第13話:言い訳する世界最強の男

 今頃はクイナも授業を受けているだろうか。

 授業にはついていけてないだろうし、それなりにストレスもあるだろうから今日は甘やかしてやらないとな。


 ゴミ袋とトングを持って家の近所から中心にゴミを拾っていく。


 カチカチとトング鳴らしながら色々なものを雑に詰めていく。

 掃除する人もいないが、捨てる人も少ないからか思っていたよりかはゴミもない。


 半日歩き回ってゴミ袋ふたつ、あまり良くはないが外の邪魔にならなさそうなところに置いて後日ゴミに出そうと思う。


 軽くシャワーを浴びて汗を流してから新しい服に着替えて、スマホをポケットに入れてクイナの通う中学校に向かう。

 少ししてからクイナから電話がかかってきたのでスマホを耳に当てると、疲れた様子のクイナが「迎えに来てくださいー」とねだるので「窓の外」と言い返す。


 ひょこっとスマホを持ちながら窓から顔を出したクイナに手を挙げると、彼女は窓の奥で控えめに手を振ってから電話口でぶーたれる。


『歳上なんですから、車で迎えに来てくださいよ。クラスの女子にマウント取るので』

「マウントを取るな。というか世界最強じゃマウントにならないのか……?」

『なりませんね。……女子中学生からしたら、世界最強のブランドなんて靴が俊足ぐらいの価値しかありませんよ』

「逆に靴が俊足だとモテるのか? 女子に」

『高橋くんは靴が俊足ですけどモテてますよ。みんな「靴が俊足でさえなければ……」って言ってます』

「じゃあデバフじゃねえか」


 というか……クイナって普通に中学校の友達と話とかするんだな。

 ……恋バナとかもしているみたいだけど……仲のいい同級生の男子とかいないよな。


 俺から聞くと「へー、中学生の男の子に取られるかもって不安になって嫉妬ですかー? ふふ、かわいい人ですね」などと弄ってこられるだろう。


 そもそも聞かずとも、クイナからの好意に間違いはないが……。けれども、女々しい話ではあるが本人の口から聞いて安心したい。


 少しすると、クイナがやってきて、友達らしい女子ふたりに俺を見せる。


「これが話してた、私にベタ惚れしている厄神さんですよー」

「虚言癖か?」


 クイナの言葉に友達ふたりは「おお、これが……」と俺をまじまじと見る。


「あれ、今日は徒歩なんですか? いつも乗ってるっていう高級外車は……?」

「……クイナ?」

「そ、それは、アレです。シャコタンの限界を極めようとしたらタイヤが接地しなくなったんですよ! ね!」

「クイナ……嫌だろ、車持ってないのよりむしろそっちのイカれたシャコタン野郎の方が嫌だろ。あー、クイナの言っている俺の情報に関しては何一つとして信じなくていいぞ」

「ええっ! 厄神さんの猛アタックで交際を始めたんですよね……?」

「違う」

「そこは違わないでしょう!? めちゃくちゃ好き好きオーラ出してグイグイきてたじゃないですか!」


 そんなもん出したことねえよ……。


「普通に……クイナがかなり強引にきたというか」

「そんなことはないですよ」

「いや……あるだろ。毎日会いに来たりメッセージ送ってきたり……」


 クイナは俺の言葉に首を傾げる。


「友達なら普通にしませんか? ……あっ、それで私がアプローチしてると勘違いして好きになっちゃったんですか? まぁ仕方ないですね、なんたってヤクさんは……おほん、なので」

「こ、このガキ……。どう考えてもそっちがグイグイ来てただろ……。あー、もう、帰るぞ。というか俺のことをあんまり話すなよ」


 クイナは友達に手を振ってから見せつけるように俺の腕にくっついてご機嫌そうに歩く。


「えへへ、今日は疲れましたよ」

「はいはい。……クイナ、誰にでもあんな感じなのか?」

「あんな感じって?」

「メッセージにハートマークつけたり……街で会ったときに抱きついてきたりさ」


 クイナの目がキョトンと俺を捉えて「にひにひ」とイタズラな笑みを俺に向ける。


「どうだと思います?」

「別にどうも」

「ヤキモチ妬いちゃって可愛い人ですね。……んふふ、秘密です」

「……労ってやる気も失せた」

「ええー、頑張って勉強したのに。って、なんだかいい匂いしますね。もしかして会う前にわざわざシャワー浴びてきました?」

「浴びてない」

「ヤクさんの匂い好きだから気にしなくてもいいのに。あっ、そうだ、今日ご飯作ってあげましょうか? どうせロクなもの食べてないでしょう?」

「疲れてるだろ」

「授業中寝てたので元気です」

「カスだな……」


 まぁ、寝てたというのは適当な嘘だろうな。

 勉強を見てるときにノートを見たが結構真面目に取っていた。


 真面目にやっているのに結果は散々だから嫌になっているのだろう。


 帰り道にスーパーに立ち寄り、クイナはご機嫌そうに食材を見繕う。


「ヤクさんのお家は製菓材料以外は何もないから色々と買わないとダメですね。あ、材料費はヤクさん持ちですからね」

「はいはい」


 生鮮食品の少なさが気になるが、クイナは「普通のときのスーパー」を知らないからか、気にした様子もなく楽しそうに買い物を続ける。


 ……本当に、普通でいられた期間が少ないのだろう。

 ふたりで買い物をしてから帰宅して、クイナが制服の上にエプロンを着て料理を始めたのを横目に見ながら、クイナのノートを見る。


 性格の割に真面目にノートを取っているが、やっぱり内容は理解出来てないだろうなと思う。


 小学生の勉強からやり直させる……いや、やり直すのとは違うか、元々やっていなかったわけだし。小学生の勉強から順にやっていくのが確実だろうけど、それはそれで追いつくのに時間がかかって苦痛だろう。


 板書しているところの文字は普通だが、自分で考えるところの文字は崩れていて筆圧が強かったり弱かったり、明らかに強いストレスを感じている。


 ……逆だな。

 授業の予習をさせて、授業中に分からないところが減るようにした方がいいだろう。

 当然順にやるのよりも効率は悪いだろうけど、学校嫌いや勉強嫌いをマシにするのが一番いいだろう。


「クイナ、教科書とかも見せてもらっていいか?」

「んー、いいですけど……。……あっ、ちょっと待ってください」


 クイナが止めるよりも前に鞄を開けて見てしまうと、鞄の中にクイナが着ていたであろう体操着とジャージが入っていて、クイナは慌ててそれを隠す。


「……いや、別に変なことしないよ」

「……汗かいたので」


 なんでそこは恥ずかしがるんだよ。

 教科書をパラパラとめくって内容を確かめてから、今日軽くだけ予習をさせようと考え、それからキッチンの方に行って料理を手伝う。


「もー、全く、ヤクさんは甘えん坊ですね。それとも私のエプロン姿をもっと見たくなっちゃいました?」

「いや……流石にドラゴンのエプロンはないだろって思うけど」

「えっ、なんでです? かっこいいじゃないですか、ドラゴン」


 心底不思議そうにクイナが首を傾げる。……そうか、彼女は普通の期間が短いものな……。いや、だとしてもその歳でドラゴンのエプロンを選択するか……?


「……まぁ、クイナがいいと思うならいいか」

「なんですか。含みがありますね」

「いや……ん?」


 ふと視線を落とすと、クイナの眩しいばかりの太ももが制服のスカートの後ろから見える。健康な柔らかそうな白いふとももに目を奪われながら、さっきまでと違うことに気がつく。


 学校に迎えにいったときは普通に膝丈だったのに、今はどう見てもミニスカートである。


 俺の視線に気がついたのか、クイナはイタズラな笑みを俺に向けてクスリと笑う。


「そんなに脚を見ながら料理すると怪我しちゃいますよ?」

「いや……さっきはもっと長かったよな。履き替えたのか?」

「スカートのここを折ってるんですよー」


 クイナはそう言いながら制服のスカートのウエストのところを見せる。


「あんまりジロジロ見ないでください。えっち」

「クイナが見せたんだろ」

「そんなエッチな目で見てくると思ってなかったのです」

「わざわざ俺の前でスカートを短くしといて……」


 そんな細っこい腰回りを見せられたり、ふとももを見せられたりしたら、正常な男性の俺もくるものがあるのは仕方ないだろう。

 俺が反論すると、クイナは「ん」と俺から目を背けて、耳を赤くする。


「……そういうのは、ご飯食べたあとです」


 ……予習、簡単に済ませるか。

 いや、まぁ……クイナがしんどくならない程度に……いや、ちょっとこう……。


 クイナの、そう、クイナのストレス発散に付き合うことも……大切だよな。うん、クイナのためにな、ストレスとかフラストレーションの発散もな。


 などと自分に言い訳しまくりながら、ふたりで料理を作った。



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