第9話:和解的なアレ

 真中ミズキ……俺はクイナと共に正座しながら、プンスカと怒っている彼女を見る。


 彼女、真中ミズキという人物の説明をするには、それなりにこの世界のことも共に説明しなければならない。


 異能力者というものは、ある程度遺伝的な要素もあるが異能の名家のサラブレッドであろうと目覚めないこともあれば、反対に身内に誰も異能力者がいなくとも突然強力な異能力者が産まれることもある。


 それゆえに、古代から国や権力者達はその対応に駆られていた。

 日本ではその対応のために陰陽異能庁……現代の超常災害対策局に繋がる組織を作り、優秀な異能力者に野良の異能力者を狩らせた。


 その狼狩りの犬っころが五代名家であり、彼女はそのひとつの異能に関する異能の家、真中家の神童だ。


 分かりやすく『異能を無効化する異能』という、異能力犯罪に対してあまりに有効な能力。

 あまりそこらへんの事情に詳しくない俺でも真中ミズキが大層可愛がられてきたことは知っていた。


 その真中家の集大成は……まぁ、愛知リュウという自警団をやっている謎の男に引っかかってその男のところに転がり込んでいるという感じだ。


「さて……と、これはなんですか?」

「え、えーっと、バニーガールの……衣装、です」


 真中ミズキは手に持ったチラシを丸めて作った棒で俺をひったたく。


「アイタァ! ち、違うからな、俺が着せたとかじゃないからな! なんかクイナが勝手にカゴに入れてきて……!」

「わ、私のせいにしないでください! 冗談で入れたらそのまま買われちゃったんですよ! 普通に着るの恥ずかしかったんですからね!」


 俺のせいじゃないだろ!

 と思っていると、正座している俺とクイナの膝の上に謎の瓶が置かれた。


「今からあなた達がよくないことをしていたら、その度にインドのお土産のスパイスを膝の上に乗せていきます」

「何故!?」

「手頃な重さのものがなかったので」

「だとしても他になんかあるだろ!?」


 スパイス漬けになってしまう……。というかビン越しにカレーっぽい匂いがしてくる。


「ちなみに悪いことをした方ではない方に重りを足していきます」

「デスゲームの主催者みたいなやり口!」


 コスプレは……クイナが悪いだろ……!

 そりゃニヤニヤしたクイナ相手に負けたくなくてそのまま買ったりとか、その後部屋で着てもらったりしてちょっと盛り上がったけど……!


「くっ、い、いいじゃないですか! そっちが愛知さんとまだ付き合えてないからって嫉妬しないでください!」


 ミズキは真顔で俺の膝の上にスパイスの瓶を積む。

 江戸時代の拷問みたいだ……。


「く、クイナ。やめるんだ。反論すればするほど俺の方にダメージがくるから」

「大丈夫、私にはダメージないので!」

「相変わらずカスみたいな性格してるなこのガキ……!」


 俺とクイナがわちゃわちゃと話しているとミズキは悲しそうな表情でクイナを見る。


「クイナがいい子にしていたら、このことが落ち着いたあとにインド旅行に連れていってあげようと思ってたのに……」

「どちらかというと行きたくないです。インド……」

「な、なんで!?」

「いや……ミズキさん、インドから帰ってくるたびに「二度と行くか!」ってブチギレてるじゃないですか」

「旅行中と帰ってきた直後はキレるけど、なんかまた行きたくなるんですよ……!」


 こうしてみるとこの二人は似てるなぁ。

 まぁクイナの面倒を見ていたのもミズキが主なはずなので、口調が移ったのかもしれない。


「じゃあどこに行きたいんですか、旅行」

「ヤクさんと足立区に新婚旅行で行くのでいいです!」

「足立区に新婚旅行は嫌だよ……」

「やっぱりインドですよね。というか、結婚なんて許しませんからね!」

「……まぁそこに関してはクイナが浮かれてるだけだから気にせず」

「はあ!? 手を出しておいて責任を取らずに逃げるつもりですか!?」

「ど、どう答えたらよかったんだ……!?」


 クイナと俺の膝の上にスパイスがひとつずつ置かれる。


「スパイス買いすぎだろ……。なんで黒髪ストレートのやつがインドにハマってスパイス大量に買ってるんだよ……!」

「しかも私の家に置いてくるんですよ。この人」

「実家に置くと台所がスパイスの匂いになるって怒られるので」

「だからって人の家に置くな……!」


 俺の膝の上にスパイスが積まれる。


「ぼ、暴君だ……」

「このままだとヤクさん自身がカレーになってしまう……!」

「そうはならんけども」


 俺とクイナを見て、ミズキはソファに座ってため息を吐く。


「あのですね、クイナ。私は別に恋をしてはいけないと言っているわけではないのです。ただ、まだあなたは子供で、節度を持って……」

「持ってますもん、セツド? 百個ぐらい!」

「節度を持ったことない奴のセリフだ……」

「とにかく! ヤクさんとのことでミズキさんに何か言われることはありません! ちゃんとお世話しますから! ご飯もあげますし、散歩も連れていきますから!」

「犬か? 俺は」

「ダメです! どうせすぐにお世話をやめてママがすることになるんですよ!」

「ママじゃないだろ」


 俺は真中ミズキの方を見て口を開く。


「まぁ……その、俺も別にクイナを弄んでやろうと思っているわけじゃないから」

「そうですよ! ヤクさんは女の子と手を繋ぐのも照れるような人だったんですからね!」

「余計なことを言うな」


 真中ミズキはむっとした表情でクイナを見る。


「クイナのような子供と交際なんて、ロクな人じゃありませんよ」

「いい人だから好きになったわけではありません」


 俺で……俺のことで争わないで……。

 俺は膝に乗っている瓶を床に置いてから立ち上がる。


「……あんまり喧嘩するなよ、クイナ。心配してくれてるんだから」

「頼んでないです」

「それで……真中ミズキ。……その、まぁ、クイナのことちゃんと好きだから……見逃してはもらえませんか……?」

「ちゃんと好きなら節度を持ってください」

「正論すぎて何も言い返せない……!」


 彼女はため息を吐いてからじとっとした目で俺を見る。


「……それで、今日はなんでここにきてるんですか」

「ああ……差し入れと、あと学校がほとんど機能してないから勉強を教えようかと」

「……それならいいですけど。……カレー、食べていきますか?」

「えっ、ミズキさんまだいるんですか? イチャイチャ出来ないじゃないですか」

「……」


 真中ミズキの冷たい目が俺を捉える。

 余計なことを言うなよ……。

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