笑まれた。


「……アジトの近所過ぎるだろ……! おじさんの家……!」

「そりゃ地域の自警団だし……」


 それは……そうなんだが……!


「えっと……あー、リュウくんの友達だよね、ちょっと待って、名前が出てこない……。あ、そうだ、たっくんだよね」

「俺はたっくんではない」

「あれ? セミ捕りが好きなたっくんでしょ? セミを投げて「変化球ー!」って遊んでたたっくん」

「そんなアホなことはしたことがない」

「いやいや、照れなくていいよ。うわー、おっきくなったなー」


 愛知は車を降りながらおじさんに言う。


「いや、コイツはたっくんとちょっと雰囲気が似てるだけでたっくんじゃないよ」

「俺、たっくんと雰囲気似てるんだ」

「いわゆるジェネリックたっくんではあるんだけど」

「俺の方がジェネリックなんだ」


 愛知はスマホを取り出して高校の卒業式の写真を俺に見せる。

 どうやら愛知の隣にいるのがたっくんらしい。


 ……ちょっと似てる。


「……それはともかく、じゃあレンタカー返してくるから」

「待ってくれやっくん!」

「俺をたっくんに寄せるな……!」

「落ち着けよ、やっくん」

「おじさん……! クソ、知らない人だからツッコミにくい……!」


 いや、説明がダルいのもそうなんだけど運転席に乗ってるのをクイナに見られたくない……。と思っていると、アジトの扉がガチャリと開く。


「もう、ヤクさん騒がしいですよ。って……」


 クイナが俺を二度見する。


「ヤクさん車に乗ってるじゃないですか! えっ、免許持ってないって言ってたのに!?」

「ああ、いや……その……」


 嘘がバレて余計面倒……と思っていると、クイナは「ははーん」とサンダルを履きながらやってくる。


「さては、私とのドライブデートがしたくて取りましたね、免許」

「……いや」

「照れなくていいですよ、ほら、なでなでしてあげます」


 クイナは嬉しそうに俺の頭を撫でる。


「……俺はレンタカー返してくるから、愛知はミズキに説明を」

「ええ……気が重いよ、やっくん」

「やっくんと呼ぶな」

「やっくん、おじさんはどうしたらいい?」

「おじさんは好きにしなよ」

「じゃあリュウくんといくかな」


 それはやめなよ。

 そう思ったが愛知は「心強いぜ!」みたいな表情をしていた。

 心強くはないだろ。


「私はヤクさんと一緒にいきますね」

「いや……レンタカー返しに行くだけだぞ。どこかに寄ったりはしないし」

「ヤクさんと一緒にいたいだけですよ」


 と言いながらシートベルトを締め始める。


「はあ……帰りは電車と徒歩だから、サンダルじゃなくてちゃんとした靴でな」

「歩きにくかったらヤクさんのを借りるので平気です」

「サイズ違いすぎて余計歩きにくいだろ……」


 俺が呆れながらそう言うと、クイナは嬉しそうに笑う。


「歩きやすかったら、貸してくれる想定なんですね」

「……ほら、待ってるから、履き替えてきな」


 パタパタと降りるクイナを見てゆっくりとため息を吐く。


「今日はなんか負けてばかりだな」



◇◇◇◇◇◇






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