第23話:大勝利的なアレ
近くに転がっていたチェーンを拾い上げて異能をかける。
この鎖は使用者の意思に従って無限に伸び縮みし、無限の硬度を持つ。そんな異能力をかけられた鎖を伸ばしながら全力で薙ぎ払う。
続いて、俺の血液により倒壊した倉庫のデカい瓦礫に鎖を巻きつけて、その巨大な瓦礫を振り回す。何度か地面に叩きつけると瓦礫は崩れさり、辺り一帯が破壊される。
「……は? へ?」
「な、何が……起きた?」
数人は気を失っていないのか、現実を疑うように周りを見回している。俺が彼らの元に歩くと彼らは目を見開く。
「厄神……! 厄神ヨウ!? な、何故こんな化け物が……対策機関に繋げたワームホールから出てくるんだよ!? 真中イバラが裏切ったのか!?」
「撤退! 撤退しろ!」
「無理だろ!? 厄神ヨウだぞ!?」
「シェルターに逃げ込めば……! 核でも防げるんだろ!?」
「無理だって言ってんだろ! 支部長を呼べば……!」
「それこそ無理だろッッ!? そこでノビてるよ!なんでコイツと敵対してるんだよ!!」
まだ倒れていない奴等が俺を前にして分かりやすく狼狽する。
それなりに大きな支部のようだが既にもう再建は不可能な程度には崩壊している。
「……なるほど、こんな感じか。存分に力を使うというのは」
倒壊した建物、混乱して逃げ回る敵達。
俺の周りには何も残っておらず……あー、とため息を吐く。
「あれだな。プチプチを丸めて絞ったときの気分だ。大人になってからするもんじゃないな」
それにしても帰り道はどうしたものか……派手に暴れ回りすぎて黒い渦のワームホールを出せる異能力者も気絶したっぽい。
適当に鎖を伸ばして逃げようとしているやつを雁字搦めにしたあと縮めて引き寄せる。
「ひ、ひぃっ!?」
「あー、帰りたいんだけど、あの黒い渦を出せるやつどこだ?」
「わ、分からない」
男はキョロキョロと周りを見回すが派手に暴れすぎたのか見つからない様子だ。仕方ないな。
逃げているやつを二、三人捕まえて、帰るから黒い渦の異能力者を探すように頼む。
早く帰りたいので俺も特徴だけ聞いて捜索していく。
……たぶん、近いうちに異能対策機関はぐずぐずになって壊れていくだろう。
正義のために命をかけられるものは多いが、世間から悪党の一味だと思われながら命をかけることは難しいだろう。
金回りが悪くなれば給料も不安定になるだろうし……何より仲間が離れていけば連鎖的にいなくなるのは想像に難くない。
他国も日本の先を行くような状況で、警察やら軍隊が対処しきれないせいで住民が自警団……とは言えば聞こえはいいがギャング紛いのものが乱立している。
「……お前らはさ、なんでその組織に入ったんだ?」
世界は明らかにロクでもない方向に行っている。
俺ぐらい強ければ別として、この程度の実力なら平和な世界の方が気楽だろう。
「……金持ちのガキが、金持ちになるだろ。封建社会と変わらないから、革命してやろうと」
「ああ、怒りか。……まぁそんなもんか」
「否定しないんだな」
「え、あー……いや、別に俺が強かったから勝っただけで、別に正しいから勝ったわけじゃないというか。……俺が戦った理由なんてしょうもないしなぁ」
好きな女の子……クイナといちゃつきたいからという我欲の塊である。
クイナとの関係がなんとなく許されてるのも社会がめちゃくちゃになっているからだし、クイナが普通に生活出来ているのも誰もが明らかに必死な混沌とした時代だからだ。
俺とクイナは平和になる方が困る。……そんな中で説教するつもりにはなれなかった。
よほど俺に早く帰ってほしかったのか、男の一人は必死に探し出してその異能力者に黒い渦をつくらせる。
念のため一度黒い渦の異能力にその渦を潜らせたが、変なところには通じていないようなので俺も入って移動する。
先程と同じところに出て辺りを見渡す。ちょうど決着がついたところだった。
ただの在野の異能力者である愛知リュウと、日本を代表する異能の名家の当主である真中イバラの戦いは……。
「……まさか、これほどとはな」
俺は思わず感嘆の声を上げる。
愛知が、真中イバラを下していた。
実戦で戦い続けていた者とそうでない者の差……で埋まるような違いじゃないだろう。
優秀な人間とは思っていた。天才だの英雄だのと。だが、五大名家の当主に在野の異能力者が勝つのは……雀が鷹を狩るようなものだ。
俺が戦慄していると、愛知がフラフラしながら手を挙げる。
「……あー、死にそうだ。真中イバラ、どうする?」
「どうも出来ないだろ。まさか始末するわけにもいかないしな。拘束しても……あの黒い渦の異能力を借りたら逃げられるだろうから意味ないし。真中……あ、ミズキの方とかクイナが封じるという手もあるし、俺も似たようなことは出来るが」
「……それは殺すってことにならないか? このまま捕まったら」
「まぁ敵には海外のやつもいるし、国家転覆を狙ってるってなると……外患誘致……になる……か? 判例ないから分からない。けど、まあ……死刑囚の娘にしたくないんだろ、真中ミズキを」
「……ああ」
愛知と意見が合った。
殺せないし捕まえられないとなると……まぁ仕方ない。
「じゃあ、放置って感じだな。まぁ……立場はなくなるんだ。ただの最強格の異能力者でしかないなら逃しても平気だろ。たぶん」
「平気じゃないとは思うが……。死刑になるだろうなんてミズキに言えないからなぁ」
骨折り損だ。と、愛知の言葉を聞きながら考える。
それにしても、本当に……。
「化け物だな」
俺が言おうとした言葉が愛知の口から出て目を開く。
「……俺が?」
「何びっくりしてるんだよ。そりゃそうだろ。敵の拠点に一人で乗り込んであっという間に潰して帰って来たんだろ? 普通に化け物だろ」
いや……お前の方がすごいだろ。
なんて言葉は飲み込む。
周りを見回すと、流石に多くの人が何事かと見にきたようだが、柳キリが「あわわ」と慌てながらやって来た人に説明していた。
「あわわ、だから……あの、大変なことになってるらしいので確認を……」
あー、と、思いながらフラフラしている愛知を見る。
「…………。もう一回捕まっとく? すぐにグダグダになって解放されるだろうけど」
「帰りたい。……あー、これからどうなるんだ」
「なるようにしかならないだろ。とにかく今日は──」
愛知に肩を貸して歩き、二人でため息を吐く。
愛知は五大名家の当主を落とし、俺は一つの支部を潰した。
その結果として……。
「完敗だな、愛知」
「あー、しゃーない。切り替えてこー」
「野球部の掛け声?」
などと話しながら、俺達はあの街に……あの子のいるところに帰った。
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