第16話:母的な人
改めてアジトのソファに座って向き合い、俺は軽く真中ミズキから目を逸らしながら話す。
「スパイの可能性が高いのは真中家の人間の可能性が高いという予想をしているが、愛知からは聞いているか?」
「ええ、聞いてます。まぁ……そうですね、可能性は高いと思います」
ミズキはチラリとクイナの方を見る。
「遺伝子の検査をしたら確実ですけど……」
クイナは真剣な表情でミズキを見る。
「それは……やめませんか?」
「何でですか? 気になることとかあります?」
「いえ……その、遺伝子弄られてるじゃないですか。私」
やはりそういうところを気にするのだろうか。
「あー、まぁ気にしなくていいと思うぞ。真中家も血統を保持してるし、俺も品種改良の結果みたいなもんだし、遺伝子改造も……似たようなもんだろ」
「品種改良と遺伝子組み換えじゃ全然違いますよ。ポテチの裏を見てくださいよ『馬鈴薯(遺伝子組み換えではない)』って……」
クイナは俺にポテチの袋の裏面を見せながら言う。
「差別……! 差別ですよ、これは! 遺伝子組み換え生物に対する悪辣な差別です……!」
「じゃがいもに感情移入してるやつ初めて見た」
いや……本当に気にするほどのことではないんじゃないか。
と、思いながらクイナを見ると、彼女は続ける。
「……それに、その、どれぐらい人間ではないのか分からないじゃないですか。バナナの遺伝子とか入ってたら泣きますよ、私」
「普通に、元のDNAからちょっと異能関係のところを弄ってるだけだろ。メインは遺伝子改造よりも薬物投与による覚醒の方だろうし……」
「……私が半分バナナでも愛してくれますか?」
「いやまあそりゃ好きなままだろうけど……バナナかぁ」
「脱がせやすいのはバナナだからか、ぐへへへ。 とか思ってます?」
「思ってない。やめろ、真中ミズキが睨んできてるからやめろ」
というか、そういうのに積極的なのは俺よりもクイナだろ……!
「ともかく……話を戻そう」
「あ、ピザ届いたみたいだから俺ちょっといってくるな」
「アジトにピザ頼むなよ……!」
リビングから愛知が去っていく。
「それで……話を戻すぞ」
「ヤクさんが私で童貞を捨てた話ですか?」
「違う……! しつこ……っ! 無限に擦り続けてくる……!」
くそ……何で俺はクイナでしてしまったんだ……!
周りに言いふらすな……!
というか俺はクイナとの交際自体隠しておきたかったのに……!
「…………それで、遺伝子検査の話ですね」
「ああ、真中と比べてみて、どれぐらい近いかで本当に真中家から造反者が出たか判断出来るだろ」
「真中家よりもバナナの方が近いと言われたらどうします?」
「どうも出来ないだろ。慰めるよ、そのときは流石に」
「もし私がバナナなら、ヤクさんはまだ童貞ということになるのでは……?」
「いいから検査するぞ。……はぁ、結果はいつぐらいになる? 数週間かかると聞くが」
「こちらのツテでするのですぐですよ。とりあえず、明日行きましょう。それと同時に……機関の方に、厄神さんのことを紹介しようと思います」
ああ、と俺が頷こうとするとクイナが表情を歪める。
「えー、学校で疲れたので明日は一日ヤクさんと部屋にいたいです」
「……まぁ、平日は彼とは会えないでしょうからそう思うのも分かりますが」
クイナが軽く舐めたことを言っているので怒られるかと思ったが、ミズキは少し考えた様子を見せる。
いや……毎日結構な時間一緒にいますとは言いにくく……。
俺は目を逸らしながら話を変える。
「まぁクイナは連れていくとして。……もしもクイナが真中家に近しい遺伝子を持っていた場合、どうなるんだ」
「……基本的には傍系や分家の中で異能の血が濃い子と同じ扱い……になると思います。ある程度の監視があるのと本家の者とのお見合いを勧められたり。が、問題として、敵対している深見クノウの元で生まれたこと、自警団という機関として異例の個人レベルの協力組織に所属していること、そして何よりもあの『厄神』の完成体と恋人であること……。間違いなく意見が割れます」
クイナはジッと俺の方を見る。
「世界最強なのは知っていますけど、家もすごいんですか?」
「機関に所属せずに……国の保護に関係なく存続していた異能の家系ですからね。異能力者の質は五代名家に勝るとも劣らないと」
「いや、普通にウチの方が異能力者としては格上だけどな。そのせいで身体が弱すぎて滅んだけど」
異能の強さの指標になり得るのは『異能の能力』と『魔力量』と『熟練度』の三つだ。
熟練度……つまりどの程度異能を使いこなしているかは遺伝は関係ない。
「五代名家は異能の能力を重視しているのに大して、厄神は魔力量を重視していた。異能の質が五代名家が10としたら厄神は1〜8の間ぐらいになる」
「めちゃくちゃ幅ありませんか?」
「本当に魔力量ばかり気にしていたからな。異能の種類自体は野良と変わらない。……五代名家の魔力量を10とすると、まぁ500ぐらいが平均値か」
「……ええー」
「出力さえ高ければわりとどうにでもなるんだ。例えば手から綿菓子を出す能力だとしても、出力さえ馬鹿みたいに高ければ簡単に人を倒せる。それはともかく……意見が割れるというのは……」
ピザを持って戻ってきた愛知は不思議そうに俺達を見る。
「何の話をしてるんだ?」
「ミズキさんの家からして私はどういう感じなのかって話です」
「ああ、なるほど?」
「……おそらく、悪いようにはされないはずです。可能であれば厄神さんごと取り込みたいでしょうし」
なら……まぁ、いいか。
クイナがいじめられたりするようなところではないなら問題ないだろう。
◇◆◇◆◇◆◇
遺伝子検査の結果として、クイナは想定通り……。
真中家の遺伝子を元に造られていた。
クイナもそうであろうと思っていたのか驚く様子もなく、ミズキや愛知も「だろうな」とばかりの表情だ。
異能も似ていれば顔立ちも近い美少女だ。
薄々どころではなく気がついていた。
だが次の研究者の言葉に全員が……特に真中ミズキが目を見開くことになる。
「お二人は母子の、関係になります。遺伝子上、師走川クイナさんは真中ミズキさんの母……に近い、という結果が出ています」
「……へ?」
真中ミズキはクイナの顔を見て、それから瞬きを繰り返す。
理解出来ない言葉を咀嚼するように考え込んで……けれども言葉が頭に入らないのか混乱を示していた。
クイナも不思議そうな表情をしていて……部外者に近い俺と愛知だけが状況を理解していた。
単純に、クイナの改造前の遺伝子の元になっているのが真中の母というだけのことだ。
「……えっ、えっ?」
クイナは混乱した様子で真中ミズキを見て首を横に振る。
「う、産んでないですよ?」
「知ってるよ……。真中ミズキの方が歳上だろ。……ただ、クイナの改造元の遺伝子が真中の母ということだ」
俺は呆れつつも、けれども内心で頭を抱える。
元々このDNA検査で裏切り者を見つけられるとは思っていなかった。
真中家は多いし分家や傍系もいて、改造された遺伝子では親戚なのは分かっても続柄までは特定不可能だろうと考えていた。
まるでホールインワンのような状況……。潜入とか探るとか、そういう話ではなく……。
つまり……真中ミズキの実の母。
現真中家当主であり、機関のトップ『五天一刃』の一角。
真中イバラ……。機関の頭のひとつが、深見クノウに協力している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます