第19話:評判は変化しない
日本人形が刀を持っているような出立ちの少女は、表情を動かすことなく俺達の前を歩く。
「……あー、えっと、どこに連れていかれているんだ?」
「道場に。今は人がいないので、話をするのに丁度いいと思いまして」
「……こう言ったらアレだけど、俺たち相当怪しい動きをしてると思うけどいいのか? 案内して」
「構いません。……こちらにも下心はありますから」
「下心?」
愛知が尋ねると彼女は道場の扉を開けながら俺を見る。
表情の変わりは少なく、背筋も常に伸びていてカラクリ人形が動いているような印象が浮かぶ。
そんな彼女の表情が少しだけ変わる。
「厄神ヨウ様。私の師である白石ハガネと戦ったことがあると聞きました。お話を伺いたく」
「ああ……なるほど」
死んだ師匠の話を聞きたいから案内したと。
……かなり子供の頃に戦闘狂のおっさんに襲われた感じだから、なんかやばいやつがいたぐらいしか分からないんだよなぁ。
「会ったことあるのか? 激ヤバおっさんと」
「ああ……めっちゃ斬られた」
愛知は「ええ……俺たちは五人がかりでも近寄らなかったのに」と、ドン引きの様子を見せる。
「そりゃ強かったんじゃないか? めっちゃ斬られたし」
俺は刀を抱いている少女を見て息を吐く。
……何を考えているのだろうか。
白石ハガネは単騎で馬鹿みたいなことをやらかしている程度には強いのだから疑うようなものでもないだろう。
彼女の目は俺を捉えて、口を開く。
「貴方達は何をしにきたのですか」
「えっ、ああ……五大名家の一人に会いに適当に忍び込むつもりだったけど」
「厄神、それ言ったらダメじゃないか?」
「あ、ダメか。適当にやれば大概解決するから雑になってたかも」
「これだから最強は……」
俺と愛知が話していると、柳キリと名乗った少女は目を閉じて俺達を見る。
「世界最強。それと師匠と同じ外様の怪傑。……私と立ち会ってはいただけませんか。勝とうとも負けようとも、連れて行ってあげますよ」
少女の提案を聞いて愛知の方を見る。
「……どうする? 俺はあんまり女の子と戦いたくないけど」
「俺がやるのか? ……立ち振る舞い的に、実力者ではあるんだろうけど」
愛知も俺もあまりに幼い見た目の少女と模擬戦というのはあまり気が向かない。
実力はあるだろう、だが、あるからこそ手加減は難しいだろうという問題がある。
「あー、俺たちは普通に探そうかな。入れてくれてありがとうな」
愛知がそう言いながら立ち去ろうとしたところで、柳キリが俺達を引き止める。
「あ、いや、ちょっと待ってください」
「えっ、あー、いや、かなり気が向かないというか……。正直、模擬戦するのと自分達で探すのにそこまで差がないというか。普通に別の人に案内してもらってもいいし」
愛知が申し訳なさそうに断ると、柳は少し考えてから言う。
「……た、戦ってくれなかったら、悪戯? されたって嘘つきます」
「……」
「……」
言葉の意味は分かっていなさそう……ではあるが、それはそれとして……割と普通に効果のある脅しである。
「くっ……俺だけなら普通に信じてもらえるだろうが……厄神がいるせいで話に信憑性が生まれてしまう……!」
「ロリコンじゃないからな。俺は」
「俺だけならみんな信じてくれただろうが……厄神が好みそうな子だから……! 俺がしたと言っても信用されることはないだろうが、厄神がしたと言えば信用されてしまう……!」
「もしもの際に俺の方に被害が出るようにしてない?」
「厄神さんに悪戯されたと言います」
「ほら、俺の方に来た。やめろよ、マジでやめろよ。意味わかってなさそうだけど洒落にならないからな」
俺は一度黙ってから愛知の方を見る。
「愛知、相手してやれよ」
「えっ、俺の方が?」
「俺のスキルは規模が大きすぎて危ないだろ。自動反撃みたいなのあるし」
「ええ……まぁ、仕方ないか。厄神の名誉は」
「守れよ。仲間の名誉を」
「いや元々ないし……厄神の名誉なんて……。事実上ノーダメだろ」
なんてことを言うんだ。
そりゃ確かに俺は中学生のクイナと恋人になって立場を変えたやつではあるが……。
愛知は気が乗らない様子で柳の方を見て軽く構える。
「まぁ、やるか。女の子の頼みだ」
少女は深く頭を下げてから構える。
「──いざ」
その言葉と共に10歳いくかいかないかほどの少女は踏み込む。
……あー、そういや、先に伝えた方が良かったか。
「愛知、そいつ格上だから気をつけろよ?」
柳の放った突きが真っ直ぐに愛知の首に突き刺さる。
通常なら当然死んでいるような大怪我……愛知は刺された刀を触りながら俺に目を向ける。
「……そういうのは、先に言えよ」
勢いに押されてのけ反った体勢、愛知は刀が引き抜かれたあとに首を抑えて頭を掻く。
刺されていたはずの首に怪我なく、刀に血はない。
それから愛知は自分の胴体を貫くように手を突っ込んで、体の内部から短剣を取り出す。
「液状化の異能力。でしたね、貴方の力は」
「知られているのか。光栄だな」
身体を液体とする……それが愛知リュウの異能力だ。
特別強いものではないが、けれども防御性能を上げられる異能力は貴重だ。
愛知には基本的に斬撃も打撃も銃撃も効き目が薄い。
愛知は短剣を鞘から抜かないまま、腕を肉体と液体の性質を合わせたように、鞭を振るうように伸ばして短剣を振るう。
遠心力を得たことにより強化された一撃は柳には簡単に避けられるが、当たった地面が抉れ飛ぶ。
「動きがいいな。わかっていたけど」
そう言いながら愛知は柳からの反撃を短剣で受け止め、異能と体術を合わせた動きで戦闘を繰り広げる。
技量としては圧倒的に柳の方が上で、何度も斬り負けて愛知は斬られているがダメージにはなっていない。
「仕方ないな」
と、愛知は斬られながら液体化した体からものを取り出す。
取り出したものは、マキビシ。
乱雑にそれをばら撒いた愛知は笑う。
「はっはっは、これでちょこまかとは動けまい」
「……」
「愛知が小悪党みたいなことを……」
「どう料理してくれようか!」
「続けるんだ、その小物ムーブ」
愛知にマキビシは効かないが、非異能力者であり武術家ゆえに移動が多い柳には効果的……のはずだった。
反転したように愛知が鞭のようにしならせた腕で短剣を振るっていくが、柳キリはマキビシを気にした様子もなく動き回る。
マキビシを避けながら動いている……いや、違う。
「っ……マキビシの上に、立ってる、だと!?」
何故かまだ小物ムーブをしている愛知が驚く。
柳キリはまるで当然のように、鋭いトゲの上に爪先立ちをして刀を構えている。
……いや違う。トゲの上に立っているのではなく、凄まじい力で足の親指と人差し指で挟むことで刺さらずにいるんだ。
「……もはや異能力者よりも異能力じみてるだろ、それは」
マキビシの上に立つ少女を見て愛知はそう口にした。
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