第11話:挑発的な電話

 真中ミズキの作るカレーは美味かった。

 美味かったけど……本格的すぎてこう、黒髪ロングの女の子が作る料理なのか? これが、となる感じだった。


 いや偏見なのは分かっているけど和食を作りそうな感じなのに……なんでここまでインドに被れたのだろうか。


「ご馳走様でした。あっ、洗い物は私がしておくのでミズキさんはそろそろ帰った方がいいんじゃないですか?」

「……そうですね。……厄神さんも帰りますよね」


 ジトリと、真中ミズキの視線が俺に刺さる。

 ここで泊まると言えばもちろん怒られるだろうし、けれども嘘を吐いてもこれからの信用問題になりかねない。


 というか、愛知の仲良し作戦にも問題が出かねないし……。

 と、少し考えていると、真中はスッと表情を固くして俺を見る。


「帰りますよね?」

「……あー、いや……愛知にも確かめてもらってもいいんだけど、最近連続して敵に襲われてるから泊まっていこうかと」

「……なら私も泊まります」

「いや、それは……」

「なんですか」

「愛知の方が嫌じゃないか……?」

「……なんでリュウの名前が出るんです」


 いや何でも何も……。

 明らかに両想いだし、こういう状況とは言っても他の男と一緒に夜を過ごすのはあまり気分がいいものではないだろう。


 俺なら何事もないと分かっていても嫉妬するだろう。


「あのですね。私も意地悪を言っているわけではないのです。クイナは子供です。実年齢以上に」

「ヤクさんも精神的には子供みたいなものなのでセーフですよ!」

「それは何もセーフではないです」


 まぁ……今夜はクイナと過ごすのは無理そうか……。

 少しため息を吐いて、目線でクイナに謝罪してから立ち上がる。


「真中が遅くなっても悪いから、俺はもう帰るよ」


 真中は意外そうな表情で俺を見る。


「なんだよ。そっちが帰れって言ったんだろ」

「いえ、そうですけど……。じゃあ私も帰ります」


 真中ミズキは上着を羽織って俺の前を歩く。

 俺もそれに続くとクイナは不満そうに俺の後ろをついてくる。


「……明日はヤクさんのお部屋にしましょうか。ミズキさんにバレてないから邪魔されませんし」

「聞こえてますよ」

「ふん、です」


 おいおい喧嘩するなよ……と思いながら玄関で靴を履くと、クイナは靴を履くために屈んだところで俺の首に手を回して、抱きつくみたいにして頬に口付ける。


 柔らかい唇の感触と、自分からしておいて顔を赤くしているクイナに意識を持っていかれていると、真中ミズキはぐいっと俺の服を引っ張って外に出させる。


 クイナとの余韻ぐらい……と思って振り返ると、クイナは恥ずかしそうに手を振っていて、俺は軽く振り返してから扉を閉じた。


 カチャリと鍵が掛けられる音を確かめてから、俺はそこから離れる。


「まったく、油断してたら……あなたもだらしない顔をしない」

「……してないだろ。たぶん」


 夜遅くはないが、いくつかの街灯が付いていないため、普通の街よりも薄暗い。

 真中ミズキの足元を気にしながら歩いていると、そんな俺の目を気にしたように彼女は俺を見ていた。


「……思ったより、普通の人ですよね。厄神ヨウさん」

「そりゃまぁ……別に仙人ってわけでもないし、たまたま強く産まれただけだしな」

「仲間になったら協力的ですし。まぁ、あの子にメロメロだからでしょうけど」


 メロメロじゃない……と否定したら「あの子を弄んでるのか」と言われそうなのでクソガキに惚れているという不名誉を甘んじて受け入れる。


「……普通の人だから思うんですよ。なんであの子は貴方を好きになったのかと。他にいません?」

「本人を目の前に失礼な……。……まぁどう見ても、愛知とかとは相性悪いだろ」

「そうですか?」

「……愛知にせよ、他の誰にせよ、自警団のやつはみんな羅針盤を持ってるだろ。持ってないのは俺とクイナぐらいだ」


 ミズキは俺の話に興味を持ったのか、せかせかと歩いていた脚を少し遅くする。


「羅針盤?」

「正しさの方向性というか。……俺もクイナも理想なんてないし、使命なんてものもない。だからじゃないか」


 俺の言葉を聞いたミズキはため息を吐く。


「なんだよ」

「あなたもあの子も、深見クノウの目指している世界の方が都合がいいでしょうに。なのにこっちにいるってことは……ちゃんとありますよ。そういうの」


 ……いや、単にクイナはこっちにいる人の方が好きなだけだし、俺はクイナに弱みを握られているだけだぞ。


 街灯が連続して点いていない暗い道を歩く。


「……私はこっちなので。もういいですよ、帰り道、違うんでしょう?」

「いや、夜道は危ないだろ」

「そこですから。それに、私は自警団のなかでも強いですよ」


 それは知ってるけど……と、思うが真中ミズキとしても信用してない男に家まで送られるのは不安か。

 仕方なくその場で立ち止まって、電灯の多い方に向かう彼女を見送って、それから暗い道に向かって歩く。


 少しして、自警団と協力するために借りた家に入って電灯をつける。

 自室の中、俺はベッドに転がって思う。


 …………。

 午前中から、クイナに散々誘惑されたのに何も出来なかった……!

 もう完全にクイナとそういうことをする気分になっていたのに、ことごとく邪魔されて……。


 俺は深く息を吐いて、気分を落ち着かせていると、クイナからビデオ電話がかかってくる。


 特に考えもせずにそれに出ると、画面に表示されたのはお風呂場と湯船から華奢な肩を出したクイナの姿だった。


『あ、こんばんはー、なんて』

「……クイナ。良くないぞ。こういうのは」

『えー、本当は嬉しいくせにー。それに肩しか見えてないでしょう?』

「いや、それはそうなんだけど……」


 その見えてないところは裸なのだと思うと、一日中お預けを食らって燻っていた欲望がゆらゆらと煽られてしまう。

 大丈夫だと言っている本人も恥ずかしいのか、落ち着かない様子で動いて水面には小さな波が忙しなく揺れていた。


『あれー、こんなので照れちゃうなんて、ヤクさんは本当に初心ですね。うぷぷ』

「こ、このガキ……」

『まぁ童貞さんですもんねー』

「お前は違うことは知ってるだろ……!」

『あ、そうでしたね。私で卒業しましたもんねー? で、私で童貞を卒業したくせにミズキさんの意見に従って、ミズキさんを送っていってあげたんですよね。へー?』

「い、いや、それは仕方ないだろ、あの状況は」


 湯船の縁を手で持って、クイナはじとーっとこちらを見る。


『へー、どうだかー? ミズキさん綺麗だからほいほい釣られたんじゃないですか?』

「そうじゃないって……」


 クイナも本気でそう言っているわけではないのだろう。

 俺がクイナの白い肩や鎖骨をチラチラ見ながら困っているのを見て反応を面白がっているだけだ。


『まぁそうですよね。ヤクさん、私に夢中ですもんねー、くすくす』

「こいつ……寂しくなって自分から電話してきといて……」

『寂しくなってじゃないですよー。明日はたぶんちゃんと授業があるから放課後まで構ってあげられないから、夕方そっちに行きますねって連絡です。それと……』


 毎日会いたがるぐらい惚れてるのはクイナの方だろうと思いながらも黙って話を聞く。


『……明日、たくさんぎゅってしたいですから。今日は我慢してくださいね?』

「……あ、ああ」

『えー? 本当に我慢出来ますかぁ?』


 とクイナは言いながら、胸を手で隠しながら、湯船から少しだけ体をあげる。

 クイナの細い身体、薄いけれども確かにある胸が手で隠されているが、その下の少しだけ浮いたあばらや形の良いへそなどが見えてしまっていた。


 見えている範囲こそビキニの水着と変わらないはずだが……惚れている女の子の肌だからか、異常に反応してしまう。


 注意しなければと分かっているのに思わずじっと食い入るように見てしまうと、クイナは俺の興奮に気がついたのか、ざぷんと勢いよく湯船に沈む。


『じゃ、じゃあ、そういうことですから、我慢ですよ? ……おやすみなさい』


 俺の返事を聞く前にビデオ電話は切られてしまう。

 ……ちょっと外でも走ってくるか。そうしないと今日は眠れそうになさそうだ。


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