第18話:キリハナセナイ
「愛知リュウ。ぼーっとしてるな」
「ん? あー、そうだな。どうするべきか考えていて。というか、厄神って免許持ってたんだな。レンタカーだけど」
「まぁ走った方が早いけど走るのは目立つしな。人を乗せることも出来るし、あと身分証にもなる」
「世捨て人みたいなノリをしといて免許証を便利な身分証として取得するの何なんだよこの最強……」
いや……むしろ、どこぞの山林に籠ろうが誰かしら所有者はいるわけで、居座ろうとすればそれはそれで国やら所有者やら警察やらと関わることになる。
自分で山を買ってももちろんそれはそれで関わる人や手続きは増えるだろう。
「今どき、山籠りとかするのはむしろそれなりに対人スキルがないとキツいんだよな。たぶん現代に仙人みたいな人がいたなら、実家暮らしか一人暮らしでずっと暇つぶしにネットしてるよ」
「そうか……?」
「ネットに社会的な向上心はそんなにないけど知識欲とか強いやつは多いだろ。アレは実質仙人」
「そうか……?」
「それより、運転出来ることはクイナに言わないでくれよ。絶対ドライブしようとか遠出しようってうるさくなるから。近場のデパートじゃ満足しなくなる」
「たまに連れていってやればいいのに……」
車で愛知と移動しながらそんな話をするが、愛知はどこか上の空だ。
ぼーっと外の景色を見る愛知に声をかける。
「何かあったか?」
「……んー、いや、あー、まぁお前になら話していいか」
少しだけ間を置いて雲を見る。
「ミズキが泣いてるときさ、内心喜んでいた自分がいたことに、夜寝てるときに気がついて」
「喜んでた?」
「そのときは真剣に励ましたり慰めたり支えようとしたりって考えてたつもりだったんだけどな」
「俺にもそう見えたけど」
愛知はシートベルトを窮屈そうにしながらこちらを見ずに続ける。
「……ミズキと付き合えるかも、と、思った」
「なんでだ? 普通に両想いだろ」
「五大名家のお嬢様だ。俺みたいな野良の雑種の血を入れたがりはしないだろ。……真中家がぐちゃぐちゃになれば、と、思っていた気がする」
「気がするって……」
そのときにそう考えていたと自分で確信しているわけでもなく、心の片隅で考えていたかもって……なぁ。
少し呆れてしまうほど潔癖だ。
「俺はやっぱり世界がどうとかよりも自分のことでいっぱいいっぱいだよ」
「……」
「なんだよ」
愛知は俺が黙ったのを見て不満そうな表情をする。
「いや、まぁ愛知もそういうことで悩むんだな、と。もっと超然とした人間かと思ってた」
「なんでだよ……。はあ」
俺は車を動かしながら口を開いた。
「……クイナだったら俺が同じことを言えば「自分を欲しがってくれた」って喜ぶだろうな。真中ミズキがどう感じるかは知らないけど。クイナは自己肯定感が低くて依存的なところがあるから」
「そんなもんかぁ。というか師走川ってそんな感じなのか」
「愛知の方が付き合い長いだろ……」
「いや、結局ミズキ任せだったし。……無責任だよ、俺は」
俺はハンドルを動かしながら考える。
自警団は深見クノウの意思のない尖兵として襲ってきたクイナを哀れに思って、助けて仲間にした。
詳しい事情は知らないが、まぁ愛知がそれを主導した……というか、それなりに積極的に助けようとしたのだろう。
「……いや、別に真中も聖人ってわけでもないぞ? アイツ、普通に五大名家のお嬢様だから学校とか通ってなくて、普通の生活とか分かってないのにクイナに「普通はこうする」って言って学校に通わせてるだろ」
「まぁそうだけど」
「クイナは学校の集団生活には馴染めてないし、勉強もついていけてない。そんなの考えれば当然だけど真中は通ったことがないから分かってないわけで……」
「……それは」
愛知は真中が悪く言われていると思ったのか反論しようとするが、けれども不満そうにしながらも俺の言葉を最後まで聞く。
「結局、真中はクイナを学校に通わせることで、自分が出来なかった普通の生活を代理でやらせようとしてるわけだ。教育ママが過剰な教育するのとか、スポーツ好きの父親が自分の代わりにオリンピック選手にしようとしてるのとかと同じで。普通に憧れてるから代わりに普通をやらせてる」
「……悪いことでは、ないだろ。自分が欲しかったものを与えたいってのは」
「愛情と言えば愛情だろうけど。本人が望んでることではない。クイナ、学校帰りは毎日かなりストレス溜まってるしな」
「……俺から止めようか?」
「いや、世界を広くするために学校を通わせるのはいいと思うけど。自警団とその身内しか知り合いがいないのは不健全だし」
「なんだよ……」
「けど、無理に通わせるなら通う前に、せめて勉強は追いつかせておくべきだったろうな。授業中も勉強分からなくて辛くて、休憩時間も同年代との会話方法が分からなくて辛くて、なんてキツいだろ。……と、まあ……真中ミズキは優しくて面倒見はいいんだろうけど、別に聖人ってわけでもない。似たようなものだろ、愛知の下心と」
愛知は「似たもの同士か」と口にして俺は首を横に振る。
「みんなそうだって話だ。クイナも被害者みたいな言い方したけど、クイナはクイナでわざと俺の前でしんどいと言って、真中や愛知の前では特に弱音を吐いてないのは、俺を心配させて構ってもらうための行動だし……」
「……そんなメンヘラみたいなことしてるんだ。師走川、めっちゃ騒がしい奴なのに」
「俺も分かりつつも乗っかって甘やかしているところはあるし。けど、別に辛いのは嘘じゃないだろうし、俺が心配してるのも嘘じゃない。いいところも悪いところもあるじゃなくて、いいところと悪いところは表裏一体で切り離せるものじゃないってことだ」
俺はそう言いつつハンドルを切って駐車場に入る。
「よし、じゃあ機関に着いたし行くか」
「……今更だけど、入れるのか? 今、相当混乱してるし、状況が状況だけにミズキのコネも使えないんじや」
「まぁどうにかなるだろ」
俺は楽観的に機関の中に入り……。
「すみません。今は忙しく、機密も多い状況ですので後日また来ていただければ……」
「……」
俺は黙って愛知の方を見る。
「ダメじゃねえか」
「……まぁ、落ち着け愛知。ほら、あるだろ。……なんか作戦とか」
「お前は作戦ないのかよ」
愛知はぼりぼりと頭を掻いて、どうしたものかと首を傾げ……そうしている間に、俺たちの前に小さな人影が現れる。
小さな背丈と黒いサラサラとした髪。
日本とは言えど現代では珍しい和服と、カラコロと音が鳴る底の厚いゲタ。身の丈ほどの大太刀を抱えていることも気になるが……。
異能力だらけのこの組織の中で、魔力を感じられない……非異能力者だ。
「……自警団の愛知リュウ様と厄神ヨウ様ですね。私で良ければ案内しますが」
幼い少女。
クイナよりも年少だろう彼女の言葉に、受付をしていた女性や周りの大人は否定したり止めに入ったりしない。
ただものではなさそうだが……俺の目にはただの非異能力の子供にしか見えない
「君は一体?」
愛知が尋ねると彼女は非礼を詫びるように頭を下げる。
「五天一刃。その一刃を預かっております。柳キリ。以後お見知りおきください」
……すごい大物が出てきたな。
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