第20話:牢獄
「ひーっひっひー! その細い二本の腕でどこまで耐えられますかねえ!」
「なんでずっと言動が三下なんだよ」
液状化の異能力を使った愛知は腕を分割して四本の触手とし、先端に鞘に収まったままの短剣やナイフで柳に猛攻を浴びせるが、柳は武器ではなくそれを握る触手を切り落とす。
液体となった愛知の身体は切り離されると動かなくなるのでその対応は正解で細かく切り分けていけば勝ち……だが、愛知は背中から細い触手を伸ばして床に落ちて溜まった自分の身体を触って吸収して回復する。
斬られまくってはいるが、ダメージはお互いにない。
分かりやすく相性差が出ているな……。
「はっはっはー! どうした! 動きが鈍っているぞお!」
「くっ……」
剣術の腕は確かにとてつもないのだろうが、幼い女の子の体力と筋力は鍛えるにしても限界がある。
うにょうにょとした触手を使う愛知を憎々しげに睨む。
……愛知はなんで普段やらない戦い方をしてるんだろうか。腕とか増やしたことないだろ。
柳に勝ち目があるとしたら、一瞬で愛知バラバラにするか魔力切れまで粘るかと言ったところか。
基本的に防御面では普通の人と変わらない大抵の異能力者が相手なら、剣も銃も効果的だが……防御性能のある異能が相手なら難しいだろう。
柳キリは刀を鞘に納めて、身を屈める。
「勝負を諦めたかぁ! くらええ!」
「──愚剣流。マシラ斬り」
「ぐええええ!!」
瞬きの合間に放たれる一閃。
愛知の猛攻により離れていた距離は一瞬で縮まり、愛知の身体を十字に斬り裂く。
勢いのある突進から急停止した柳は斬った愛知を振り返り見て残心。
倒したとて安心せずに様子を確認する。──その武術家としての基本が仇となった。
柳キリの背後、斬られた愛知とは別の……もうひとりの愛知がニタリと笑みを浮かべていた。
「油断したなぁ! 小娘ぇ!」
「そのキャラを続ける感じなら俺は自警団を辞める」
愛知の長く伸びた手が柳を掴んで持ち上げる。
「くっ!」
「はっはーっ! これでもうどうしようもあるまい!」
ああ……見た目だけ取り繕った分身を戦わせて、本体は隠れて分身が倒されたところを襲う……か。
セコい……と思うが多分まぁ傷つけたくないから怪我をさせない方法としてとったのだろう。
柳キリは空中に持ち上げられてパタパタと脚を動かす。
「さてさて、どうしてやろうか……」
と、愛知が触手をうねうねとさせていたところで……道場の扉が開き、女性職員が入ってくる。
「……キリちゃん。と……愛知リュウ、厄神ヨウ」
俺はのんびりとしながら、わなわなと震えている女性を見て気がつく。
……幼い女の子。
幼い女の子に手を出した前科のある俺と、うねうねとした触手を出している愛知。
これは、まずいのでは?
たくさんの人が呼ばれた。俺達は捕まった。
俺は共に牢屋へと入れられた愛知を見て言う。
「……お前さあ」
「待て、待て厄神。確かに俺の【新たな力】は見た目がちょびっとR指定を食らうものかもしれない」
「【新たな力】とかちょっとかっこいい言い方するなよ。触手と言え、触手と」
「だが、問答無用で牢屋に突っ込まれたのは厄神のせいだろ……! 前科が……前科があるから……!」
「俺のせいではないだろ……!? というか俺とクイナの交際、そんなに広まってるのか!?」
「そりゃそうだろ……! 世界がどうなっても我関せずだった世界最強が唐突によく分からんサークル活動みたいな組織に入ったんだぞ! 理由ぐらい聞かれるだろ!」
そうかもしれないが……そりゃそうなんだけど……!
普通に恥ずかしいから広めるな……!
あと自分の立ち上げた組織をよく分からんサークル活動とか言うなよ……!
「そもそもなんだよ、あの触手……そんな戦い方してなかったろ」
「ああ……元々厄神に勝って力を示したら仲間になるって話だったろ? けど、師走川が恋愛的な意味で勝ったことでグダグダになったから。改めて力を見せようと思って鍛えたんだよ」
「恋愛的な意味で負けてないからな。クイナの方が俺のこと好きだから、普通に俺の勝ちだから」
「負け犬の言葉は置いといて、そうして俺の液状化の力が進化したんだ。お前のおかげだ」
「触手の責任を俺に押し付けるな」
俺はため息を吐いて牢屋を見る。
修行……ね。
まぁ俺とクイナを入れずにやっていたんだろうけど、それだと効率が悪いだろう。
「五大名家の知識と修行法を使ったんだろうが、俺とクイナ抜きでするべきではなかったな」
「いや、別に仲間外れにしてたわけではなくて……」
「そうじゃなく、非効率だ。様々な国から知識を吸い上げて異能を学ばされたクイナと、五大名家とやりあってきていた厄神の技術。取り入れた方が効率が良かったな」
俺はそう言いながら鉄格子を触る。
「これの液状化、出来るか?」
「通り抜けることは出来るけど。自分は出来ても他の物質とかは出来ないぞ?」
「そんなわけないだろ。服とか胃袋や腸の中の内容物は出来てるんだ。……普通、異能というのは自分自身に使うのよりも外に向ける方が楽なもんなんだよ。真中の異能も自分の異能を消したりはしてないだろ」
愛知は鉄格子に触れ、ゆっくりとそれを握る。
「異能力に目覚めたのは、戦いに巻き込まれたからだろ。本能的に身を守ろうとしたはずだ。だから、通常の使い方ではなく本来なら高難易度の特殊な技を身につけて、その技から派生するように技能を身につけていった。……今からするのは、簡単なことだ。普段の異能の使い方よりもよほど、単純に気張ったり妙な操作をせずに……ただ、使う」
ドロリと、愛知が掴んでいた鉄格子が溶けて地面に溜まっていく。
愛知は目を開いてその結果を見る。
「まったく、妙な指導しか出来ないのか。五大名家の令嬢さんは。修行するにしてもあんな応用の応用みたいなことの前にやることあるだろ」
「……すごいな、厄神」
「すごくはない。元々愛知はそれぐらい簡単に出来てたんだよ」
愛知はそれから人が通れる程度に鉄格子を溶かして、二人で抜け出す。
もう仕方ないから適当に人をしばいて真中イバラを探そうか……と考えていると、角を曲がったところで、俺たちが捕まった元凶である童女。
綺麗な黒い髪と和装、そして大太刀が特徴の柳キリが立っていた。
「お待たせしました。ご案内しますね」
ぺこり、と、少女は頭を下げる。
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